元ドイツ証券副会長「中国叩きのトランプ関税は日本経済にとって大チャンス」日経平均10万円への確かな道筋

経済や投資に関する多数の著書を持ち、みんかぶマガジンでもご執筆いただいている株式会社武者リサーチ代表で元ドイツ証券副会長の武者陵司氏。これまで日経平均株価の推移などを見事に言い当ててきた武者氏の発言に注目する個人投資家は少なくない。
そんな武者氏に、アメリカのトランプ政権の政策や日本経済の展望、さらには今後の日経平均株価の行方などについて幅広く話を伺った。短期連載全3回の第2回。
目次
トランプの中国抑制政策は日本にとって「大チャンス」
——中国を弱めると日本経済にも影響があるのでは?
トランプが打ち出している政策は日本の経済と株にとって極めて良いことなのです。なぜかというと、トランプのやろうとしているのは中国叩きであり、中国のプレゼンスを下げることだからです。
実は、中国にやられてきた度合いで言えば日本が最も深刻でした。円高やアメリカによる日本叩きもあり、日本企業は国内工場を閉鎖して中国に移転してきました。これが日本に戻ってくるのは良いことですよね。
製造業の中でも労働集約的なものはさらに賃金の安い国々に移るでしょうが、付加価値の高い製造業は日本に戻ってくるでしょう。例えば半導体製造です。世界の半導体は台湾、韓国、日本、中国という東アジアの4カ国でほぼ独占しています。その中で中国が叩かれれば、日本のシェアが上がるのは必然です。
——半導体産業は日本の復活に重要だということですね。
世界の半導体製造はアジアの4カ国に集中していますが、これは日本が存在したからこそです。日本がリストラによって人材や技術をアジア周辺に提供した結果、韓国や台湾、中国が強くなりました。
今後、中国のプレゼンスが下がれば、日本が浮上するでしょう。TSMCが熊本に工場を建設したのも象徴的です。TSMCは世界最先端の半導体の8割を台湾で生産していますが、有事の際のリスク分散のために日本の熊本とアメリカのアリゾナに拠点を作っています。そしてアリゾナと熊本を比較すると、労働力の質や文化的親和性から圧倒的に熊本が有利なのです。
また、半導体技術の変化により、チップレットのような複合的な加工が重要になってきており、この後工程の技術基盤も日本にあります。材料メーカーも日本に集積しており、TSMCがつくばに研究機関を設置したのも、日本の後工程技術を評価しているからです。
日経平均株価「5万円」「10万円」への道筋
——日経平均の見通しについてはいかがでしょうか?今後5万円、10万円という目標は達成可能でしょうか?
トランプの関税政策があっても、日経平均5万円への見通しは全く変わりません。今年5万円になったって不思議はないと思いますし、来年中にはなるだろう、と。それに今年は、ひょっとしたら大相場になりますよ。トランプ騒動で大きなディップができたので、絶好のスプリングボードを与えられたという可能性もあると思います。
年初来で日本株は22%以上下落し、世界で最も株価が下がった国でした。他方、ドイツや韓国は年初来でプラスです。日本とアメリカが大きく下落した理由は、トランプ関税だけでなく、昨年の大幅上昇の反動という側面もあります。
しかし、このような大きな調整後は反発も大きくなるものです。外国人投資家は2023年以降で約10兆円も売り越していますが、国内投資家、特に企業の自社株買いが増えており、市場の足腰は強くなっています。
企業の自社株買いは2022年の14兆円から2023年は21兆円と5割増加しました。東証や金融庁が、株主利益を尊重するファイナンシャルマネジメントをやりなさい、PBRを高める政策をやりなさいって言っていますよね。ということで、遊んでるお金を遊ばせずに自社株買いをして、ROEを高めると。その結果PBRが上がるという、かつてハゲタカファンドが求めてきたような方向に日本全体が向かってるわけです。
配当も増えており、日本企業の配当のGDP比率は6%で、アメリカの4%を上回っています。外国人が売っても株価が戻るのは、国内投資家の需要が強くなっているからです。その上でトランプのやることがまともだと、そんなにめちゃくちゃじゃないんだということが見えてくれば、これは年の後半すごいことになりますよね。
——日経平均10万円はどのくらいの期間で到達するとお考えですか?
アベノミクスが始まって以降、株価は年率14%程度で上昇しています。この調子でいけば、あと7〜8年で10万円に到達するでしょう。10%成長でも10年で10万円になるので、そんなに遠い将来の話ではありません。
内需回復でこれからは中小型株に注目
——半導体以外で注目している分野やテーマはありますか?