ステマ炎上にお咎めなし!国民失望でも「進次郎首相が濃厚」…元経済誌編集長があえて寄せる「経済政策への大きな期待」

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 総裁選が盛り上がっている。昨年2024年同様、小泉進次郎氏は当初優勢報道が流れたが、その後相対する候補が追い越す形となった。今回は高市早苗氏が党員票で有利であると報じられている。しかし前回と違うのは、仮に決選投票に持ち込まれた場合、議員票で有利に立つ小泉氏が総理として最終的に選ばれる可能性が高いとされる。では、小泉総理が誕生した暁には日本はどう変わるのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

目次

小泉氏の稚拙さに、国民は失望と嘲笑

 特定の有名政治家を語ることは、現代において極めて難しい行為となった。

 特に、小泉進次郎氏の名を口にするとき、私たちの脳裏には、政策論争よりも先に、SNS上で消費され尽くした無数の「構文」や、メディアが切り取った断片的なイメージが浮かんでくる。今回の自民党総裁選においても、彼の陣営が引き起こした動画配信サイトへの「やらせコメント」依頼問題は、その稚拙さにおいて、有権者に失望と嘲笑をもたらした。国民の声を聞くと公言しながら、自身のSNSアカウントのコメント欄を閉鎖する姿勢もまた、その言動の不一致を指摘され、厳しい視線に晒されている。

 こうした逆風は、彼自身が招いた側面が大きい。したがって、人物への好悪や、そのレトリックに対する好き嫌いは、今後も残り続けるだろう。本稿では、あえて一度、そうした批判から一度だけ距離を置くことに挑戦してみたい。彼が提示した政策の「テキスト」そのものを、冷静に、そして多角的に読み解くことだ。

 なぜなら、進次郎氏を支持する自民党議員の数は多く、彼が次の自民党総裁、ひいては日本国首相となる可能性は決して低くないからだ。その時、我々は過去の発言やイメージだけではなく、政策の中身でも彼を判断しなければならない。

 政治家を評価するための、三つのものさしを手に取ってみたい。「Warm Heart(温かい心)」「Cool Head(冷静な頭脳)」、そして「Smart Pocket(賢い財布、経済性)」である。

「Warm Heart(温かい心)」とは、人々の痛みに共感し、弱者に寄り添おうとする情熱である。しかしそれは、単なる感傷にとどまらない。自らがよって立つ国を愛し、その歴史や伝統、地域に根差した共同体を守り抜きたいと願う、静かだが確固たる愛国心をも内包する。

国民感情にとって、共同体を守るという意志は極めて重要

 この情熱と愛国心こそが、政治家を突き動かす「エンジン」と言えるだろう。鹿を蹴り上げた外国人の存在が誰にも確認できなくても高市氏を評価する人がいるように、国民感情にとって、共同体を守るという意志は極めて重要なのだ。

 次に「Cool Head(冷静な頭脳)」。これは、理想や情熱を現実に落とし込むための冷静な分析能力を指す。財源の制約、法制度の壁、派閥・支援団体の抵抗、国際関係の力学といった冷徹な現実を直視し、実現可能な解を探る能力である。情熱だけでは国は動かない。緻密な計算と現実的な判断力があってこそ、政策は実を結ぶ。優秀な官僚が持つとされる資質も、これに近い。

 そして、三つ目のものさしが「Smart Pocket(賢い財布、経済性)」だ。これは、経済合理性と費用対効果を常に意識する、賢い財布の感覚である。限られた税金という国民の資産を、いかに効率的に使い、最大の効果を生み出すか。この視点は、単なる歳出削減論とは異なる。それは、規制緩和や制度設計の妙によって、民間の活力を引き出し、新たな価値や成長を生み出すための戦略的思考である。

「Smart Pocket」の欠如こそが、低成長と財政悪化に喘ぐ現代日本の病巣

 振り返ってみれば、戦後の日本政治は、「Warm Heart(温かい心)」と「Cool Head(冷静な頭脳)」の組み合わせで運営されてきたように思える。国民の求める福祉や公共事業を、官僚組織が現実的な予算と法制度に落とし込む。しかし、その過程で、「Smart Pocket(賢い財布、経済性)」の視点は、しばしば置き去りにされてきた。

 議論は常に「増税か、国債か」という二者択一に陥り、支出そのものの効率性や、民間の活力を最大限に引き出すための制度改革は、後回しにされてきた。そこには、一度膨らんだ歳出構造を前提とし、聖域なき改革から目を背けてきた政治の怠慢があった。票田となる業界団体や高齢者層への配慮が優先され、未来世代への負担を先送りする構造が定着してしまったのだ。この「Smart Pocket(賢い財布、経済性)」の欠如こそが、低成長と財政悪化に喘ぐ現代日本の病巣なのである。

 この三つのものさしを手に、小泉氏が総裁選の立会演説で語った政策テキストを改めて読んでみたい。彼はまず、国民の不安に寄り添う姿勢を見せる。

自民党は国民の不安に向き合えていなかった

「今、国民の皆さんが感じている不安、それは物価高で生活が苦しい。(中略)国民が多くの不安を抱えているのに、自民党は国民の不安に向き合えていなかった」

 これは、国民への共感という面での「Warm Heart(温かい心)」の発露である。そして、「歴史や伝統、家族のつながりを重んじ」「地方の津々浦々において脈々と受け継がれてきた暮らしが今後も守られ」ると語る姿勢は、単なる弱者への同情を超え、この国の形を守り抜こうとする愛国心の表れとも読める。

 衆参両院で多数を持たない現状を踏まえ、「野党に幅広く政策協議を呼びかけ、与野党合意を模索する」と語る部分は、政権運営の困難さを直視する「Cool Head(冷静な頭脳)」の表れと見てよいだろう。

 注目すべきは、その先だ。ここまでだったら誰でも言えることだ。国民の不安解消を、どう実現するのか。彼は経済政策についてこう述べている。

「私の役割はデフレ時代の経済運営の常識の壁を打破し、インフレ時代の新たな経済運営を構築することです。(中略)インフレ時代に対応して物価や賃金の上昇に合わせて基礎控除などを調整する仕組みの導入や、公的支出や公定価格の是正などを進めていきます」

バラマキではななく、基礎控除の引き上げ

 ここには「Smart Pocket(賢い財布、経済性)」の萌芽が見える。「基礎控除の引き上げ」を物価や賃金と連動させる仕組みは、一時的な給付金のような裁量的なバラマキとは思想が根本的に異なる。これは、政府がその都度判断を下す「恩恵的」な給付とは一線を画し、経済の体温に応じて自動的に機能する恒久的な制度である。税制にビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置)を組み込むこの発想は、政治の気まぐれな判断を排し、ルールに基づいて国民生活の安定を図ろうとする試みであり、経済運営の透明性と予測可能性を高める上でも極めて重要だ。

 さらに、「ガソリン暫定税率の速やかな廃止」への言及も重要だ。これは、家計や中小企業の物流コストを直接的に引き下げる、即効性と効率性を兼ね備えた一手と言える。農業への支援も「セーフティネットワーク」「保険」などの質の高い競争環境を支援するような政策を取り入れようとしている部分は経済性が高い。

「聖域」に、いかなる政治的覚悟をもって切り込むのか

 問題は「歳出削減」だ。近年の自民党政治、特にアベノミクス以降の財政拡張路線の中では、歳出規律はしばしば脇に追いやられてきた。財源論となると、安易な国債増発か国民負担増という選択肢に終始しがちだ。

 進次郎氏が今後、社会保障、公共事業、各種補助金といった「聖域」に、いかなる政治的覚悟をもって切り込むのか。その手腕こそが、彼の本気度を測るリトマス試験紙となるだろう。

 例えば、今回の総裁選で他の候補者が掲げた政策と比較してみると、その違いはより鮮明になる。頭が良いとされる林芳正氏は「Smart Pocket(賢い財布、経済性)」の視点の欠如が指摘される。流行りのテーマに応えるかのように「コンテンツ庁」といった新しい組織を立ち上げる案も、既存の省庁との権限重複や非効率を生むだけで、費用対効果が見合わない結果に終わる可能性が高い。これらは、国民の税金を原資としながら、新しい看板を掲げて支出を増やすことで仕事をしているように見せる、ある種の「官僚的発想」の延長線上にある。

 重ね重ねになるが、私は、進次郎氏の政策を全面的に肯定することはしていない。国家の役割を、国民から集めた富を再分配する「調整役」から、民間が自律的に富を生み出すための環境を整備する「触媒役」へと転換させようとする意志が少しだけ見えている、というのが進次郎氏の現在地だ。

政策理念の「萌芽」と、政治手法の「未熟さ」

 また、政策理念がいかに優れていても、それを国民に届け、実行に移すための政治的手腕が伴わなければ意味がない。だから、日本の首相は大変なのだ。

 冒頭で触れた「やらせコメント」依頼問題は、彼の陣営の未熟さと、コミュニケーション戦略における致命的な欠陥を露呈した。政策の中身で勝負しようとせず、小手先の印象操作に頼ろうとした姿勢は、彼が掲げる「国民の声を聞く」という言葉の価値を、自ら著しく毀損する行為であった。この一件は、彼が「Cool Head(冷静な頭脳)」の一部、すなわち、現実の政治を動かす上で不可欠な、他者からの信頼を獲得するという能力において、いまだ大きな課題を抱えていることを示している。

 しかし、だからこそ我々は彼を単純に切り捨ててはならないのかもしれない。新しい政策理念の「萌芽」と、政治手法の「未熟さ」。この二律背反こそが、小泉進次郎という政治家の現在地なのだ。

過去の失言に目を奪われ、政策テキストの精査を怠ってはいないだろうか

 理念がどれほど正しくとも、それを実現する政治力がなければ絵に描いた餅に終わる。

 私たちは、人物のイメージや過去の失言に目を奪われ、政策テキストの精査を怠ってはいないだろうか。「Warm Heart(温かい心)」の共感と愛国心、「Cool Head(冷静な頭脳)」の現実認識に加え、「Smart Pocket(賢い財布、経済性)」という新たな判断軸で政治を見るとき、これまでとは違う景色が広がる。

 私は、あらゆる先入観を排し、冷静に、そして厳しく、まずはお手並みを拝見していこうと感じている。その先にこそ、日本の未来を託すに値するリーダーシップの真価が見えてくるはずだ。

 真のリーダーとは、批判を乗り越え、新しい時代に適合した政策を実行できる人物である。小泉氏がその器たり得るか、国民は冷静な目でその動向を見守る必要がある。彼の政策が、単なる理想論に終わらず、具体的な成果を生み出すことができるかどうかが問われている。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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