どれくらいオトク? 大学生の子どもが不安になるくらいバイトしています。2025年の年末調整から“大学生が対象の控除”ができたそうですが、どう税金は減るのですか

大学生の子どもたちが「稼ぎすぎないか」不安に思う親は多いだろう。さて、会社員の読者たちはもう年末調整を所属先に提出したはずだ。だが、今年の年末調整はちょっとこれまでとは違っていたことに、賢い人は気づいていたのではないだろうか。経済アナリストの佐藤健太氏はこの新しい制度について「わずか数万円でも違えば控除額が変動するため、親は誤申告しないよう注意が必要だ」と注意喚起している。「子供の勤務予定などを親がしっかり把握しておくことが重要」。その制度は「特定親族特別控除」である。アルバイトが大好きな大学生がいる家計は要注意だ。それでは、これが一体どんな制度なのか、佐藤氏が詳しく解説していく――。
目次
わずか数万円でも違えば控除額が変動
今年の「年末調整」は、いつもと違う。12月1日施行された「特定親族特別控除」がある点だ。大学生世代の子を持つ親が活用できる制度で、19歳以上23歳未満の子を扶養している親は最大63万円の所得控除を受けられる。だが、わずか数万円でも違えば控除額が変動するため、親は誤申告しないよう注意が必要だ。
2025年度税制改正では、所得税の基礎控除や給与所得控除の見直しに加え、「特定親族特別控除」を創設することが決まった。そもそも、扶養控除とは納税者に扶養している親族がいる場合、所得から一定額を差し引くことができる制度だ。これに「特定親族」がつくと何だか変な感じがするかもしれないが、そこまで難しいものではない。
特定親族は、居住者と生計を同じくする19歳以上23歳未満の親族で、合計所得金額が年間58万円超123万円以下の人を指す。親族には児童福祉法の規定により養育を委託された「里子」を含む。ただ、配偶者や青色事業専従者として給与の支払いを受ける人、白色事業専従者は除く。
国税庁の公式サイトによれば、特定親族特別控除は「納税者に、生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族等で、合計所得金額が一定金額以下の控除対象扶養親族に該当しない者(以下「特定親族」といいます)がいる場合には、一定の金額の所得控除が受けられます」と記されている。年末調整において、特定親族特別控除の適用を受ける人は、給与の支払者に「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要がある。
先に特定親族の合計所得金額が58万円超123万円以下と書いたが、これは年中の収入金額が給与だけの場合、123万円超188万円以下であれば、同じことを意味する。
具体的に特定親族特別控除の控除額を見ていこう
具体的に特定親族特別控除の控除額を見ていこう。()内は収入が給与だけの場合の収入金額を指す。
① 58万円超85万円以下(123万円超150万円以下)の特定親族特別控除額は63万円
② 85万円超90万円以下(150万円超155万円以下)の控除額は61万円
③ 90万円超95万円以下(155万円超160万円以下)の控除額は51万円
④ 95万円超100万円以下(160万円超165万円以下)の控除額は41万円
⑤ 100万円超105万円以下(165万円超170万円以下)の控除額は31万円
⑥ 105万円超110万円以下(170万円超175万円以下)の控除額は21万円
⑦ 110万円超115万円以下(175万円超180万円以下)の控除額は11万円
⑧ 115万円超120万円以下(180万円超185万円以下)の控除額は6万円
⑨ 120万円超123万円以下(185万円超188万円以下)の控除額は3万円
親族の合計所得金額が58万円以下の場合は特定親族特別控除の対象とはならないが、扶養控除の対象になる。19歳以上23歳未満の親族は特定扶養親族に該当し、扶養控除額は63万円だ。特定親族特別控除の規定は12月1日に施行され、2025年分以後に適用される。
大学生が「アルバイト控え」企業にとって労働力不足リスクに
なぜ特定親族特別控除が新設されたのかと言えば、大学生世代の子と生計を同じくする家庭の負担を軽減するのが第1の理由だ。これまでの扶養控除では子の年間所得が48万円(給与収入で103万円)を超えると控除は受けられなかった。第2の理由は、大学生の子が自らの年間所得が増えていくと控除対象外になるため、親に気を使ってアルバイトを控えてきた悪循環を改善する狙いがある。年末には就業調整も目立ち、企業側にとっては特定の時期に労働力不足が生じるリスクとなっていた。所得制限を見直すことにより、働き控えを緩和することを目指したものと言える。
連合の「学生を対象とした労働に関する調査」(2022年)によれば、「アルバイトの経験あり」と回答した大学生等は90.7%に上る。タウンワークマガジン(リクルート)が2025年2月に現役大学生約1600人を対象にアンケートを実施したところ、大学生のバイト代の平均月収は5万円台が最も多かった。
計算方法は簡単だ!
学年別では、大学1年生が5万円台、大学2年生は7万円台、大学3年生は5万円台、大学4年生は6万円台。アルバイトの平均時給は最低賃金が高い三大都市圏で1200円~1250円が最も多く、それ以外の地域では1000円~1050円が多かったという。
これらの調査結果を踏まえれば、特定親族特別控除の創設は当然だろう。子供の自立を促しつつ、親の経済負担を緩和していくのは国家の政策として正しい方向と言える。19歳以上23歳未満の親族は、仮に別居していても生活費の仕送りなどで実質的に扶養しているならばOKだ。住民税も同様に適用される。ただ、青色申告者の専業専従者として給与を受けていない、白色申告者の専業専従者ではないことが条件となる。家族経営の会社で働いている場合には注意が必要となる。もちろん、子供がすでに別世帯の場合は適用対象外となる。
計算方法は簡単だ。節税できる所得税額は「控除額×税率」という計算で算出される。先に説明した控除額が63万円の場合、親の課税所得が600万円(税率20%)であれば、節税額は「63万円×20%=12万6000円」ということになる。これが所得税の分だ。
特定親族特別控除には住民税の分もある。住民税は所得割と均等割があるため少し複雑な感じがするのだが、所得に応じて税率がかかる「所得割」の税率は10%だ。
節税できる住民税額は「控除額×税率10%」と覚えておくと良い
ここでも子供の合計所得金額別に控除額を見ていこう。
① 58万円超85万円未満の控除額は45万円
② 85万円超90万円未満の控除額は45万円
③ 90万円超95万円未満の控除額は45万円
④ 95万円超100万円未満の控除額は41万円
⑤ 100万円超105万円未満の控除額は31万円
⑥ 105万円超110万円未満の控除額は21万円
⑦ 110万円超115万円未満の控除額は11万円
⑧ 115万円超120万円未満の控除額は6万円
⑨ 120万円超123万円未満の控除額は3万円
つまり、子の合計所得金額は所得税なら85万円、住民税なら95万円以下であれば満額の控除を受けることができる。所得税の控除は最大63万円、住民税の場合は最大45万円だ。節税できる住民税額は「控除額×税率10%」と覚えておくと良いだろう。なお、住民税の「均等割」は所得にかかわらず定額の負担となる。
特定親族特別控除の適用には、年末調整で子の合計所得金額の控除額を申告する必要がある。
誤申告とならないために子供の勤務予定を親がしっかり把握
「給与所得者の扶養控除等申告書」に記載する必要があるのだが、ポイントは子の「所得証明」と言える。源泉徴収票をすぐに出せば良いと思うかもしれないが、そこには2つの「落とし穴」がある。1つ目は、子が自分で確定申告をして控除することを選べば、親の方は適用することができなくなる点。2つ目は、子の合計所得金額は見積額であっても良いが、年末調整で申告した後にアルバイト先からの支払いに変動があった場合は面倒が生じる。数万円単位で控除額が変動するため、親は誤った申告にならないよう税理士に相談するなど注意が必要だ。
年末はアルバイト先から「もっと働いて欲しい」と頼まれることも多いシーズンだ。それだけに繁忙期に働く日・時間を増やすと、親が申告した見積額から変動してしまう可能性もある。誤申告とならないためには、子供の勤務予定などを親がしっかり把握しておくことが重要となる。あなたは、親子間のコミュニケーションに自信があるだろうか?
今回の特定親族特別控除は、子育て世代の経済的負担軽減と、大学生の働き控えの緩和を目的として新設された。控除額が細かく変動するため、親は子の年間のアルバイト収入を正確に見積もり、誤申告を防ぐための連携が求められる。