借金地獄と引き換えに支持率上昇!…高市首相の経済政策「積極財政&MMT」最新実証データが示したこと

政府は、大規模な経済対策の経費のための補正予算案を閣議決定しま。一般会計の総額で18兆3034億円で。国債発行額は昨年度の補正予算での発行額の2倍近い11兆6960億円となった。片山さつき財務相は「財政の持続可能性を実現し、市場の信認を維持したい」と述べるが、経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「成長投資という聞こえの良いスローガンの裏側で、将来世代へツケを回すという、極めて無責任な賭け」と指摘する。一方で、テレビ東京と日本経済新聞社が実施した11月の世論調査で、高市内閣の支持率は75%と、前回10月の調査からさらに1ポイント上昇した。小倉氏は「日本経済は高市政権の高支持率と引き換えに、現実に起きているデータが示す破壊の道を歩むことになる」と語る。小倉氏が詳しく解説していく――。
目次
「国の借金はいくら増えても無害だ」というありえない前提
11月28日、高市政権が閣議決定した18兆3034億円という巨額の補正予算案のニュース。新型コロナウイルスの感染拡大時のような異例の事態を除けば、これは過去最大の規模の補正予算である。そして、その財源の6割を超える11兆円超が、新規の国債発行(借金)で賄われるという事実は、日本の財政が「借金頼み」の運営から一歩も抜け出せていないどころか、加速していることを示している。
片山さつき財務相は「財政の持続可能性を実現し、市場の信認を維持したい」と述べるが、この行動自体が財政の持続可能性を揺るがし、通貨の信認を危うくしているのだ。政府はこれを「責任ある積極財政」と称する。しかし、その実態は、「まずは今の国民の暮らしを守る物価高対策」という短期的な人気取りと、「成長投資」という聞こえの良いスローガンの裏側で、将来世代へツケを回すという、極めて無責任な賭けであると言わざるを得ない。
この無責任な賭けの根底にあるのは、「国の借金はいくら増えても無害だ」というありえない前提、すなわちMMT(現代金融理論)に極めて近い思想である。だが、この前提は、世界最高水準の経済学の実証データによって、徹底的に、そして冷酷に粉砕されていることを、私たちは知らなければならない。
高市政権の財政政策を批判する上で、感情論やイデオロギーに頼る必要はない。私たちは、極めて信頼性の高い、科学的な根拠を持っている。
高市政権の「借金頼み」の積極財政が、日本経済を粉々に
それが、ジョージ・メイソン大学のマーカタス・センターが2025年8月に発表した、公的債務と経済成長の関係を分析したサーベイ論文(Jack Salmonによる)である。このマーカタス・サーベイは、単なる一研究者の意見ではない。その信頼性は、以下の点からほぼ疑いようがないレベルにある。
(1) データと科学的方法を重視するジョージ・メイソン大学の研究機関が出している。
(2) 2010年から2025年の間に発表された70本もの実証論文(そのうち62本が査読済み学術ジャーナル)を徹底的に集めて分析している。
(3) 単純な論文の感想文ではなく、171個もの推定値を統計的にまとめて「平均的な結論」を導き出す本格的なメタ分析(REML法)を用いている。
(4)結論は、「高債務は成長に悪い」という、過去15年間の研究のほぼ全て(96%)と同じ方向を指し示しており、研究の総数70件のうち、公的債務に「効果なし」とした論文はたった2件であることから、「国の借金は無害」という見解を支持する論文はごく少数であることを明確に数字で示している。
この研究は、MMTのような「借金無害論」が、世界の主流派経済学のデータによるコンセンサスではないことを示す、現時点で最も強力な結論であると言える。この信頼性の高い実証データは、高市政権の「借金頼み」の積極財政が、日本経済を粉々に破壊していくかを、三つの明確な経路で示している。
借金そのものが成長のブレーキになる
最も根源的な問題は、借金そのものが成長のブレーキになることである。高水準かつ増加し続ける国の借金は、特に債務のGDPに対する割合が一定の限度(閾値を超えた場合、経済の成長の勢いを減速させる「債務の足かせ(debt drag)」として作用する。メタ分析の推計によれば、公的債務比率が1パーセントポイント増加するたびに、経済成長率は1.34ベーシスポイント(0.0134%)低下するという「累積的な足かせ」となる。
このわずかな成長率の差は、長い期間で積み重なると、極めて深刻な結果を招く。例えば、年率3%で成長する経済は23年で倍増するが、2%成長では35年かかる。高市政権が借金を増やしてまで行う短期的な家計支援の利益は、この長期的な「成長の足かせ」によって、確実に帳消しにされてしまう。
巨額の新規国債発行は民間の経済活動を邪魔する
次に、巨額の新規国債発行は、金利の上昇を引き起こし、民間の経済活動を邪魔する。11兆円を超える追加の借金をするということは、政府が借入市場で、家計や企業とお金を奪い合う競争をすることになる。この競争の結果、長期の実質金利が押し上げられる。実証研究の多くは、国の債務対GDP比が1%上がるごとに、長期金利が3〜5ベーシスポイント(0.03%〜0.05%)上昇することを示している。金利が上がると、家計や企業がお金を借りるコストが増える。企業は新しい工場や機械への投資(民間投資)を減らす。この投資の減少は、国の将来の豊かさの元となる「資本ストック」を縮小させ、将来の国民生活水準を低下させるのだ。
最も恐ろしい経路は、財政・通貨の信頼性の崩壊である。借金が際限なく増え続ければ、市場は「この国は借金を、お札を大量に刷って(マネー創造で)返すのではないか」と疑い始める。これが現実のものとなれば、将来のインフレ(物価高)のリスクが目の前に迫ってくる。投資家は、インフレによるお金の価値の目減りに備えるため、より高いインフレ・リスク・プレミアムを求める。さらに、政府の財政運営が「責任ある」どころか「無責任」だと市場が見なせば、「この国は借金を返せないかもしれない(財政破綻)」という懸念から、ソブリン信用リスクプレミアムという追加の費用を要求し始める。これらはすべて、政府の借入コストをさらに悪化させ、不安定性を増大させる。
「選挙までの支持率」と引き換えに「将来の成長」を差し出す
高市政権は「責任ある積極財政」という言葉を使うが、その真意は「選挙までの支持率」と引き換えに、「将来の成長」を差し出していることにほかならない。私たちは、目先の利益や人気に惑わされることなく、長期的な視点を持ち、将来世代の利益を守ろうと、データと科学に基づいて警鐘を鳴らし続ける専門家たちの誠実な研究を尊重すべきである。彼らの存在こそが、政治が感情論に流されるのを防ぐ、知性の防波堤である。
経済政策において、「何が正しいか」を判断する根拠は、政治的なイデオロギーや、都合の良い理論ではなく、世界で集積された「実証データ」であるべきだ。データが示す教訓、すなわち「先進国が持続可能な繁栄を追求するためには、債務をGDPの80%未満に保つべきである」という経験的に裏付けられた指針を無視してはいけない。
データが示す破壊の道
それを無視して行う積極財政は、もはや「積極的」ではなく、「破壊的」である。
借金は、将来世代からの「時間の前借り」である。
その前借りによって今日得られる利益が、将来世代の経済成長と生活水準に与える損害を上回るのか。この補正予算案の借金は、その問いに「Yes」と答えるだけの十分なリターンを証明できていない。
高市政権の「責任ある積極財政」は、データに基づかない「国の借金は無害」という幻想の上に築かれた、極めて危険な砂上の楼閣である。このままでは、日本経済は高市政権の高支持率と引き換えに、現実に起きているデータが示す破壊の道を歩むことになる。
私たちが今、直面しているのは、目先の人気と引き換えに将来の繁栄を差し出すという、静かなる「国家の自殺」の危機である。高市政権の掲げる高支持率は、この危険な道のりを盲目的に肯定する「国民の幻想」の鏡にほかならない。しかし、経済の法則は感情や政治的なスローガンに左右されない。冷徹な実証データが示す教訓に耳を傾け、この破壊的な積極財政の潮流を食い止めなければ、将来世代は、今日の無責任な賭けの代償を、計り知れない貧困という形で支払うことになるだろう。今こそ、幻想から覚め、データと科学に基づく健全な財政への回帰を求める時である。