倒産連鎖、本格化へ…日経平均大暴落はすぐそこ!国際的投資家が日本に警鐘…バフェットも手じまい「すでに逆回転始まっている」

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 米国ドナルド・トランプ大統領は9日、トランプ関税措置の収入を財源に、高所得者以外の国民に1人2000ドル(約30万円)を配布する考えをSNSに投稿した。しかしトランプ関税を巡ってはその合憲性を最高裁で争っている。トランプ関税がもし最高裁により「違憲」と判断された場合に、世界、そして日本の市場がどうなるのか。国際的投資家の木戸次郎氏はドル円相場が「逆回転」を起こす可能性を示唆する。そして「経済的大惨事」に広がる可能性も。木戸氏が解説するーー。

目次

負担を強いる国民2000ドル配るだけなのに

 世界は静かに逆回転を始めている。

 それは株価や為替といった表層ではなく、政治、通貨、国民心理——その深層がひっくり返ろうとしている。きっかけは、再び登場したトランプ大統領の「2000ドル宣言」だ。彼は関税で得た収入を原資に、「米国民1人あたり2000ドルを支給する」と高らかに述べた。対象は高所得者層を除く中間層以下。いかにもトランプ大統領らしい“愛国的還元策”である。だが、タイミングが異様だ。最高裁が関税政策の違法性を審理しているまさにその最中である。制度が揺らぐ前に国民を味方につける——その狙いはあからさまだ。

 トランプ大統領の語り口の巧妙さは、数字や制度ではなく、敵味方の線引きにある。彼にとって“税を払うのは外国人”“恩恵を受けるのは米国民”という単純な構図こそ最大の政治資産だ。国際分業や自由貿易の論理がいかに精緻でも、大衆に届くのは感情の物語である。彼は経済を演出の舞台に変え、法廷さえも政治劇の一幕にしてしまう。そこでは、真実よりも「誰が勝ったか」の方が価値を持つ。

 関税で「外国から取った金を国民に配る」という構図は一見わかりやすい。だが実態はまるで逆だ。輸入品に課された関税は、価格転嫁を通じて結局は米国の消費者が負担する。つまり、国民の懐から徴収した金を、国民に「配る」と言い換えただけのこと。いわば自作自演の経済マジックである。それを「勝利の物語」に仕立てるのがトランプ大統領の真骨頂だ。法律や制度の前に、感情で国を動かす。敵を明確にし、勝者の物語を先に書いてしまう。だからこそ、この2000ドル発言は経済政策ではなく、法廷と世論の二正面作戦に他ならない。

「違憲」と判断した場合、この構造は瞬時に瓦解する

 ベッセント財務長官もまた、公の場で「もし最高裁が関税を違法と判断すれば、収入の相当部分を返還する必要が出る」と述べている。実務上の関税収入は2025会計年度で約 $215.2 billion(約32兆円)に達しており、複数の主要メディアは返還総額を概ね $70〜$110 billion(約10〜17兆円)程度のレンジで試算している。だが重要なのは、仮に返還が行われても、その資金が消費者に直接還元されるわけではなく、主に輸入業者や企業への返金という形で処理される点だ。したがって、“国民への直接還元”という物語は、司法判断ひとつで脆くも崩れる構造になっている。

 仮に最高裁が関税を「違憲」と判断した場合、この構造は瞬時に瓦解する。なぜなら、還元の財源が消えるからだ。米国経済は「自国優先」という物語を失い、同時にドル高圧力が弱まり、国際資本は逃げ場を求める。その逃避先の1つとして、過去1年、日本株と円資産が買われてきた。だが、その日本もまた、似たような“逆回転の準備運動”を続けている。

市場関係者「円安放置は持続不能だ」

 実は10月の日銀金融政策決定会合では、長らく据え置き続けてきた金利政策に対して、ついに複数の審議委員が「利上げを検討すべき」と意見した。市場関係者の間でも、「このままの円安放置は持続不能だ」という声が日増しに強まっている。つまり、日本でも“修正の芽”が芽吹き始めたということだ。日銀が利上げに踏み切れば、円安バブルの前提は崩れる。企業収益を支えてきた為替の追い風が止まると同時に、株式市場は膨張をやめ、外資は静かに利食いを始めるだろう。いまの市場を覆う静けさは、まさにその予兆にほかならない。

 その一方で、政府は予算委員会のたびに“プライマリーバランスの黒字化”を声高に唱えている。だがそれも、円安という禁断の果実によって生まれた税収の上振れ分にすぎない。輸出企業の為替益が一時的に財政を潤しているだけで、内需の疲弊や実質賃金の低迷という根の部分は何ひとつ改善していない。言い換えれば、見かけ上の健全化は通貨の延命装置にすぎず、その果実を誇るほど、逆回転の重力は静かに強まってゆく。

 だが日本の延命策にも限界がある。マイナス金利の副作用は住宅市場を歪め、若年層の資産形成を奪い、地方経済では銀行収益の劣化が続く。

 国債を買い支え、為替を間接的に円安へ誘導する構造は、いつかその出口で跳ね返る。利上げの是非をめぐる議論は単なる金融論争ではなく、世代間の公平を問う政治問題になりつつある。国の成長戦略が“低金利維持”という麻酔に依存してきた以上、その覚醒の痛みは想像以上に大きい。

生活が苦しいの…日本政府が誇る見せかけの繁栄

 トランプ大統領が“関税還元”を掲げる一方で、日本は“円安成長”を掲げる。手法は違えど、構造は似ている。どちらも「国民に利益が回る」と謳いながら、実際には国民負担を前借りしている。米国では関税がインフレを招き、日本では円安が生活コストを押し上げる。いずれも、短期的な政治的安定と引き換えに、長期的な社会の歪みを拡大させている。

 トランプ大統領は、輸入価格の上昇を“外国に払わせる”と強弁するが、結果的に米国の消費者が負担する。日本もまた、円安で輸入コストが上がり、エネルギーや食品価格が高騰している。企業は「円安で利益が増えた」と胸を張るが、家計はその陰で疲弊している。2000ドルの米国と、3%の賃上げを誇る日本——どちらも、国民の実感とはかけ離れた“見せかけの繁栄”に過ぎない。

 世界の資本は、この「偽りの繁栄」に敏感だ。

 ウォーレンバフェットのバークシャー・ハサウェイがキャッシュポジションを過去最高水準まで積み上げたのは、まさにこの構造的な危うさを察知したからである。シンガポールや香港のヘッジファンドも、日本株の利益確定に動き始めている。市場はいつも、熱狂の裏側で冷静に出口を探す。歴史的に見ても、最初に逃げるのはいつだって“理性を持った資本”なのだ。

トランプも日銀も痛みの先送りしているだけ

 トランプ大統領の2000ドルが現実化すれば、短期的にはドル買い・株高が進むだろう。だが、その先に待つのは、財政赤字の拡大とインフレ加速だ。日本でも、もし利上げが実施されれば、長年の金融緩和に依存した経済構造が音を立てて軋み始める。つまり、米国発・日本発、2つの逆回転がほぼ同時に走り出す可能性があるということだ。

 ここで重要なのは、「逆回転=終わり」ではないということだ。むしろ、それは“調整の始まり”である。過剰な通貨安や関税政策といった歪みが、時間をかけて正常化に向かう過程で痛みが生じる。だが、それを恐れて延命策に走れば、さらに大きな反動を招く。トランプ大統領の関税も、日銀の円安政策も、どちらも「痛みの先送り」という点で同根である。

 資本は理性を失わない。政治が感情で市場を操ろうとしても、最後には貨幣の重力が真実を引き戻す。国家が虚飾を重ねるほど、資本は沈黙のうちに逃げてゆく。

市場の修正は唐突で容赦ない

 市場とは、倫理のない政治に対する唯一の良心でもある。だからこそ私は、逆回転を恐れない。崩れることは、ただ戻ることにすぎないからだ。

 市場はいま、熱狂と理性のせめぎ合いの中にある。投資家たちはまだ「上昇の余韻」に酔っているが、理性ある資本は静かに退路を描いている。日本の金利、アメリカの関税、どちらかが崩れた瞬間、潮目は一気に変わる。そうなれば、為替も株価も、まるで重力を取り戻すかのように沈んでいく。

 逆回転とは、単なる反転ではない。見えない重力が再び働き始める瞬間のことだ。トランプ大統領が作り上げた“2000ドルの幻想”も、日銀が作り上げた“円安の延命”も、いずれは修正される。それが市場という生き物の本能であり、歴史の正義である。

 仮にトランプ関税が違憲とされ、アメリカが“保護主義という夢”を失うとき、世界の資本は新たな逃避先を探すだろう。その時、日本がまだ“円安と超低金利”の幻想にすがっていたなら、同じ逆回転の渦に飲み込まれる。市場の修正はいつも唐突で、そして容赦がない。

すでに始まっている

 政治が国民心理を利用し、通貨を使って時間を稼ぐ——その手法は一時的には有効だ。だが、それが永遠に続いた試しはない。バブルも、金融危機も、いつだって“延命の先”から始まった。トランプ大統領の2000ドルも、日銀の円安も、その延長線上にある。だからこそ、私たちはいま、この静けさを過信してはならない。

 逆回転は、すでに始まっているのだ。そして日経平均5万円に浮かれる投資家たちを地獄に突き落とす。バフェットは知っている。株価暴落はもうすぐそこなのだろう。そして倒産連鎖が本格化する。

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この記事の著者
木戸次郎

1965年生まれ。明治大学政治経済学部卒。 地場証券会社を経て投資顧問会社の代表取締役。その後、ベトナム国営バオベト証券バオベトジャパン理事、ベトナム国防省タイソングループ顧問、外資系ファンドの戦略アドバイザーを経て現在はTMI総合法律事務所顧問。著書にベストセラーとなった『修羅場のマネー哲学』(幻冬舎)『修羅場の鉄則』(幻冬舎)、『木戸次郎の大化け株』(宝島社)、『株はあと2年でやめなさい』(第二海援隊)、『常勝の株』(講談社)ほか多数。

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