新米5キロで5000円突破!今日も自民党は補助金漬けで日本の農家を腐らせる…「在庫は十分」と言い張った農水省の大誤算

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 物価高の波が家計を直撃する中、主食であるコメの値段が記録的な上昇を見せている。農水省は、8月31日までの一週間、全国のスーパー販売されたコメの平均価格が5キロあたり3891円と、わずか1週間で115円値上がりしたことを発表。さらに流通関係者を対象にした調査では、今後3カ月の価格見通しを示す指数が23ポイント上昇し、調査開始以来最大の上げ幅を記録した。こうした現象は一過性ではなく、農政の構造的な問題を映し出すものにほかならない。市場の調整機能が働かず、消費者が負担を強いられる状況はなぜ繰り返されるのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が、その背景に潜む政府の“愚策”を解き明かす。

目次

新米5キロ5000円超えの異常 家計を苦しめる“無為無策”のツケ

 日本の食卓に欠かせないコメの値段が高値をつけ、そして、日本政府が相変わらずの無為無策を連発した結果、高値は高値のままだ。

 一部の地域では、新米が5キログラムで5000円を超えるという、これまでにない異常な価格で売られ始めた。多くの家庭が日々の食費に頭を悩ませるこの「令和の米騒動」は、夏の猛暑や水不足といった自然現象が主な原因ではない。

 長年にわたる政府の誤った農業政策が引き起こした、防ぐことができたはずの「人災」なのである。問題の根っこには、国民の生活実態から目をそらし、本来の役割を果たしていない農林水産省、そして一部の政治家や関連団体だけが得をするような古い仕組みを温存してきた、根深い構造的な問題が存在する。

 今回の価格高騰の直接の引き金を引いたのは、農林水産省の致命的とも言える判断ミスである。農林水産省は、国内のコメが不足し始めているという市場からの危険信号を長い間無視し、国民に対して正確な情報を伝えなかった。「コメの在庫は十分にあります」「お店に並ばないのは、流通の過程で一時的に滞っているだけです」といった説明を続けたのである。最終的に、事務方のトップである渡邊毅事務次官が公式に間違いを認めて謝罪するに至ったが、一度失われた行政への信頼を回復するのは容易ではない。

新米高騰の裏側にある“人災” 農水省の責任は極めて重い

 なぜこのような初歩的なミスが起きたのか。それは、食料を安定的に国民へ届けるという最も重要な責務よりも、何よりも米価を高く維持すること自体が目的化してしまった、農林水産省の時代遅れの組織体質に原因がある。2023年にどれだけのコメを作るかという生産目標を決める際、政府はコロナ禍が終わり、外食産業やインバウンド観光客の増加によってコメの需要が回復することを見通せなかった。需要が増えることが予想される中で、あえて生産量を抑える目標を立て続けたのである。これは、意図的に供給量を絞って価格を吊り上げる「減反政策」を、形を変えて続けているのと同じことだ。コメが余ることを過剰に恐れるあまり、結果として国民の食卓を脅かす事態を招いた農林水産省の責任は極めて重い。

「ジャブジャブ下げる」と大見得切って3割未達 小泉進次郎農水相の失政

 価格高騰に拍車をかけた大きな要因の一つに、農家がコメを出荷する際の指標となる価格(概算金)が異例の高水準で設定されたことがある。この指標価格は市場全体の価格形成に大きな影響を与えるため、その高騰は最終的に小売価格に反映され、消費者が大きな負担を強いられる構造になっている。市場の需給バランスを反映するはずの価格が、生産量が増加する見込みの中でも高止まりする背景には、複雑な流通の仕組みや政策への期待が絡み合っている。例えば、生産量が増えても、政府が市場の安定を目的として備蓄米を買い入れるという期待があれば、価格は下がりにくくなる。このような政策のあり方が、市場の自然な価格調整機能を歪め、消費者にとって不利な状況を生み出しているのである。

 この混乱のさなか、小泉進次郎農林水産大臣の対応は、問題の根本解決には至らず、その場しのぎの対策に終始したと言わざるを得ない。備蓄米の放出を始めた当初は「コメの値段をジャブジャブにして下げる」と、消費者の味方であるかのように力強く語った。しかし、実際には計画の詰めの甘さから、契約した量の3割も業者に届けられず、多くの小売店がキャンセルせざるを得ないという大混乱を引き起こした。

 8月末までと約束していた販売期限をあっさりと延長したのも、自らの計画の失敗を取り繕うための行動に過ぎない。

減反が生んだ非効率 やる気がある農家を“潰す”

 いつの間にか消費者目線は薄れ、「農家の方にとっては、あいつふざけんなと思ったでしょう」と、生産者側の感情に配慮する発言が目立つようになった。問題の根本にある、生産量を制限する政策や補助金に頼り切った農業の構造には一切メスを入れず、旧来の農業政策の枠組みの中で事を収めようとする姿勢は、国民の期待を裏切るものであった。

 今回のコメ騒動は、日本の農業政策が長年抱えてきた矛盾が、ついに隠しきれなくなって噴出した、必然の結果である。生産調整、いわゆる減反政策は、やる気と能力のある農家が規模を拡大し、技術革新によって生産性を上げる意欲を削いできた。一方で、比較的小規模でコスト効率の悪い農家が、農業から離れることなく存続できる環境を作ってきた。国民は、高いコメを買わされるだけでなく、その非効率な生産構造を維持するための補助金や、関連する公共事業にも税金という形で間接的に負担を強いられており、二重三重の負担を背負わされているのである。

小手先改革では無意味 補助金制度そのものが抱える致命的欠陥

 こうした補助金漬けの政策がもたらす弊害は、日本だけの問題ではない。ブルーノ・モランド、キャロル・ニューマン両氏による論文『資本の誤配分、農業補助金と生産性:欧州の視点』は、欧州連合(EU)の農業においても、政府の補助金が生産性の低い農家を不当に生き残らせ、資本や土地といった貴重な資源が、やる気と能力のある生産性の高い農家に集まるのを阻害している現実をデータで証明した。

 その結果、農業全体の生産性が21%も失われたと結論付けている。さらに衝撃的なのは、補助金の支払い方を変えるといった小手先の改革では、この悪い効果は全く改善されなかったという事実だ。これは、補助金という政策自体が、本来は市場原理の中で淘汰されるべき非効率な経営を温存させ、農業全体の活力を奪うという仕組みそのものの欠陥を抱えていることを示している。日本が続けている、非効率な農家を補助金で守る政策は、欧州で既に失敗が証明された道をわざわざ追いかける、極めて愚かな行いなのである。

 この国を揺るがす危機的状況を乗り越えるには、根本からすべてを変える改革が絶対に必要だ。第一に、市場原理に逆らって価格を無理やりコントロールする生産調整政策は、今すぐ完全にやめるべきである。

生産調整と補助金依存を即刻廃止せよ 日本農業再生の唯一の道

 第二に、非効率な農業を温存させるだけの補助金は見直し、真に競争力強化に繋がる支援に集中させるべきだ。農家が自らの経営判断で自由に生産・販売できる、開かれた市場環境を整備する必要がある。

 農林水産省は、過去の政策の失敗を真摯に反省し、国民のための食料安全保障を第一に考える組織へと生まれ変わらなければならない。そして何より、一部の政治家と団体だけが得をするような利権の仕組みを徹底的に壊し、農業政策を国民の手に取り戻さなければならない。日本の農業が再び元気になる道は、あらゆる古い規制をなくし、農家に自由な経営を認めることしか残されていない。意欲と能力のある農家が、世界と戦えるだけの効率的な農業を自由に展開できる環境を整えることこそが、私たちの食卓と国の未来を守る唯一の方法である。

 今回の「米騒動」は、単なる食料価格の高騰ではなく、長年にわたる政府の農業政策の失敗が引き起こした「人災」に他ならない。輸入米への過度な依存、国内生産者への支援不足、そして食料自給率の軽視が、国民の生活を脅かす事態を招いた。この問題は、日本の食料安全保障と国民の食卓を根本から見直す喫緊の課題であり、抜本的な政策改革なくして、真の解決はあり得ない。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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