青山繁晴「日本は隠れた資源大国」「レアアースは中国産より純度20倍」…あまりに飛躍しすぎ!疑問の声「国際社会の方向性とかみ合わない主張」

2025年12月1日、青山繁晴参院議員が客員教授を務める近畿大学で講演を行い、南鳥島近海で確認されているレアアース泥の高い純度について語ったことが産経新聞により報じられた。記事によれば、青山氏は、レアアースの世界生産の約7割を中国が占める現状を示し、日本の領海と排他的経済水域を合わせた面積が世界第6位であることに触れて、その広大な海域に海底熱水鉱床やレアアース泥が存在していると説明した。南鳥島のレアアース泥については、「中国の陸上産レアアースの純度のおよそ20倍である」と述べ、日本の海域に眠る資源の潜在力を強調したとされている。青山氏は「日本は隠れた資源大国だ」とも強調する。しかし政治に詳しいコラムニストの村上ゆかり氏は疑義を唱える。村上氏が詳しく解説する――。
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「本当の絶望はこれからやってくる」
講演会のタイトルは「絶望を撃つ」であった。青山氏の近畿大での講演を報じた記事では、青山氏が「人工知能(AI)が知的労働を大きく代替しうる未来」を見据え、「今がどれほど困難な時代の入り口なのか。本当の絶望はこれからやってくる。今から備えなければならない」とも語ったと紹介している。
青山氏が語った南鳥島とは、東京から約1900キロ離れた日本の最東端の小島である。2011年、東京大学・加藤泰浩氏らの研究グループが、南鳥島近海の水深5000メートル級の深海底泥から高濃度のレアアースを発見し、学術誌『Nature Geoscience』で「太平洋の深海泥はレアアース資源として有望である」と報告した。
南鳥島のレアアースを語る際によく引用される「中国産の20倍」という表現は、学術研究の一部に由来する数字であろう。東京大学などの研究チームが深海底から採取した泥の中に、レアアース濃度が非常に高い層が存在し、その部分だけを取り出して中国南部の典型的な陸上鉱床と比較すると、濃度が20倍前後になるという報告が出されている。
特定の層の濃度が高いこと自体は研究成果として重要であるが、それが南鳥島全域の平均濃度が「中国の20倍」であることを意味するわけでもなく、「20倍」という濃度の高さそのものが、日本を資源大国と位置づける根拠になるわけでもない。レアアースは17種類の元素の総称であり、同じ泥でも中身の組成によって価値は大きく変わる。需要の高い元素が多いほど価値は高く、逆に安価な元素が中心なら濃度が高くても採算が取れない。
「資源大国」という国家像を直接結びつけるのは飛躍しすぎでは
つまり、レアアースの価値は濃度だけで決まらず、中身の組成、地質条件、周辺インフラ、回収技術の確立など複数の要素がそろって初めて資源としての実力が評価される。また、深海泥のレアアース泥は「濃度は高いが、粒子が極めて細かく、分離・精製が陸上鉱石と全く異なる難しさを持つ」と専門家が繰り返し指摘されていることも踏まえると、濃い試料が存在するという事実は科学的な可能性の一つを示しているに過ぎず、その段階で「資源大国」という国家像を直接結びつけるのは飛躍しすぎではないか。
ちなみに2010年時点では、日本のレアアース輸入の約9割は中国に依存していたが、経済産業省の資料では2020年時点で日本のレアアース輸入の約6割が中国由来であるとし、依存度が大きく低下したことを明らかにしている。日本は依然として中国に大きく依存しているものの、最近ではオーストラリアなどの鉱山、マレーシアの製錬所、Lynas社との連携、さらには国内リサイクルや代替磁石技術など、多層的なサプライチェーンを持ちつつある。
そして現在の中国はレアアースを輸出規制カードとして乱用しにくくなっている点も見過ごせない。
あくまでも「地質学的ポテンシャル」
2014年、WTOは中国のレアアース輸出規制(関税と数量制限)がWTO協定違反であると認定した。今後もし中国が露骨な禁輸措置をとれば、WTO違反リスクや「経済的威圧」としての国際批判が強まる。レアアースは依然として中国が支配的な地位にあり、特に「重希土類」と呼ばれるジスプロシウムなどでは、分離・精製能力のほとんどが中国に集中しているとされている等から、日本にとってレアアース供給は今も安全保障の重要な資源であることは間違いないが、2010年のように「禁輸=即産業崩壊」という構図ではない。
たしかに『Nature Geoscience』2011年論文は、太平洋の深海泥がレアアース資源として「非常に有望」であると述べられた。しかしそれはあくまで「地質学的ポテンシャル」の評価であり、実際に採掘・輸送・精錬を行い、民間企業が現実に採算を確保できるかどうかは、まったく別の次元の問題だ。
商業採掘の可能性を検証するためには最低限、水深5000〜6000メートルの海底から泥を採取する等の技術的検証、コスト比較等の経済的検証、規制・環境検証が必要になる。
なぜ青山氏の安易な主張はリスクなのか
2025年時点で、南鳥島レアアース泥はまだ商業生産に至っていない。日本政府は2026年から南鳥島沖でレアアース泥の試験採掘を開始する計画であるとされ、「テスト段階」であることが強調されている。繰り返しとなるが、青山氏が「日本は隠れた資源大国だ」と語ることにはリスクがある。
まず、国民に「海を掘ればすべて解決する」という過度な期待を与えるリスクがある。財政再建や産業構造改革、エネルギー転換など、本来は痛みを伴う政策から目をそらせ、「海底資源があるから大丈夫」と誤解させる危険がある。
国際政治上のシグナルというリスクも考えられる。深海資源は他国も注目しており、「日本がEEZ内のレアアースを囲い込もうとしている」と受け取られれば、周辺国との緊張を高める可能性がある。このようなリスクを踏まえずに「資源大国」というスローガンだけが独り歩きすれば、国際協議を軽視する圧力になりかねない。
そもそも「レアアースに対抗するためのサプライチェーン強靭化」は、すでに何年も前からG7首脳会談での既定路線になっている。
金融危機後の世界経済ガバナンスで恒常的なテーマ
2010年に起きた尖閣・レアアース事件は、日本だけでなく欧米にも衝撃を与えた。前述のとおり、中国が日本向けレアアース輸出を約2カ月停止したことは、先端産業のサプライチェーンが1国に過度依存する危うさを象徴する出来事であった。
この経験を背景に、G8(当時)やG20では、一次産品価格の高騰と資源ナショナリズムが世界経済のリスク要因として議論されるようになった。2011年のドービルG8宣言は、商品価格の急騰と過度な変動が世界経済の回復を妨げると警告した。ここではレアアースの名指しこそされていないが、直前のレアアース騒動が議論の背景にあったことは、多くの分析で指摘されており、「資源・原材料の価格と供給リスク」は、金融危機後の世界経済ガバナンスで恒常的なテーマとなっていった。
2014年以降、G7では「責任あるサプライチェーン」が繰り返し議題にのぼる。2021年のG7コーンウォール・サミットの首脳コミュニケでは、「クリティカルミネラル(重要鉱物)」と半導体のサプライチェーン強靭化を明示した。2023年の広島サミットや2025年のカナダ・サミットでも重要鉱物の供給多様化と責任ある開発が合意された。
青山氏の主張とかみ合わない国際社会
重要鉱物には、レアアース、リチウム、ニッケル、コバルトなどが含まれ、再エネ・EV・デジタル技術に不可欠な資源として位置づけられている。つまり、日本のレアアース政策は、もはや「1国で中国と戦う」物語ではない。G7という枠組みの中で、供給多角化、環境・人権に配慮した採掘、リサイクル技術、代替材料開発などを協調して進める路線こそが、すでに「既定路線」になっているのだ。
「中国がレアアースを止めるかもしれないから、日本は自前で海底資源を掘って資源大国になるべきだ」という話は、一見わかりやすい。しかし今世界で主流となっているのは、同盟国や友好国と供給網を共有し、複数の調達先と技術を組み合わせることでリスクを分散するという考え方である。
例えるなら、「大事な植物」を買うときに、中国1店だけに頼るのは危険だからと言って、急に「全部自分の家の庭で作ろう」と言い始めるようなものだ。確かに原料(種)はあって、庭には土や水があるかもしれない。しかし、肥料も道具も必要で、時間も費用もかかる上に、本当に育つのか検証が不十分である。信頼できる店や家を複数確保し、バランスを考慮しながら買い物をする方がはるかに現実的だ。G7各国が進めているのは、まさにこの「連携する店や家を増やす」戦略である。オーストラリアやカナダの鉱山、欧米の製錬技術、日本のリサイクル技術、韓国の加工産業など、各国の得意分野を組み合わせてサプライチェーン全体を強くする仕組みが構築されつつある。
青山氏は、自身の専門分野・やりたい領域に繋げすぎていないか。レアアースの問題を語っても、最終的に「日本は海底資源で自立できる」という自身の得意領域の物語につながってしまい、現在の国際社会が進めている多国間協調の方向性等、実態と噛み合わなくなっているのではないか。レアアースは重要な安全保障の対象の1つであるからこそ、同盟国間での協調こそがリスクを最も低くする。日本の資源エネルギーの可能性を追うことは未来を拓く力になる。しかし、現実に国家を動かす柱になるのは、検証された現実と多層的な備えである。日本にある様々な資源の可能性を探る一方、現実の制約と国際協調の力を踏まえながら日本の未来をより確かなものにするための建設的な議論が広まることを、筆者は心から願っている。