高市総理、“保守”に愛されても市場は嫌う…暴走財政で長期金利2%に怯える声「金利上昇を操ることなど無理」当たり前の現実

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 12月19日の東京債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の流通利回りが一時、前日比0.050%高い2.020%にまで上昇した(債券価格は下落)。これは1999年8月以来、約26年4カ月ぶりの高水準だった。日銀による利上げ決定や積極財政の高市政権下で財政悪化が進むと市場で懸念され、債券売りが強まっている。一方で高市総理は台湾有事を巡り威勢のいい発言をするなど、保守層からは高い評価を受けている。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説する――。

目次

金利とは何か。それは単なる数字ではない

 12月、東京の空は高く、どこまでも澄み渡っている。

 大手町のオフィス街を歩く人々の吐く息は白い。ショーウィンドウにはクリスマスの装飾が施され、街は華やいでいるように見えるが、投資家の表情には、どこか落ち着かない緊張が漂っているのではないか。長期金利が、ある境界線を越えたことを告げているからだ。長期金利、2パーセント。長らくゼロ近辺に張り付いていたこの数字が動き出した事実は、静かな、しかし不可逆的な時代の転換を物語る。

 私たちは長年、ある種の心地よい幻想の中にまどろんでいたのかもしれない。政府がどれだけ借金を重ねても、中央銀行が紙幣を刷り続ければ、金利は低く抑え込めるという幻想だ。国債という名の借用証書を市場に溢れさせ、それを別のポケットにある財布で買い支えるような奇妙な永久機関が、永遠に回り続けると信じたかった。現代貨幣理論(MMT)や積極財政と呼ばれる考え方は、この永久機関にお墨付きを与えた。

 自国の通貨を持つ政府は財政破綻しない、だから景気が良くなるまでお金を配り続ければいい、と。まるで打ち出の小槌を手に入れたかのような万能感があった。しかし、市場という巨大な生き物は、そのような人間の傲慢さを静かに、だが冷徹に見つめている。

 金利とは何か。それは単なる数字ではない。お金のレンタル料であり、時間に対する対価であり、そして何より、その国の信用を映す鏡だ。無理な借金を重ねれば、貸し手は不安になる。「本当に返ってくるのだろうか」「返ってきたとき、そのお金の価値は下がっていないだろうか」。そうした不安が積み重なると、貸し手はより高い利息を要求する。これは経済の基本的な力学であり、引力のように逃れられない法則だ。

高市早苗に怯える市場「悲鳴入り交じる」

 この力学を無視してコントロールしようと試みた結果が、今の市場の悲鳴である。ある新聞記事が、この状況を克明に伝えている。

「日銀が政策金利を0.75%と30年ぶりの水準への引き上げを決めた19日、長期金利が節目の2%台に到達し、26年ぶりの水準をつけた。『金利のある世界』の到来は本来、日本経済の復活を告げるサインのはずだ。現実には、高市早苗政権の財政拡張や国債増発の懸念を揺れる市場の悲鳴が入り交じる。日本は成長型の経済に向けた険しい岐路に立っている」

「高市政権は金融政策の正常化を明確に支持し、財政出動は経済の供給力を高める分野に的を絞るべきだ。市場が信頼できる国債発行上の工夫や財政健全化への展望も欠かせない」

(日本経済新聞「長期金利2%、成長経済へ岐路 市場の悲鳴に耳傾け復活の狼煙絶やすな」12月20日)

 記事にある通り、金利上昇が経済成長の証なのであれば歓迎すべきものだ。しかし、今のそれは違う。借金が増えすぎることへの警戒、通貨の価値が下がることへの懸念が入り混じった、警告のサイレンに近い。

手の中から砂がこぼれ落ちるように、制御不能に

 積極財政を支持する人々は、政府支出が需要を生み、経済を牽引すると説く。不況期には政府が借金をしてでも支出を増やし、景気を下支えすべきだというケインズ以来の処方箋は、確かに魅力的に響く。特に、金利上昇を懸念する声に対しては、「中央銀行が買いオペを行えば金利は抑制できる」と反論してきた。

 しかし、現実はどうだろうか。中央銀行が国債を買い支えようとすればするほど、市場は将来のインフレを予見し、通貨の価値下落を織り込んで、かえって金利上昇圧力が高まるという皮肉な現象が起きている。コントロールしようとすればするほど、手の中から砂がこぼれ落ちるように、制御不能になっていくのだ。

 ここで、私たちは立ち止まって考える必要がある。本当に「政府支出の拡大」だけが正解なのだろうか。むしろ、逆のアプローチこそが、結果的に経済を良くする場合があるのではないか。この点について、国際通貨基金(IMF)による興味深い研究がある。

財政を絞ることが、逆に民間の活力を引き出し、経済を拡大させる場合があるという「拡張的財政縮小」の議論だ。

無秩序な財政拡大は、将来の増税やインフレへの不安を増幅

「短期的な財政乗数が常にプラスであるという伝統的な推定は、理論的および実証的な根拠の両面から異議を唱えられてきた。理論的な観点からは、リスクプレミアムや期待への影響が考慮されると、財政赤字削減による需要へのマイナスの影響は、民間国内需要の増加によって相殺以上の効果をもたらす可能性があると指摘されている」

「アイルランドやデンマークにおける1980年代の有名な調整局面では、財政再建の後に成長の急激な回復が続いた」

(International Monetary Fund. Research Dept.「Expansionary Fiscal Contractions: The Empirical Evidence」2012年)

 この指摘は、積極財政派の直感に反するかもしれない。支出を減らせば景気が悪くなるはずだ、と考えるのが普通だからだ。しかし、財政赤字が持続不可能なレベルに達している場合、話は別だ。

 無秩序な財政拡大は、将来の増税やインフレへの不安を増幅させ、家計や企業の財布の紐を固くさせる。逆に、政府が断固たる決意で財政再建に取り組めば、将来への不安が払拭される。金利の「リスクプレミアム」—つまり、政府が破綻したりインフレを起こしたりするリスクに対する上乗せ金利—が低下する。金利が下がれば、企業は設備投資をしやすくなり、個人の住宅購入意欲も高まる。結果として、政府が退いたスペースに民間が入り込み、経済全体としては拡大するというメカニズムだ。

私たちに踏みとどまるチャンスを与えてくれている

 私たちは、市場というシステムが持つ、ある種の機能を認めなければならない。市場は時に冷酷で、容赦ない審判を下す。しかし、それは嘘をつかない。政治家がどれほど言葉を尽くして「財政は健全だ」「金利は制御できる」と強弁しても、市場は静かに数字で反論する。その数字には、何万、何億という人々の「価値」に対する判断が凝縮されている。集合知、それこそが市場価格であり、金利なのだ。

 この自浄作用とも言えるメカニズムは称賛に値する。もし金利という警報機が鳴らなければ、私たちは破滅の寸前まで借金を重ね、最後には制御不能なインフレという崖から転落していただろう。金利が上がるということは、市場がまだ機能しており、私たちに踏みとどまるチャンスを与えてくれている証拠でもある。

「金利上昇をコントロールできるか」答えは、否

 無理な介入でこの警報機を止めようとしてはならない。警報が鳴り止むように、原因である過剰な借金体質を改めることこそが求められている。

コントロールできないものをコントロールしようとする欲望は、いつの時代も人間を過ちへと導く。自然災害を完全に防げないように、経済のうねりを完全に御することはできない。できるのは、その力学を謙虚に学び、備え、適応することだけだ。MMTや積極財政が描いた「金利を自在に操れる」という夢は、もはや覚めるべき時が来た。

「金利上昇をコントロールできるか」。この問いへの答えは、否である。そして、コントロールできないという事実こそが、私たちに規律を思い出させ、破滅から救ってくれる希望の光なのかもしれない。12月の寒空の下、点滅する2パーセントの数字は、私たちに覚悟を問うている。甘い幻想を捨て、現実という大地に足をつけて歩き出せるか、と。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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