「もはや中国、四面楚歌」経済アナリスト指摘…焦る習近平、GDP下方修正待ったなし!日本への報復措置が与える「ブーメラン」

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 軍事的威圧と経済報復を繰り返す中国の影響力に陰りが見えてきた。高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる国会答弁に反発し、中国は日本への渡航自粛や海産物の輸入禁止、さらには中国軍機による航空自衛隊F15戦闘機へのレーザー照射といった“暴挙”を見せるものの、日本は冷静に淡々と事実関係を積み上げて反論し、国際社会もそれに同調しているためだ。経済アナリストの佐藤健太氏は「報復措置の数々は、かえって中国が国際的な孤立を深めることに繋がっている。対中包囲網が着々と築かれ、中国には焦りが見える」と指摘する。はたして、中国はどのように“落としどころ”を見つけるのか。佐藤氏が解説する――。

目次

経済面の報復措置から軍事的な威圧へ

「本訓練を通じて、力による一方的な現状変更を起こさせないとの日米の強い意思及び自衛隊と米軍の即応態勢を確認し、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化しました」。防衛省統合幕僚監部は12月11日、「X」(旧ツイッター)の公式アカウントにこのように投稿した。航空自衛隊からF35戦闘機3機とF15戦闘機3機、米軍からB52戦略爆撃機2機が参加した戦術訓練を同10日に実施し、軍事的な威圧を続ける中国に強固な日米同盟を見せつけた形だ。在日米軍司令部(USFJ)も翌12日の「X」で、統合幕僚監部の投稿を引用し、「Stronger together 地域の平和と安定を守るため、日米共同訓練を通じて、強固な連携と抑止力をさらに強化しました」とつづった。

 中国は12月6日、沖縄本島南東の公海上空で海軍の空母「遼寧」から飛び立った戦闘機が自衛隊機へ断続的にレーダー照射を行った。また、同9日にはロシアの爆撃機と中国の爆撃機が南シナ海から四国沖の太平洋にかけて共同飛行を実施している。中国側は訓練の事前通知をしていたとする音声データを公開し、日本の戦闘機が中国側を妨害したと説明。その上で「訓練時の探索レーダー作動は一般的な行為」であると主張したが、日本は「自衛隊は安全な距離を保っていた」「断続的な照射はありえない」と反論した。

 小泉進次郎防衛相は同10日の記者会見で「長時間レーダー照射を受けるという極めて緊張を強いられる状況で冷静に任務を遂行した自衛隊のパイロットとパイロットを支える地上クルーを誇りに思う」と語った。

高市政権、逆に中国側に抗議する強硬姿勢

 自衛隊制服組トップの内倉浩昭統合幕僚長は「中国側が約30分間にわたる断続的なレーダー照射を行ったことは、航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為」と中国側の主張を完全否定した。

 これまでの日中関係であれば、中国が経済面での報復措置から軍事的な威圧に切り替えた段階で、日本政府サイドから「落としどころ」を模索してきたところだ。だが、今の高市政権の対応は従来とは大きく異なる。いざ「台湾有事」となった時は、集団的自衛権の行使が可能になる「存立危機事態」とする可能性に触れただけではなく、中国側が求める国会答弁の撤回を拒否し、逆に中国側に抗議する強硬姿勢を見せている。

 もう1つの特徴は、外交・安全保障に対するスタンスの変化だ。小泉防衛相は豪州やイタリアの国防相、北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長らと連携強化を確認し、日本側に協力を求め続けてきた。12月12日には米国のヘグセス国防長官とも電話協議し、レーダー照射問題に対して日米による「深刻な懸念」を共に表明した。これは小泉氏が主導し、米国のみならず欧州を巻き込みながら対中包囲網を築いていく動きと言える。国家安全保障局の市川恵一局長もドイツの首相補佐官と電話会談するなど同盟・同志国を中心に対中包囲網の構築へ汗を流す。

ドイツと認識を一致させる小泉防衛大臣

 こうした日本側の動きに中国政府は焦りを隠せない。習近平国家主席は訪中したフランスのマクロン大統領との首脳会談に加え、地方都市にまで同行する異例の厚遇を見せた。さらに王毅外相はドイツのワーデフール外相と北京で会談し、「ドイツとは異なり、日本は戦後80年が経っても侵略の歴史を徹底して反省していない」「日本は敗戦国として深く反省し、言動を慎むべきだ」などと高市首相の国会答弁などを批判。ドイツ側に中国への支持を求めた。

 ただ、7月に独軍機は紅海で中国軍艦からレーザー照射を受けたばかりだ。この際、ドイツは中国の駐独大使を呼び出し抗議したが、中国政府は「中国が把握している事実とは異なる」と反論している。これらの点も踏まえ、小泉防衛相は12月9日、ドイツのジグムント駐日大使と会談し「このような事案に対しては冷静かつ毅然と対応する必要があり、国際社会の平和と安定のため両国が協力し対話を継続していく」ことで認識が一致した。

おまゆう…中国「日本の防衛費が13年連続で増加」

 米国務省も「中国の行動は地域の平和と安定に寄与しない」とする声明を出している。米大統領報道官は12月11日の記者会見で、トランプ大統領は「日本と強固な同盟関係を維持しつつ、米国が中国とも良好な協力関係を築く立場にあるべきだと考えている」と指摘した。小泉氏は年明けに訪米し、ヘグセス国防長官との会談を通じて日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していく方針という。

 焦る中国側は呉江浩駐日大使が同11日の「X」で、日本の防衛費が13年連続で増加していると指摘した中国外務省報道官のコメントを引用する形で日本政府を批判しているが、まさに「おまゆう」とはこのことだろう。中国は2025年の国防費が少なくとも約36兆円に達し、前年比7.2%と軍拡を続けている。日本政府は2026年度予算案の防衛費を過去最大の9兆円規模とする方向で調整しているが、小泉防衛相は中国の「国防費の伸びは日本の約4倍」「透明性を欠いたまま国防費を増加させ、軍事力を強化している」などと指摘してきた。中国は12月12日にも南シナ海の中国領空にフィリピンの小型飛行機が侵入したとして追跡や監視を加えたとする報道官談話を発表したが、南シナ海で領有権を争うフィリピンの国防省は「国際空域で危険な行為は許さない」などと中国を非難する声明を発表した。

12月は900便超の運休、コンサート・ミュージカルも中止

 中国は単に地域の「トラブルメーカー」になっているだけではなく、もはや「四面楚歌」になりつつあるように映る。

 中国の外交が“失敗”しているのは明らかだ。中国外務省の報道官は「高市首相の台湾問題に関する誤った発言は、中国の国民の強い憤りだけでなく、日本でもますます多くの客観的で理性的な反対の声や批判があがっている」と指摘。さらに「日本では最近、相次いで地震が発生し、多数の人が負傷している。日本の関係部門は今後さらに大きな地震が発生する可能性があると発表している」などと、改めて日本への渡航を控えるべきだと強調した。中国は12月に日本に運航するはずだった900便超の運休を決め、11月末に開催予定だった日中韓3カ国の文化相会合も延期した。国営新華社通信は「毒苗」と高市氏を呼び、日本に関する映画の上映やコンサート、ミュージカルなどが相次いで中止となっている。

報復措置は自国にも悪影響を与える「ブーメラン」

 中国の薛剣・駐大阪総領事は「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」などとSNSに投稿したほどだ。

 だが、その数は減ったものの、東京や大阪といった大都市圏を中心に中国人観光客は未だに来ている。自国民の行動を抑制する力を失った今、12月8日に青森県沖で発生した地震も理由にあげながら渡航自粛を呼びかけるのは中国政府の焦りの証左だろう。中国による経済面での報復措置は自国にも悪影響を与える「ブーメラン」だ。日本への渡航自粛は中国側の旅行業や航空業に打撃を与える。航空会社の減便は収益減に繋がり、中国の観光産業にも間接的な影響が波及する。

 言うまでもなく、中国経済は「輸出主導型」である。中国は内需が低迷し、国内の供給過剰が深刻化する中で純輸出が成長を主導してきた。日本貿易振興機構(JETRO)のまとめによれば、日本から中国への対中輸出額は2024年に1565億ドルだ。これに対し、中国から日本への輸入は1671億ドルに上っている。中国は日本の第2位の輸出市場で、日本は中国の第3位の貿易相手国という「相互依存」関係になっている。中国の輸出依存度は高く、製造業を中心に就業率の低下や国内消費の冷え込みも助長する。相互依存が高い分、中国にとっても「痛み」が避けられないのは間違いない。

中国GDPが2ポイント程度押し下げ、目標下回る試算も

 これまで中国はナショナリズムを巧みに利用し、相手国に圧力をかけるスタンスを見せてきた。ロシアや北朝鮮などと親密な関係を構築し、「アジアの大国」として日本の孤立を浮き彫りにする戦略を採ってきたと言って良いだろう。ただ、ロシアはウクライナ侵略によって米国や欧州から距離を置かれている最中だ。ロシアに協力する北朝鮮も米国のトランプ政権誕生で身動きがとれていない。

 米CNNテレビによれば、トランプ大統領は就任前の2024年に開かれた会合で、中国の習近平国家主席に対して「(中国が台湾を侵攻すれば)北京を爆撃する」などと伝えたと報じられている。さすがにトランプ流の「ブラフ」と見る向きは少なくないものの、トランプ大統領であれば何をするかわからないという「警告」になっているとの受け止め方が広がる。

 加えて、米中貿易戦争は中国側に大打撃となる。米国の関税措置によって中国のGDPは2ポイント程度押し下げられ、目標とする「5%」を下回るとの試算もある。

中国経済は成長率が低迷し、不動産危機も深刻化

 中国経済は成長率が低迷し、不動産危機も深刻化している。先に触れたように、中国は輸出額が減少していけば国内経済を圧迫する。そこに日本との摩擦が加われば、サプライチェーンに打撃を与え、国内産業の停滞を招く。つまり、下方修正は待ったなしという訳だ。

 トランプ大統領は12月2日、米国と台湾の交流に関する指針を見直し、更新することを義務づける「台湾保証実施法案」に署名した。中国外務省は「台湾問題は中国の核心的利益の中核であり、越えてはいけない第1のレッドライン」と反発するが、だからと言って中国が米国を相手に圧力や報復措置に踏み切れるわけではない。

 日本と米国の関係が蜜月のままであれば、中国はこれ以上の報復措置を実行することは得策ではなく、緊張緩和に向けて動き出す必要があると習近平国家主席も認識しているのだろう。すでに経済面での相互依存関係が強い中、完全なデカップリングも現実的ではない。

 いまだ日中間の緊張状態は残っているものの、中国が焦っているのは「国際的な孤立」と「中国経済への打撃」の2点が見えているからだ。来年には、米国のトランプ大統領と習近平国家主席が改めて首脳会談で向き合うことになる。それまでの緊張緩和は難しいだろうというのが大方の見方だろう。四面楚歌の中国はどのように着地点を見いだすのか。中国の報復措置が十分に機能しなくなった今、日本のみならず国際社会が“監視”の目を光らせている。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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