かつて失敗した通産省の産業政策を、高市政権は繰り返そうとしている…一方で唯一評価できる、高市首相が本当に一番やりたいこととは
高市政権がついに発足した。所信表明演説を通して今後の方針が示されたが、国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は「『税率を上げず』と明言したにも関わらず『安定財源確保』、すなわち『増税』の意図が同時に示された」と失望の色を隠さない。一方で、外交・安保について「唯一評価できる内容もある」とした。一体、その内容とはーー。
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目次
高市氏の経済政策の応援団には所謂リフレ派の経済学者が名を連ねている
高市早苗首相による所信表明演説が行われた。筆者はその演説内容に違和感を覚えたが、その違和感の根源は首相秘書官の顔ぶれを確認したことで確信に変わった。
政権発足時は閣僚人事が注目されがちだが、それにはほとんど意味がないものと考える。政権の本質は、経産、財務、外務、警察、防衛から首相秘書官人事に反映される。そして、高市首相の所信表明演説の内容もその例に漏れないものであった。
高市首相は所信表明演説の冒頭で、経済財政政策の基本方針として下記の文言が並べられた。
「何を実行するにしても、『強い経済』をつくることが必要です」
「『強い経済』を構築するため、『責任ある積極財政』の考え方の下、戦略的に財政出動を行います」
「これにより、所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税率を上げずとも税収を増加させることを目指します」
「この好循環を実現することによって、国民の皆様に景気回復の果実を実感していただき、不安を希望に変えていきます」
「成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していきます」
と述べている。これは国民の期待に働きかける行動経済学に基づく主張だ。高市氏の経済政策の応援団には所謂リフレ派の経済学者が名を連ねており、その主要政策である金融政策に直接的に言及はしていないものの、経済政策の主張としてそこまで違和感があるものではない。
「税率を上げず」と明言したにも関わらず「安定財源確保」、すなわち「増税」の意図が同時に示された
ところが、高市首相の所信表明演説の内容は、その後に違和感だらけのものになっていく。
直前に「税率を上げず」と明言したにも関わらず、ガソリン税暫定税率廃止や教育無償化に言及した箇所では「安定財源確保」に言及した。安定財源確保は「増税」を行う際に使用されるお役所用語であり、冒頭の「税率を上げず」発言とはいきなり矛盾した内容が入れ込まれた形となる(もちろん、増税以外にも安定財源はあるという解釈もあるが、国民はそのような詭弁にはウンザリしている)。
また、維新との連立合意書に記されていた消費税減税には全く触れられることなくスルーされていた。その代わりに、最近、財務省関係者がゴリ押ししている給付付き税額控除の文言が何度も出てきたことにはウンザリした。減税には安定財源(増税)を充てるとともに、消費税減税に対しては給付付き税額控除の議論で時間稼ぎを徹底するという財務省の意図がバレバレだ。これは厚労省の社会保険料改革についても同じことが言えるだろう。
かつて失敗した通産省の産業政策を、高市政権は繰り返そうとしている
また、肝心の経済政策については「日本成長戦略会議」や「危機管理投資」が打ち出された。何のことはない、かつて失敗した通産省の産業政策そのものだ。役所が選んだ産業に予算を投下しながら介入していく、という過去の失敗の歴史に何ら学ばない愚策が並んでいる。
「AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、サイバーセキュリティ等の戦略分野に対して、大胆な投資促進、国際展開支援、人材育成、スタートアップ振興、研究開発、産学連携、国際標準化といった多角的な観点からの総合支援策を講ずることで、官民の積極投資を引き出します」
「『世界で最もAIを開発・活用しやすい国』を目指して、データ連携等を通じ、AIを始めとする新しいデジタル技術の研究開発及び産業化を加速させます。加えて、コンテンツ産業を含めたデジタル関連産業の海外展開を支援します」
本来政府に出来ることは規制緩和を実現し、成長産業を阻害しないことだけだが、高市政権は全く真逆の方向性に突き進もうとしている。
高市政権の経済政策は中長期的に見れば大きな負担を納税者に強いるものとなる
アベノミクスの第三の矢「成長戦略」にも2つの道があった。