<台湾外交部も困惑>高市発言で孤立するニッポン「悪夢の米中接近」サプライチェーンから除外の致命的局面へ…自力で打開が困難に

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 高市早苗総理の「存立危機事態」発言を巡り、日中政府が騒がしい。そんな中で米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は、高市総理との電話会談でドナルド・トランプ米大統領は「台湾の主権に関する問題で中国政府を挑発しないよう」助言したという。その後、日本政府のみこの報道を否定したようだが、経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「高市発言は、中国にトランプ大統領を味方につけるための「好都合な口実」を提供してしまった」と指摘している。また、サプライチェーン全体が米中軸で再編される可能性を危惧する。一体どういうことなのか。小倉氏が詳しく解説していく――。

目次

高市首相の外交判断が招いた国益の毀損と孤立

 11月24日、アメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席が電話で話し合った。ロイター通信の報道によると、二人の首脳は関係を「極めて強固」だとし、来年、直接会う可能性まで示した。話し合いの中心になったのは、大豆を主な品目とする農産物の貿易であり、両国はアメリカの農家にとって大切な約束をした。市場はこの動きにすぐ反応し、大豆の値段を決める先物取引の価格は急に上がり、アメリカの農家の株も上がっている。

  この米中首脳による「極めて強固な関係」の確認という冷徹な現実が展開されている裏側で、日本では高市早苗首相の「存立危機事態」発言に対し、大学生らが首相官邸の前で「平和的な外交こそ必要だ」と訴える、どこか現実離れした抗議活動をしていた。彼らは「武器に頼らず話し合いと仲良しを」と訴えたが、世界の政治の場では、話し合いは持っている力のバランスの上でしか成り立たないという現実を見ていない。

 中国が日本の経済の弱いところを突き、アメリカが自分たちの国の貿易の利益を一番に考えているこの瞬間に、筋道の通らない感情論を叫んでも、日本の国益を守る役には立たない。このような現実から目をそらす姿勢こそが、日本が直面する危機の深刻さを表している。今、日本に求められているのは、徹底的に現実を見て、論理的に批判することである。

 この電話会談は、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」という一貫した貿易優先姿勢の延長線上にあったが、そのタイミングと協議の内容こそが、日本の高市首相の外交判断が招いた国益の毀損と孤立を決定づけさせる要因となった。

冷え込む日中関係と極めて友好的な米中首脳関係

 本来、高市首相は米中接近を阻止し、同盟国アメリカを対中牽制の枠内に留めるべき立場にあったにもかかわらず、安全保障の努力が、大国の取引の前で、いかに脆くも崩れ去るかを世界に示した象徴的な瞬間であったと言えるだろう。

 この米中首脳による「極めて強固な関係」の確認は、日本では高市首相が衆議院予算委員会で台湾有事について踏み込んだ答弁を行い、中国外務省から「一つの中国原則への重大な挑発」として激しい反発を受けていた直後に起こった。日中関係が急速に冷え込む最中に、米中首脳は電話で極めて友好的な関係を確認し合ったというコントラストは、誰の目にも明らかである。国際政治は、感情や同盟という美辞麗句ではなく、自国の利益で動くという冷徹な常識を、日本は改めて突きつけられたのだ。

 筆者は、高市首相の愛国的態度や国家への強い信念には深く共感し、支持してきた。しかし、今回の台湾有事に関する答弁は、その愛国心とは裏腹に、外交上のテクニカルな手腕と国際情勢の現実に対する無知が露呈した結果と言わざるを得ない。

衝撃の米WSJ報道、その中身とは

 高市首相は、台湾有事というデリケートな問題について、「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」と軽々しく言及した。特に、「海上封鎖を解くために米軍が来援する」という、アメリカの自由な選択権を勝手に前提とする発言は、外交の基本を知らない稚拙さの極みである。

 この発言が引き起こした国際的な波紋は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、10月27日)によって赤裸々に報じられた。記事によれば、習近平主席は電話会談でトランプ大統領に対し、高市首相の台湾に関する発言に怒りを表明し、この直後、トランプ大統領は高市首相に電話をかけ、台湾の主権に関する問題で中国政府を挑発しないよう「助言した」と報じられた。日本政府はこの報道を否定したが、トランプ大統領が「習主席は、大豆をはじめとする農産物の購入を大幅に増やすだろう」という農業貿易の利益を優先する姿勢を明確にしたという事実は動かない。高市首相の発言は、アメリカが米中関係のバランスを取る必要性を強く意識させる要因となり、日本にとって最も重要な外交の基盤である日米同盟の基盤を危うくする懸念を生じさせたと言わざるを得ない。

台湾でさえ困惑する高市発言

 台湾の外交部でさえ、高市首相の答弁について「日本が台湾を防衛すると直接解釈するのは難しい」と議会に報告しており、日本が発した「ぬか喜び」が、いざという時の「深い失望」へと変わりかねないという懸念は現実のものとなりつつある。

 高市首相の稚拙な発言がもたらした外交的な混乱は、遠く離れた中国の経済に、思いがけない「漁夫の利」を与える一因となった。それは、中国の「大豆不足」という、きわめてシンプルで巨大な経済的弱点と結びついている。

 中国経済が抱える最大の弱点の一つは、大豆の圧倒的な輸入依存である。中国は世界の豚の約半分を飼育しており、その飼料のタンパク源の大部分をアメリカ産の大豆粕(だいずかす)に頼っているという構造的な弱点を抱えている。トランプ大統領が、習主席との電話会談後、「習主席は、大豆をはじめとする農産物の購入を大幅に増やすだろう」と述べたのは、この中国の「豚肉依存」という構造的な弱点を、アメリカが貿易交渉の最大の切り札として握っていることを示している。

 日本の外交は、本来、トランプ大統領の貿易優先姿勢に対して、中国が東アジアで勢力を拡大することの危険性や、アメリカの長期的国益との矛盾を説き、対中牽制の役割を担う必要があった。しかし、高市首相の稚拙な外交は、この機会を逸したどころか、状況を悪化させた。

米中接近の流れを決定づける要因の一つとなった

 高市発言は、中国にトランプ大統領を味方につけるための「好都合な口実」を提供してしまったのである。

「台湾問題で騒ぎ、日中関係を不必要に緊張させる日本」の存在を背景に、習近平主席はトランプ大統領に対し、「東アジアの平和のために日本を黙らせる」という「政治的譲歩」を、「アメリカからの大豆購入を確約する」という「経済的利益」と交換した。これにより、米中接近の流れを決定づける要因の一つとなった。本来、日本は「中国の弱点である大豆輸入という構造」を使ってアメリカに対中牽制の「クサビ」を打ち込むべきだった。

 この米中接近は、日本の経済安全保障の根幹を揺るがす深刻な事態である。中国は日本への経済的圧力を強めている最中に、米国との取引を優先的に進めることができるようになった。もし米中が本格的に貿易摩擦を棚上げにすれば、中国は余裕を持って日本に対してだけ制裁的な措置を取れるようになる。サプライチェーン全体が米中軸で再編され、日本は外側に追いやられる構造がより明確になるだろう。

自力での打開が困難な局面に追い込まれた日本

 歴史は繰り返す。1972年のニクソン訪中は、日本に「日米中逆転のショック」を与え、アメリカは自国の利益のためなら同盟国の一つや二つを調整対象にしても構わないという冷酷な教訓を与えた。今も本質は変わらない。日本が置かれている状況は、大国間の取引の中で、自力での打開が困難な局面に追い込まれていると言える。中国は経済力を武器に日本を締め上げ、アメリカは「日本は自分で何とかしろ」と突き放す。日本がいくら防衛費をGDP2%に引き上げても、大国間の取引の前では紙の防壁に過ぎない。この孤立は、単なる外交的疎外ではない。世界のサプライチェーンから外されれば、技術標準の策定からも排除される可能性もでる。

 日本が今、問われているのは、単なる危機感ではない。75年ぶりの地政学的転換点に直面して、生き残るための戦略を本気で描けるかどうかである。まず必要なのは、米中いずれにも過度に依存しない経済構造への転換である。インド、東南アジア、豪州、欧州との経済連携を一気に深め、中国市場を「あればラッキー」程度の位置づけに落とす覚悟が必要だ。

 最も重要なのは、外交的な想像力である。大国が手を組むとき、中規模国は常に犠牲になる。これが冷酷な国際政治の常識である。政治家、とりわけ一国のリーダーに求められるのは、「愛国心」をベースにした「緻密な計算」と「静かな抑止力」である。中国は今、日本の外交的混乱のおかげで、経済的懸案を解決し、「日本を黙らせる」という外交的勝利まで手にしようとしている。

 大国に振り回される国ではなく、大国を動かす国になる。それしか、この孤立の淵から脱する道はないのである。

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