中指立ててヤジ飛ばす男性vsコンサバ系シゴデキ丸の内OL風の参政党さや「人は見た目で判断してはいけないけど…」投票には影響したのか

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 参議院選挙で躍進した参政党。参政党の主張には科学的根拠に乏しいものもあり、警戒する声もある。その一方で東京選挙区で当選したさや氏など、ビシっとスーツで決めたその姿は「丸の内の『シゴデキ』ビジネスパーソン」のイメージそのものだった。極右政党などともいわれる参政党だが、入れ墨スキンヘッドのネオナチ集団とはかなり見た目が異なる。雑誌・月刊Hanadaの創刊メンバーで元同誌編集者として数々の政治を取材してきた梶原麻衣子氏は「ファッションはアイデンティティを示すものでもあり、判断材料の一つにはなり得る」と指摘する。梶原氏が解説するーー。

目次

人を見た目で判断してはいけない。それはその通りなのだが

 夏の参院選の選挙期間中、あるターミナル駅の駅前に、普段その界隈では見かけない出で立ちの一団が集まっていた。男女ともに中年のように見えたが、カラフルな髪色、ヨレたTシャツやダメージジーンズに身を包んでおり、一体何が始まるのかと行き交う通行人は見るとはなしに一団を気にしている気配であった。

 その後、登場したのは参政党の関係者。「普段あまり見かけない出で立ちの一団」は、参政党に対するカウンターデモを行うために駅前に集まっていた反ヘイト系の人々だとわかった。

 人を見た目で判断してはいけない。それはその通りである。しかし自ら選んで身につけているファッションはアイデンティティを示すものでもあり、判断材料の一つにはなり得る。しかも、一団は服装からして似たような雰囲気を醸しており、それによって仲間意識を共有しているであろうことが、周囲の人間にも伝わってきた。本人たちも、ある意味では「パンチのある服装」に誇りを持っているだろうと思う。

 一方の参政党はこの選挙戦中の振る舞いを見ても分かる通り、男女ともにコンサバ系の服装を保っている。神谷宗幣代表はポスターでもスリーピーススーツのベストをワイシャツの上に着た写真を使っているし、真夏の選挙戦でも白シャツか、黒やオレンジの襟付きポロシャツなどを身につけている場面が多かった。参政党の女性候補もコンサバ系。報道番組の女子アナのような、控えめな清楚系の服装でトーンを統一していた。

 参政党に限らず「選挙候補者服装・髪型コード」とも言うべき、清潔感と誠実さを感じさせる一定のトーンは存在する。だが参政党は意識的に服装を合わせているようだ。政党カラーであるオレンジを身につけるほかに、女性候補にありがちなショッキングカラーのジャケットなどは着用していない。

「オフィス場面用のフリー素材写真のモデルみたい」

 ある人は、参政党候補で参院議員に当選したさや(塩入清香)氏を「オフィス場面用のフリー素材写真のモデルみたい」と評していたが、確かに見た目や服装の、良くも悪くもパンチのなさが、かえって幅広い支持を得られた面はあるだろう。つまり、ある種の「感じのよさ」が間口を広げたという点だ。

 これは国民民主党が耕した畑でもある。今回の参院選ではNHKのアナウンサーだった牛田茉友氏を東京選挙区の候補に取り立てたが、牛田氏も清潔感や清楚さを含む「感じのよさ」がある。玉木雄一郎代表や榛葉賀津也幹事長がどんなに暑くても白シャツを着ているように、国民民主もスマートな「感じのよさ」を全面的に打ち出してきているのだ。

 参政党のトンデモ政策や保守系とみられる政策や価値観を知る人々は、国民民主と参政党が代替可能な位置付けだとは思っていないかもしれないが、実際には国民民主党に期待しつつも選挙前のゴタゴタや夫婦別姓に対する賛否が明確でない態度などに見切りをつけた人が参政党支持に流れたという分析もある。この二党のパブリックイメージは実は似通っており、そこに共通するのが、内実とは無関係の、表向きの「感じのよさ」なのだ。

10年前に流行った「#自民党感じ悪いよね」

 この「感じのよさ」は支持を左右する。10年ほど前にはこれを逆手にとって、SNSで「#自民党感じ悪いよね」というハッシュタグが流行したこともある。近年では「SNS選挙」が叫ばれるが、その実態は動画による刷り込みであり、テキストよりも画像や動画が力を持つようになった。視覚情報は、テキストの何倍もの情報を瞬時に伝える。それだけに印象操作にも使われるのだが、だからこそ動画時代には「見た目の印象」「そこから受ける『感じ』」がものをいうのである。

 参政党と反ヘイト団体、双方が激しくぶつかったのが選挙後の8月8日に新宿駅前で行われた参政党の街宣とそれに対するカウンターデモだった。煙幕が張られたという画像や映像も出回っているが、カウンター側は「ミスト」と主張。いずれにしろ、演説者のみならず周囲の聴衆や通行人にも影響の出る手法に、反ヘイト支持側からも非難する声が出ている。

威圧的な様に対しては抵抗感を持つ人も多い

 手法自体もそうだが、コンサバ系の参政党に、かなり個性的な出で立ちの人物を含むカウンターデモのメンバーの対比が、周囲の人々にどのような印象を与えるかも考えたほうがいいのではないか、と老婆心ながら思う。

 もちろん街頭で「ヘイトをやめろ!」などと声を浴びせられている参政党議員を見て、「ああ、参政党はヘイト団体なのだな」と理解する人がいないわけではない。だが、演説を妨害し、中指を立てる行為それ自体をよく思わない人もいる。言論に対して、理ではなく圧力で黙らせようとしていると見えてしまうからだ。そこにいる誰もが、「その場で行われていることの文脈」を理解できるわけではない。威圧的な様に対しては抵抗感を持つ人も多いだろう。

 マーク・リラ『リベラル再生宣言』(早川書房)は、〈街に出ての抗議運動、大声をあげる、暴れるなどということをしても、やはりそれだけでは何も動かない〉とリベラル派の「議会より路上」的な政治活動の限界を指摘したうえで〈民主政治で重要なのは、他人を説得することであって、自己表現ではない〉と説いている。

 参政党から支持者を引き離すと同時に、カウンター側も抱き着きで双方ともに支持を失って構わない、相討ちだというならそれはそれで戦術のひとつだとは思う。だが、そうではないというなら、つまり「自分たちの行動は広く市民から支持されるべきである」と思うのであれば、やはり服装や振る舞いにも気を配るべきだろう。

「近寄りがたさ」や「排他性」の点では共通する部分

 これには保守派サイドにも苦い経験がある。在特会を始め、これまで行われてきた保守派のデモや抗議活動は、いかにもその筋の人たちが参加しているといった様相で、通りがかった人がその場で参加できるような雰囲気ではなかった。反ヘイト団体の方は保守派の「ダサい」デモと一緒にされては不本意だろうが、一歩外側から見た場合の異質ぶりや、内輪の同質性、つまり「近寄りがたさ」や「排他性」の点では共通する部分があると言わざるを得ない。

 2015年の集団的自衛権反対デモの時には、ラップや英語ロゴを使った「おしゃれな」抗議活動がブームとなり、その中心にいた学生団体SEALDsは一躍ヒーローとなった。「あのような、キラキラした活動を保守派も見習うべきだ!」と言われた時期もあったが、あれはあれで尖った雰囲気もあり、当時、メンバーと同じ世代の大学生からは「鼻につく」との声も聞いた。

 一方、参政党はコンサバ系という違う形で一般にも受け入れやすい「感じのよさ」を醸し出すことに成功している。先日、参政党の神谷代表と、ドイツの「極右政党」と言われるAfDの共同党首のティノ・クルパラ氏の会談が報じられたが、神谷氏が自身のSNSにアップした両者の写真は、いわゆる「極右」のイメージとはかけ離れたものだった。

いわゆる「極右」のイメージとは違う”コンサバ系”の参政党

 ドイツの極右、ネオナチと言えば2000年代までは坊主頭にタトゥー、ピアスと言った出で立ちの「スキンヘッズ」がイメージされたが、クルパラ氏からはそうした尖った様相はうかがえない。淡色のセットアップにメガネの写真を見る限り、聡明な学者のような雰囲気を醸している。一般的な感覚では参政党にカウンターをくらわせたコアな人々の服装の方が、よほどスキンヘッズっぽく見えてしまう。要するに、ちょっと輩っぽいのだ。

 海外の過激組織を潜入取材したユリア・エブナー『ゴーイング・ダーク―12の過激主義組織潜入ルポ』(左右社)によれば、ドイツでもネオナチの一部はかつてのような主張の激しい服装、言動をやめて「感じの良さ」を出す路線に切り替え、セミナーまで開いているという。また、アメリカの極右組織は「見た目がパッとしない者(病的に太っている、醜いなど)は、イベントに出てこず、家で自分磨きをしろ」とのルールを定めている。集団としての「感じの良さ」を醸し出すためだ。

 参政党の「感じのよさ」が侮れないのは、服装のみならずこうした欧米の右派の躍進から多くを学んでいる可能性があるからだ。

丸の内OL風の候補者に中指たてれヤジを飛ばす男性の構図

 右派とされる側が「感じのよさ」を意識するのは、右派が危険視される存在であることを自覚しているからであろう。ではカウンター側が「威圧感」を出すのはなぜかと言えば、自分たちは抵抗する側であるという意識と同時に、抵抗を示すカウンターカルチャーがかっこいいものだという自意識があるからだろう。

 だが、客観性という点ではどうか。丸の内OLのようなコンサバ系ファッションの、特に女性候補者(議員)の演説に、いかついカウンター系の、中でも男性がヤジを飛ばし、中指を立てる光景が、外側にいる大衆にどのような印象を与えるか。

 内輪の論理は仲間意識と結束を強めるが、外への広がりを欠く。抗議活動を「プロテスト」と呼ぶなどの習慣も、外側にいる人間からすれば「プロゴルファーになるための試験のことか?」と全く通じないのだ。

 筆者がカウンター側に「アドバイス」を送る立場ではないのは百も承知しているが、参政党の躍進を危惧するものとして一言いうならば、この動画・画像全盛時代には、「どうみられるか」の視点を意識すべきだということになる。参政党がそれをかなり意識的にやっていると考えられる以上、カウンター側にも客観性と相応の戦略がいるだろう。

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