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2004年から始まった「女性の貧困」と2017年から始まった「中年男性潰し」の意外な相関関係…女性による逆襲はこれからも続く

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『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)で、貧困化する女性の実態を取材し、描いたライターの中村淳彦氏によれば、日本人女性の貧困のすべては2004年から始まったという。そして、歌舞伎町で起きている街娼たちの地獄も、「中年男性潰し」も、「女性の貧困問題の地続き」。格差社会が生んだ社会病理である。みんかぶプレミアム特集「格差社会サバイバル」第9回。

目次

女性の貧困には必ず社会病理が起因している

 筆者は女性の貧困や売春をテーマにしているライターです。

 書いていることを簡潔にいうと、女性の貧困や売春には必ず現在を迎える理由があり、「その理由は必ず現時点での社会病理である」ということです。病理に侵されているその理由のエリアは、意識の改善や適切な支援、法規制などの改善が必要となってきます。編集部からの依頼は「現在における貧困女子がどのような状況に立たされているか?」とのことなので、まず、女性の貧困の最悪期から振り返りましょう。

 女性の貧困のピークは、筆者がちょうど『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)の取材をした2017年〜2018年でした。2010年代に女性の貧困が吹き荒れ、転落する女性の規模が大きすぎてまさに猛威という状況でした。

 このまま女性の貧困を放置すれば、女性の売春はさらに蔓延して、スラムができかねない危機的な雰囲気でした。ピーク時の女性の貧困が大規模だったのは、原因が国の方針や政策にあったからです。法律や国の制度、緊縮財政の方針、過去から踏襲される国民の男尊女卑の意識がカオス状態となり、2010年代後半に女性の貧困という事象となって噴出したのです。

 具体的には1999年~2004年の労働者派遣法改正で、雇用が非正規労働に置き換わり、女性がターゲットにされたことからはじまります。雇用は人が生きるための大切な土台ですが、そこを規制緩和したことで悲劇がはじまりました。

 リベラルっぽくならないように書きますが、女性をターゲットにした非正規雇用は壮絶なる最悪な結果を生みました。2002年に大学生の就職率は過去最悪、圧倒的な買い手市場のなかで、企業はまず女性から非正規雇用の低い賃金で働かせました。

 就職難なのでどんなブラック労働、パワハラ、セクハラを繰り広げても人は辞めません。辞めたとしてもすぐに補充ができます。サービス業と福祉職を中心にブラック労働が蔓延。サービス残業の12時間労働は普通、ひどい会社だと15時間くらい平気で働かせました。この時期にワタミなどの労働集約型事業の企業が急拡大しています。

 さらに日本の伝統である男尊女卑や家庭内のモラハラが噴出し、離婚が急増。母子家庭が激増して、女性と子どもの深刻な貧困がはじまりました。非正規女性のシングル家庭の就労収入は100万円台が普通になり、一方正規職の共稼ぎ家庭はパワーカップルとなって格差が生まれたわけです。

楽しいはずのキャンパスライフが貧困の温床に

 もうひとつ、女性の貧困の大きな出来事が2004年に行われた大学奨学金制度の改変です。大学奨学金の金融事業化は、その後の日本にとてつもない暗い影を残しました。深刻なデフレで混乱するなか、学費は高騰。そのような状況で大学奨学金が無利子から有利子貸与となり、世帯収入が低い家庭の子どもに大きな借金を背負わせました。

 大学は憧れのキャンパスから貧困の巣窟となり、当然の結果として女子学生の夜職、パパ活、風俗、売春が蔓延します。以前のように「遊びたいから夜職」だったらよかったのですが、2004年から繰り広げられたのは学生生活を送るための売春でした。言い方を変えると、気持ち悪いアラフィフ中年男性に肉体を提供した女性から、キャンパスライフが許されるという、とんでもないことになったわけです。

 大学が貧困の巣窟となってから、高偏差値のインテリ学生、優等生、男性経験のない学生まで、親の世帯収入が低い大学生が続々と夜の世界に飛び込みました。生涯未婚男性の増加も重なって、真面目でおとなしい女子学生が働くようなロリ系風俗では本番強要などの性暴力が蔓延、多くの大学生がひたすら中年男性に強姦されるみたいな地獄の大学生活を送っています。

 当時、筆者は大学のあまりの異常な状況を与党、野党の政党や国会議員に報告しましたが、政治が動くことはありませんでした。売春の実態は根拠となるデータがありません。客観的な根拠を示せないので声をあげにくいこともありますが、政党は学費高騰や奨学金制度に問題あることは理解してくれるものの、成人のお金の問題は後回しでした。財政の緊縮が最優先の課題というなかで、直接そうは言っていませんが、「女子学生が風俗やパパ活を強制されるのは気の毒だけど、別に学べるならばいいじゃないか」という落ちどころです。

 大学に夜職や売春が蔓延してから15年間が経ちました。筆者は100人以上を知っていますが、ほとんどは企業に就職し、母親になり、学生時代の悪夢は忘れて普通に生きています。しかし、大学の状況は悪化の一途で親の世帯収入が高い旧帝大以外は、どこの大学も女子学生の夜職や売春は常識という状態が続いています。

 たまたま国の風潮や政策で優遇された中年男性が、時代的に恵まれなかった女子学生を欲望剥きだしで買い漁り、学生の継続を餌にして徹底した性搾取を続けています。大学奨学金制度は「売春は常識」「学びたいならば、中年男性にカラダを売れ」という、これまでの日本では考えられない最悪としか言いようがない結果を生み、その絶望は現在進行形で継続しています。

「働き方改革」で迎えた大きな転機

 日本の少子化は2000年代に団塊ジュニア世代、氷河期世代が結婚・出産しなかったことが理由です。若者を貧困に落とし、大学が売春の巣窟になっても改善することなく、就職も団塊の世代の雇用を守るために氷河期を創りだしました。痛めつけた若者を最終的に非正規で徹底的にブラック労働させたことで、取り返しのつかない少子化がはじまりました。

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この記事の著者
中村淳彦

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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