小泉でも高市でもない!猛追の“狂わせ候補”が掲げる超秘策「中所得層にも給付」…立憲との連立協議に発展する可能性

(c) AdobeStock

 次の首相は一体、誰になるのか―。10月4日投開票の自民党総裁選は「2強」を軸に進むと見られてきたが、小泉進次郎陣営の自爆により、ここにきて「番狂わせ」も予想される熾烈な戦いとなっている。各種調査で国会議員票が優位とされる小泉農林水産相、党員・党友に人気が高い高市早苗元経済安全保障相に加え、安定感に定評がある林芳正官房長官が“ダークホース”として急浮上しているのだ。林氏は「日本版ユニバーサル・クレジット」(日本版UC)という聞き慣れない公約を掲げ、財政規律重視の姿勢を見せながら日本を立て直すという。経済アナリストの佐藤健太氏は「UC構想は、立憲民主党が提唱する給付付き税額控除と近いもの。少数与党として立憲との『大連立』を見据えた“林プラン“に見える」と指摘する。はたして総裁選は誰が勝利し、その後の連立の枠組みはどうなるのかーー。

目次

低所得・中所得の皆さまに給付を中心にやっていく

 「今までは手当、減税、給付それぞれやってきました。家計簿をつける感覚で『入ってくる収入はこれだけ』『出ていく税金・保険料は、教育費はこれだけ』というのを、世帯別、そして子どもの数別、いろんなケースに分けて点数化をして一番厳しい低所得・中所得の皆さまに給付を中心にやっていく。1年、2年かけてでも、しっかりと設計をして、これをやっていって、ここからさらに収入の高いところに移っていただく。そのことによって分厚い中間層を日本に取り戻す。この政策をやりたいと思います」

 9月22日、自民党本部で行われた立候補者による立会演説会で、林氏はこのように「日本版ユニバーサル・クレジット」構想について力説した。日本版UC構想は一言で言えば、給付や税額控除を一本化し、所得などに応じて自動調整する仕組みであり、2013年から段階的に導入してきた英国にならったものだ。生活支援給付や児童手当などの支援策を統合し、所得や資産の規模に応じて給付するもので、立憲民主党が提唱する給付付き税額控除に近い仕組みと言える。

 林氏は、実際に導入するまでには一定の時間がかかると語っており、具体的な構想の詳細は分かっていない。英国でも定着するまでに約15年を要しているが、林氏は「もっと早くやらなくてはいけない」とするにとどめ、総裁選中に議論が深まっているとは言えない状況だ。ただ、もし林氏が総裁選で勝利し、その後の首班指名選挙で選ばれれば内閣総理大臣として「日本版UC」構想は現実味を帯びることになる。

ライフステージに応じた支援策が統合され「見える化」される

 それぞれのライフステージに応じた支援策が統合され、社会保険料や税負担とともに「見える化」される意味は小さくない。所得に応じて基準となる給付額が計算され、結婚の有無や扶養児童の数なども考慮した加算があればライフプランを描きやすくなるのは間違いないだろう。

 英国は、社会保障制度の簡素化や貯蓄推進、貧困の緩和などを目的に2012年の福祉改革法で導入がスタートした。林氏は9月25日に配信された「ダイヤモンド・オンライン」のインタビューで、このように説明している。「『家計簿』と言えば分かりやすいかもしれません。すでに、英国で先例があり、『トータルで幾ら給付するのか』を見ていく仕組みです」「税と社会保険料の負担感も見ながら、日本版ユニバーサルクレジットは『恒久措置』としてやっていきます」。

 たしかに同じ世代で同じ所得がある人でも、子育てにかかる費用や住宅・生活費などは異なる。それぞれのライフステージごとに給付額が「見える化」される制度が導入されれば、林氏の目指す「分厚い中間層」の維持につなげたいとの目的は達成できるかもしれない。

生活保護を受けている世帯や年収が一定額以下の世帯にはどう対応するのか

 ただ、この「日本版UC」構想を導入するには乗り越えなければならない「3つの壁」がある。1つ目は、正確な「所得」の把握だ。日本版UCにはマイナンバー制度の活用が想定される。所得や資産の情報把握が不可欠で、自動給付とするにはマイナンバーと紐付ける必要がある。

 給与所得者であれば「所得」の把握は源泉徴収票などで容易と言えるものの、政府はこれまで副業を推奨してきた。自営業者やフリーランスに加え、一定の条件を満たす低所得者は住民税を支払わない非納税者だ。生活保護を受けている世帯や年収が一定額以下の世帯にはどう対応するのかが重要なポイントになる。だが、林氏は「1億人、全部の世帯を調べるのは不可能。モデル世帯を抽出し、保険料・税・子育て負担・収入と家計簿をつけるように把握する」と述べるにとどめている。

 2つ目は、構想を実際に導入するまでには時間かかるという点だ。とても1~2年で詳細な制度設計を詰められるものとは言えず、今回の自民党総裁任期中にスタートできるとは言い難い。加えて、財源をどうするかの問題もある。

立憲民主党との連立協議に発展する可能性

 これまでの支援策を一本化するとはいえ、ライフステージごとに給付するプランとなれば給付対象が拡大する可能性があるだろう。もちろん、安定的な財源確保が必要だ。これまでガソリン税の暫定税率廃止や「103万円の壁」見直しにも消極的だった政府・自民党が、林政権が誕生すれば急に「財源はある」と言うのは無理がある。

 3つ目は、「日本版UC」構想が立憲民主党との連立協議に発展する可能性がある点だ。立憲民主党は、これまで給付付き税額控除を提唱してきた。給付付き税額控除は2012年の社会保障・税一体改革の大綱で「検討」として入ったもので、2012年末まで首相を務めていたのは、現在の立憲民主党代表である野田佳彦氏である。

 先に触れた通り、日本版UC構想は給付付き税額控除に近いものだ。所得税の一定額を控除する給付付き税額控除は、減税と給付を組み合わせるもので、控除できなかった部分は現金で受け取る。ただ、ここでも「所得」の正確な把握が課題となる。

自民党を支える保守層は一気に離れることが予想

 林氏は石破茂政権の官房長官を務めてきた。石破首相は立憲の野田代表とケミストリー(相性)が合い、「自民党と、野党第1党である立憲民主党との大連立も選択肢として排除しない姿勢で臨んできた」(首相周辺)とされる。石破政権の政策で良いところは引き継ぐとしている林氏が日本版UCを誘い水として、石破首相のように立憲との大連立を画策すれば、自民党を支える保守層は一気に離れることが予想される。

 これらの「壁」を林氏はどのように考えているのかは現時点で不明のままだ。林氏は総裁選で「林プラン」として、「1%程度の実質賃金上昇の定着、国民所得と経済生産性の向上による成長と分配の好循環」「2040年代に向け、持続可能な社会保障、強靱な経済を構築するための工程表作成と推進」「中小企業・小規模事業者への大胆な負担軽減、相談できる窓口の拡充、地方での起業・創業・事業承継支援」「GXやDX(含むAI)の推進、コンテンツ産業や地方を含むスタート・アップ企業の支援、創薬力の強化」などを公約に掲げている。

 だが、それらは総花的で新味に欠けたものばかりだ。日本版UCは他の候補者に比べて“勝負”に出た感があるものの、財源論や詳細な制度設計が不明であり、実現するとしても時間がかかる。

自民党総裁選で「番狂わせ」はあるのか

 加えて、立憲民主党との「大連立」を予感させる構想が党内外に広げるインパクトは決して小さくない。

 はたして、10月4日投開票の自民党総裁選で「番狂わせ」はあるのか。連立拡大を見込む国会議員たち、そして国民感覚に近い党員・党友票の行方に注目が集まる。

 自民党総裁選は、小泉進次郎氏、高市早苗氏、そしてダークホースとして急浮上した林芳正氏の三つ巴の戦いとなり、その行方は予断を許さない。特に林氏が掲げる「日本版ユニバーサル・クレジット」構想は、低所得・中所得者層への手厚い給付を掲げる一方で、財源確保や所得把握の困難さ、さらには立憲民主党との大連立の可能性といった「壁」を抱えている。総裁選の結果次第では、日本の政治情勢に大きな変動をもたらすことは必至であり、その動向は国民一人ひとりの生活に直結するだけに、今後の展開に注目が集まる。

    この記事はいかがでしたか?
    感想を一言!

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

政治・経済カテゴリーの最新記事

その他金融商品・関連サイト

ご注意

【ご注意】『みんかぶ』における「買い」「売り」の情報はあくまでも投稿者の個人的見解によるものであり、情報の真偽、株式の評価に関する正確性・信頼性等については一切保証されておりません。 また、東京証券取引所、名古屋証券取引所、China Investment Information Services、NASDAQ OMX、CME Group Inc.、東京商品取引所、堂島取引所、 S&P Global、S&P Dow Jones Indices、Hang Seng Indexes、bitFlyer 、NTTデータエービック、ICE Data Services等から情報の提供を受けています。 日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。 『みんかぶ』に掲載されている情報は、投資判断の参考として投資一般に関する情報提供を目的とするものであり、投資の勧誘を目的とするものではありません。 これらの情報には将来的な業績や出来事に関する予想が含まれていることがありますが、それらの記述はあくまで予想であり、その内容の正確性、信頼性等を保証するものではありません。 これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、投稿者及び情報提供者は一切の責任を負いません。 投資に関するすべての決定は、利用者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。 個別の投稿が金融商品取引法等に違反しているとご判断される場合には「証券取引等監視委員会への情報提供」から、同委員会へ情報の提供を行ってください。 また、『みんかぶ』において公開されている情報につきましては、営業に利用することはもちろん、第三者へ提供する目的で情報を転用、複製、販売、加工、再利用及び再配信することを固く禁じます。

みんなの売買予想、予想株価がわかる資産形成のための情報メディアです。株価・チャート・ニュース・株主優待・IPO情報等の企業情報に加えSNS機能も提供しています。『証券アナリストの予想』『株価診断』『個人投資家の売買予想』これらを総合的に算出した目標株価を掲載。SNS機能では『ブログ』や『掲示板』で個人投資家同士の意見交換や情報収集をしてみるのもオススメです!

関連リンク
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.