1泊5000円台!「中国人観光客激減に日本人歓喜」…宿泊税は根拠失う「もはやホテルいじめだ」日本国民への増税

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 日中関係が冷え込んでいる。そのきっかけになったのは高市早苗総理による「存立危機事態」発言だ。対して中国は日本への渡航自粛要請を国民に出すなど“制裁”を行った。それによって日本の観光ビジネスは大きな打撃を受けることになった。一方で日本人からしてみるとこれまでオーバーツーリズムで訪日客でごった返していた観光地がとても行きやすくなった。経済誌プレジデントの元編集長で京都大学出身の小倉健一氏は「古都が本来の静けさを取り戻しつつある」と指摘する。小倉氏が解説する――。

目次

「こんな価格で京都に泊まれるの!?」

 京都の街から、あの耳をつんざくような喧騒が消えた。

 予約サイトの画面をスクロールする指が止まる。紅葉の季節も終わり、底冷えのする冬の京都とはいえ、週末のホテル価格が崩壊している。ほんの数ヶ月前まで一泊数万円、庶民には高嶺の花であったラグジュアリーホテルまでもが、信じられないような安値を提示しているのだ。3000円、5000円といった数字が並ぶ光景は、あたかも数年前にタイムスリップしたかのようである。かつて「観光公害(オーバーツーリズム)」と呼ばれ、住民を疲弊させていた人の波は、潮が引くように去っていった。

 この激変の理由は明白である。高市早苗首相による台湾有事に関連した不用意な発言(台湾有事における米軍の来援を当然の前提とした、論理的に欠陥のある答弁)に対し、中国政府が猛反発し、報復措置として日本への渡航自粛を国民に呼びかけたからだ。中国にツケ込むスキを与えたことは反省せねばならないだろう。

 しかし、一方で中国政府の対応は、国際社会の常識をあまりに逸脱している。政治的な不満を、民間人の交流や経済活動を止めることで晴らそうとする手法は、あまりに乱暴であり、到底容認できるものではない。「気に入らなければ客を送らない」という態度は、観光客をあたかも外交カードであるかのように扱っており、人間としての個人の自由を軽視している証左でもある。このような国に、我が国の地域経済の命運を委ねることがいかに危険であるか、図らずも今回の騒動が白日の下に晒したと言えるだろう。

怪我の功名、という言葉がある。

 首相の失言と隣国の恫喝という、外交的には最悪の組み合わせによってもたらされた現在の状況だが、皮肉なことに、京都や大阪の住民にとっては「平穏な日常」が戻ってくるという恩恵をもたらしている。

数ばかりを追い求めた観光政策の歪み

 観光バスが列をなし、生活道路が塞がれ、私有地にゴミが投げ捨てられる。情緒ある石畳の路地が、巨大なスーツケースを引く集団によって占拠される。そうした「異常な日常」から解放された今、古都は本来の静けさを取り戻しつつある。寺社仏閣は厳かな祈りの場としての尊厳を回復し、街は再び、思索と散策に適した空間へと回帰した。

「そうだ京都、行こう」

 これは単なる宣伝文句ではない。外国人観光客、とりわけ特定の国からの大集団によって埋め尽くされていた美しい風景が、再び日本人の手に戻ってきたのだ。

 外交上の失態によって生じた空白期間ではあるが、これを奇貨として、私たちは「数」ばかりを追い求めた観光政策の歪みを直視すべきである。急激なインバウンド依存は、地域住民に過度な我慢を強いるものであった。今こそ、国内旅行者や、静寂を愛する欧米などの個人旅行者に選ばれるような、質の高い観光地へと脱皮する好機と捉えるべきだろう。中国人観光客のみに依存する危うい経営体質から脱却し、自力をつけるための猶予期間が与えられたと考えるのが、建設的な態度というものである。

前提が完全に崩れたなかでの「宿泊税」の是非

 さて、このように観光客が激減し、街が落ち着きを取り戻した今、どうしても看過できない矛盾が一つある。「宿泊税」の存在だ。

 東京都、大阪府、京都市、そして新たに導入を目論む名古屋市のような自治体や、「改革」を標榜する首長たちは、この税金の正当性をどこに求めていただろうか。その最大の根拠は、「急増する観光客への対応」であったはずだ。観光客が押し寄せることでゴミ処理費用がかさむ、トイレの整備が必要になる、混雑対策に警備員を配置せねばならない。だから、その原因となる宿泊客に費用の一部を負担してもらう。この「受益者負担」の論理こそが、宿泊税導入の大義名分であった。

 だが、前提は完全に崩れた。

 原因となっていた「過度な混雑」は解消されつつある。ホテルは空室を埋めるために悲鳴を上げながら値下げを行い、なりふり構わぬ営業努力を続けている。それにもかかわらず、行政は宿泊税の徴収をやめようとしないばかりか、増税や新規導入の旗を降ろそうとしない。

 混雑が消えたのなら、それに対応するためのコストも減るはずだ。コストが減るのなら、それを賄うための税金も不要になるのが道理である。

これは紛れもない「日本国民への増税」である

 課税の根拠そのものが、波が引くように失われたのだ。にもかかわらず、一度作った集金システムには固執し続ける。これは、もはや「政策」ではない。単なる「惰性」であり、行政による「搾取」であると言わざるを得ない。

 特に理解に苦しむのは、行財政改革を看板に掲げる首長たちの態度である。彼らは普段、無駄な歳出の削減や、役所のスリム化を声高に叫んでいる。古い体質を打破すると言いながら、こと宿泊税に関しては、「取れるところから取る」という旧来の役人発想と何ら変わらない行動をとっているではないか。

 この宿泊税の最大の問題点は、それが外国人観光客だけでなく、日本人旅行者や出張者にも無差別に課せられる点にある。

 久しぶりの家族旅行で、少しでも節約しようと安いプランを探している家庭から、人数分のお金を徴収する。ビジネスホテルで疲れを癒やすサラリーマンから、缶コーヒー数本分のお金を奪う。これは紛れもない「日本国民への増税」である。

 インバウンドによる混雑を理由にしておきながら、そのツケを日本人に回す。しかも、インバウンドが減って混雑が解消された後も、税金だけは取り続ける。これほどの不条理が他にあるだろうか。

事業者の努力に冷や水を浴びせる行為

 今、観光地の現場では、ホテルや旅館が身を削って誘客に励んでいる。一泊3000円や5000円まで価格を下げ、なんとかお客さんに来てもらおうと必死だ。そこに数百円、あるいは千円単位の税金が上乗せされることは、事業者の努力に冷や水を浴びせる行為に他ならない。

「全体としては外国人観光客は増えているから良いではないか」という楽観論もあるかもしれないが、それは数字のトリックだ。特定国からの激減分を埋めるには至っておらず、現場の肌感覚としての景況感は冷え込んでいる。なにより、宿泊税という「罰金」のような制度が存在すること自体が、国内旅行の心理的なハードルを上げている事実に目を向けるべきだ。

 政治家に求められるのは、状況の変化に応じて柔軟に政策を変更する決断力である。現状を冷静に分析し、国民にとってプラスになるよう舵を切るのが政治の役割だ。中国人観光客が減り、環境負荷が下がった今、宿泊税を維持する理由はどこにもない。

まずは根拠を失った宿泊税を即時撤廃、あるいは凍結

「財源が必要だ」と言うならば、観光客が減った分、観光対策費を削ればよい。それが改革というものだ。安易に新しい税金に頼り、一度手にした財源を手放そうとしないのは、行政の肥大化を招くだけの悪手である。

 まずは、根拠を失った宿泊税を即時撤廃、あるいは凍結すること。

 これこそが、冷え込んだ観光マインドを温め、日本人が日本の良さを再発見する旅へと誘うための、最も有効かつ誠実な経済対策である。静寂を取り戻した古都の路地を歩きながら、私は強く思う。一時の感情的な対立や、硬直した税制に縛られることなく、もっと自由で、もっと軽やかな国のあり方を模索すべき時が来ているのだと。

 それぞれの猛省と是正の先にこそ、真に豊かで誇りある観光立国の姿が見えてくるはずである。

 宿泊税の撤廃は、冷え込んだ国内旅行の機運を温め、日本人が再び自国の魅力を享受する機会となる。硬直した行政の姿勢を改め、状況変化に柔軟に対応することこそ、真に豊かで誇りある観光立国の実現に不可欠であると、改めて強調したい。

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