歳費返納の意向は取り下げたい…参政党・初鹿野議員に「公選法違反の恐れ」元NHK党秘書が説明求める!南京事件否定も「中国の宣伝資料になる」

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 参政党の初鹿野裕樹議員が当選前に掲げていた「歳費自主返納」の宣言を撤回したことが女性自身の記事によって明らかになった。記事は「歳費返納の意向は一度取り下げたい」という本人の文書回答を掲載した。選挙前からSNSや演説で「歳費を返納する」と繰り返し発信していたため、それを見聞きした有権者はその訴えに期待したことだろう。当選後に一転して撤回したという事実が報じられ、SNSでは「公約違反」「裏切り」との批判が噴出し、関連投稿は100万回以上表示される等一気に炎上に発展した。初鹿野議員は、女性自身の記事が公開される以前に、既に得ているはずの議員歳費を返納していないことについて、初鹿野議員は自身のXで「現行制度では返納できない」「誤解を招いた」等と釈明したポストを投稿しているが、納得する声は少なかった。

 この問題について元NHK党の公設秘書でコラムニストの村上ゆかり氏は「公職選挙法に抵触する恐れのある危険な行為」と指摘する。村上氏が詳しく解説していくーー。

目次

そもそも、国会議員が歳費を自主返納することは禁止なのに

 そもそもだが、国会議員が受け取った歳費を国庫に自主返納することは、公職選挙法第199条の2が定める寄附行為の禁止に抵触する。寄附行為とは「候補者や議員が金銭その他財産上の利益を寄附として提供すること」を指し、相手が選挙区内の個人や団体であれば当然のこと、国であっても「寄附」に含まれると解釈されている。したがって、現行制度の下では議員が個人判断で国庫返納を行うことはできない。

 国庫寄附金について、過去には特例が設けられたことがある。2019年の歳費法改正(法律第43号)の附則には「参議院議員が令和四年(2022年)七月三十一日までの間に支給を受ける歳費の一部を国庫に納付する場合においては、当該納付については、公職選挙法第百九十九条の二の規定は、適用しない」と記された。この附則により、参議院議員は期限付きで歳費の一部を国庫へ自主返納できた。この事例を見ても明らかなとおり、歳費返納を実現するためには立法措置が不可欠であり、制度的な枠組みを作らない限りは不可能である。

 初鹿野議員は釈明の中で「自分の発言は法改正がされた場合に返納する趣旨であり矛盾はない」と主張した。だが当初の発言やSNS投稿を調べたところ、「法改正をしたら」という条件が明記された投稿は一部を除いてほとんどなかった。

公職選挙法に抵触する恐れのある危険な行為

 街宣活動等の際に、「法改正をしたら」という条件を発していた時があったかもしれないが、今年の参議院選挙を終えるまでの初鹿野議員の投稿は「法改正をしたら」という条件が示されていない投稿のほうが目立っており、その投稿を見た国民からは、直ちに返納するとの印象を与えた可能性が高く、有権者の誤解を招く余地は大きいだろう。法改正を目指す意図があったとしても、それを明確に説明せず選挙戦で強調したことが問題の根幹であり、そもそも法改正という条件を記載せずに「歳費を返納する」と選挙前にX等で訴えることそのものが、公職選挙法に抵触する恐れのある危険な行為ではないか。

 女性自身の記事によると、本人は撤回を表明しているが、会見を開いたり党として説明を行ったりすることはなく、文書回答だけで対応を終えている。政治家には当然、自身の発言に対する説明責任がある。仮に初鹿野議員本人が発言当初から法改正後に返納するつもりで発信したものだったとしても、誤解を与えた国民が一定数存在し、実際に炎上したのであれば、説明責任は果たすべきだろう。ましてや、発信者は国会議員である。「自分の発言は法改正がされた場合に返納する趣旨であり矛盾はない」との初鹿野議員の主張は、誤解を与えたことに対する説明責任としては不十分ではないか。

大きな波紋を呼んだ「南京事件否定」発言 

 この問題は本人の過去の炎上事案とも結びつく。外国人優遇デマ投稿として炎上した事案では、生活保護について「外国人は受給する権利がないのにもかかわらず支給され、日本人はなかなか受給できない」「日本人が困っているのに外国人ばっかり」などと発言し波紋を呼んだ。「仲間が共産党員により殺害された」等と発信した際は、根拠がなく虚偽とされ日本共産党が名誉毀損で刑事告訴したことが報道され、大きな話題となった。街頭で抗議者に「非国民」と発言したことも批判が集中した。いずれも過激すぎる発言や、事実誤認が大きな炎上に発展している。

 特に、南京事件否定発言はさらに大きな波紋を呼んだ。本人は「南京事件は捏造」「中国のプロパガンダ」と述べた。

 外務省公式サイト「歴史問題Q&A」には次の記述がある。

南京事件、日本政府見解の重要ポイント

問6 「南京事件」に対して、日本政府はどのように考えていますか。

  1. 日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています。
  2. 先の大戦における行いに対する、痛切な反省と共に、心からのお詫びの気持ちは、戦後の歴代内閣が、一貫して持ち続けてきたものです。そうした気持ちが、戦後50年に当たり、村山談話で表明され、さらに、戦後60年を機に出された小泉談話においても、そのお詫びの気持ちは、引き継がれてきました。
  3. こうした歴代内閣が表明した気持ちを、揺るぎないものとして、引き継いでいきます。そのことを、2015年8月14日の内閣総理大臣談話の中で明確にしました。

 この記述の最も重要な点は、「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったこと」について、「誰が行ったのか」という主語が書かれていない点である。これは、非戦闘員の殺害や略奪行為等について、組織的命令を裏付ける史料が存在しない可能性を示していると解釈できる。確認できる一次史料は日本兵の日記、外国人の報告、写真、国際委員会の資料などであるが、断片的な証言はあっても組織的計画性を裏付ける史料は確認されていない。学界でも被害の規模に関する見解にはかなりの幅がある。秦郁彦氏は数万人と推計している一方、笠原十九司氏は数十万と推定している。

初鹿野議員の発言は相手国の宣伝資料になってしまう

 中国政府や在日中国大使館は「南京大虐殺」「30万人虐殺」と断定的に発信している。中国大使館の公式SNSでも繰り返し投稿がなされている。数字を固定化し国際社会に定着させる狙いがある。中国政府等の発信に対し感情的に反応して「事件は存在しない」等と発信すれば、その発信を逆に相手に悪用される恐れがある。日本の国会議員が虐殺を完全否定したと切り取られ国際社会に広められてしまうと、日本全体が歴史修正主義のレッテルを貼られ、国際的信頼が損なわれるリスクに繋がる。

 相手国にとっては「日本は歴史を隠そうとしている」という宣伝材料になり、自らの主張の補強や正当性を訴える材料になる。一次史料に基づく冷静な研究と事実の提示以外に有効な対抗手段はなく、憶測や断定的な否定は逆効果であり、国家全体の信頼を大きく損なう恐れがあるのだ。外務省ホームページの記載そのものも一次史料等を踏まえ変更すべきという見解を持つ言論人も存在するが、南京事件という事案の本質を捉えていれば、国会議員が「南京事件は捏造」等と具体的な一次史料や学術研究の成果等を示さないまま不用意に断定するようなことは考えにくい。

問題を真摯に受け止め、説明責任を

 初鹿野議員は今回の歳費返納撤回問題のみならず、これまでも話題を呼ぶ軽率な発言を繰り返してきた。事実誤認や過激な言葉を発しては批判を浴び、そのたびに投稿削除や釈明に追い込まれている。国民に「また次も起きるのではないか」という不安が広がるだろう。発言のたびに炎上し信頼が削られれば、議員本人だけでなく政党全体の信用問題に発展するだろう。政党の信用問題に留まればまだ良いが、発言内容によっては日本全体の国際的信用を傷つけるかもしれない。特定集団を攻撃する発言によって、国民間の分断を激化させ社会の安定を損なうことにつながるかもしれない。

 初鹿野議員が「炎上」した発言は、いずれも誤解を招くような軽率な発言や根拠の薄い断定的な発言が原因である。国民を代表する国会議員という立場ある者が誤情報を広めれば国民の信頼を失い、場合によっては外交にも悪影響を与えかねない。初鹿野議員の所属政党である参政党も、軽率な発言を繰り返す国会議員を抱えることはリスクでしかないだろう。党本部等から繰り返し注意があった等の情報もみられるが、反省が無いから軽率な発言を繰り返しているのではないか。現に歳費返納撤回は国民を大きく混乱させている上に、外交や歴史問題に関しては、相手国のプロパガンダに利用され、日本の国際的信用そのものを傷つける恐れもある。こうした大きな影響が生じた場合、「誤解でした」「意図と違いました」という釈明を後からいくら行っても、それだけでは到底済まされない。

 これ以上大きな問題に発展する前に、初鹿野議員がこれまでの自らの言動による影響範囲や問題を真摯に受け止め、説明責任を果たし、事態が収束に向かうことを筆者は心から願っている。

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