「なぜ日本では中国人が現金で不動産を買えるのか?」参政党の問い…米報道「中国から資本流出、1年で39兆円規模か」巨額マネーを日本に持ち込む裏技

外国人の不動産取得問題が国会で取り上げられる中、その「豊富な資金」にも注目が集まっている。たとえば、中国本土からの海外送金は規制され、日本への年間5万米ドル以上の送金は規制対象となるはずだからだ。日本側も現金100万円以上の持ち込みは申告を必要としている。なぜ、中国人は日本の不動産を買い漁ることができるのか。サスペンス小説『奪われる~スパイ天国・日本の敗戦~』(みんかぶマガジンノベルス)を著し、日本の安全保障が脅かされていると警鐘を鳴らす作家の伊藤慶氏は「チャイナ・マネーの流入には2つの問題がある」と指摘する。不動産価格高騰の要因とも言われる問題は、解消に向かっていくのか――。
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目次
日本の不動産を買い漁る「原資」がどのう国内に入ってきたのか
まず触れておきたいのは、外国人・外国系法人による土地などの取得自体は現行法上、違法でも何でもない。だが、看過してはならないのは日本の安全保障上、重要な施設周辺における土地が取得されている点だ。そうでない場所であっても、観光リゾート地などにおいては近隣住民や地元自治体との間でトラブルとなっているケースもある。これらは、国家として取り組まなければならない問題であると言えるだろう。
12月15日、参院予算委員会で外国人による不動産取得問題が取り上げられた。参政党の神谷宗幣代表は「外国人の不動産取得が問題になっているが、中国人の不動産取得が多いというデータがある。中国では『政府の許可なく年間5万ドル以上の海外送金ができない』というルールになっている。なぜ、日本で多くの中国人がキャッシュで不動産を買えるのか。中国の方が不動産を買われる時の現金はどこから来ているのか。政府は調査をしているのか」と質問した。
神谷氏の質問がなぜ重要なのかと言えば、日本の不動産を買い漁る「原資」がどのように日本国内に入ってきているのか、日本政府が把握していない点を明らかにしたからだ。答弁に立った片山さつき財務相は「中国における送金規制がどのぐらい重視されているのか私どもではちょっとわからないが、日本に100万円以上の現金を持ち込むには申告が必要で、この申告をして持ち込んでもいる。令和6(2024)年度ですべての国において海外から3300億円くらい持ち込まれていて、そのうち中国が600億円。ただ、これは件数が結構あるので、平均して割ってしまうと何百万円になるが、中には多い方もいるのかもしれない。現金を持ち込むには申告しろとは言っているが、向こうの方でそれを守っているかどうかのところは分かりかねる」と説明した。
片山財務相「中国の不動産買いは世界中でやっており、どこも現金が多い」
その上で、片山財務相は「中国の方の不動産買いは世界中でやっているが、どこでも大変現金が多い。不正なものだったり、(マネー)ロンダリングだったりすると非常に困るので、仮に疑わしい取引の届け出であったらいけないので、そういう情報やマネロン犯罪などの関係も含め、海外からの送金であろうと他の手段であろうと、きちんと対応をする努力をする」と答えている。この3300億円、600億円という数字を聞いて驚いた人も多いはずだ。
ただ、これは「氷山の一角」と言えるだろう。あくまでも日本政府が把握している「表のカネ」だからだ。では、それ以外に外国人、とりわけ中国人はどのように日本国内にマネーを移すことが可能なのか。いわゆるチャイナ・マネーの行方を“解剖”してみたい。
中国人による日本の不動産取得は個人投資が中心だ。まず言えるのは、中国では不動産不況から経済の先行き不透明感が増し、富裕層を中心に資産を国外に移そうという動きが高まっている。もちろん、中国当局は送金規制を厳格化しているのだが、一部の中国人は規制をくぐり抜けて資金を海外に移しているのが実情だ。
米報道「中国から資本流出、1年で39兆円規模か」
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は2024年10月28日、「中国から資本流出、1年で39兆円規模か」と題した興味深い記事を掲載している。WSJの集計によれば、6月末までの4四半期で2540億ドルの資金が中国から違法に流出した可能性がある、という。このデータがどこまで正確なものかは分からないものの、先に片山財務相の国会答弁で触れた3300億円、600億円と比べれば、まさに「ケタ違い」であることがわかるだろう。
ひとたび中国当局による規制を突破すれば、海外に流出したマネーは一気に自由度が上がる。それが株式投資であれ、未上場企業への出資であれ、日本に流入するマネーの「出元」はわからなくなるのだ。今回、国会で神谷代表が取り上げた外国人による不動産取得問題について言えば、円安に加えて、取得自体に制限が少ない日本の土地などは魅力的に映り、外国人による「陣取り合戦」に繋がっているのは間違いない。
ここで、もう1つの「抜け道」があることを考えていただきたい。
中国から270億円流入「暗号資産で監視逃れ」
それは「暗号資産(仮想通貨)」である。中国は暗号資産の決済や取引情報などの関連サービスを禁止しているが、中国では非公式の「グレーマーケット」で暗号資産に投資するケースが知られている。中国株式や不動産不況に愛想を尽かし、より魅力的な市場を狙う一部の富裕層がいるのだ。
海外への送金規制と同様に、中国当局は暗号資産の取引にも目を光らせているとは言うものの、実態は「抜け道」だらけと言える。そして、その巨大なチャイナ・マネーが日本など海外に大量に流れ、世界各地で不動産を取得しているのである。
朝日新聞は2021年11月11日、「中国から270億円流入 暗号資産で監視逃れ 国税が調査」と題した衝撃的な記事を配信した。それによると、中国人の投資家が暗号資産を日本の業者に送金し、日本円に換金して投資資金を調達していたことがわかったという。その総額は2019年3月までの3年間で約270億円に上る。資金の流れは東京国税局の税務調査を端緒に判明したといい、この記事では暗号資産を規制の「抜け道」として中国からの投資マネーが日本国内に流入する実態の一端が明らかになった、と指摘している。
東京都内の会社は暗号資産の交換所に口座を持ち、中国から送られた暗号資産「ビットコイン」約270億円分を円に換金し、手数料を受領していたという。
中国富裕層から人民元を集め、ビットコインに換えて、この会社に送る
さらに、ここからが最大のポイントと言える。約270億円は不動産購入などに充てられ、この会社は中国人の投資家が購入した不動産の支払いを代行するなどもしていた。中国人は中国国内の富裕層から人民元を集め、ビットコインに換えて、この会社に送る「仲介役」だったとみられる、という。なるほど、やはり中国から日本にはこうした「抜け道」で不動産取得に必要なチャイナ・マネーが流入していることになる。この件は東京国税局の「お手柄」と言えるが、全国には他に同様のケースがあるのではないか。
中国人や中国企業による日本の不動産取得は、2010年代前半から本格化したといわれる。当局による規制強化や資産分散ニーズが高まったためで、2010年代後半からは東京や大阪など大都市圏の中古マンションや観光リゾート地の高級物件を対象にチャイナ・マネーが流入してきた。
チャイナ・マネー「不動産価格上昇の要因とも言われる」
コロナ禍は低迷したものの、その後は円安や中国の不動産不況などを背景に活発化し、不動産価格上昇の要因とも言われる。
その流れと符号するのは、2009年に誕生した仮想通貨「ビットコイン」(BTC)の価格上昇だ。当初は1セント未満だったビットコインは、2012年末に13ドル程度に上昇。その後はブームとバストを繰り返しながら、2024年末には初めて10万ドルを突破した。足元では1BTCあたり1300万円台前半~1400万円台前半で推移している。
仮にビットコインに流れたチャイナ・マネーが日本円に換金されていれば、中国の送金規制も日本政府による現金100万円以上の持ち込み申告も意味をなさない。円安に加えて、取得制限の甘さや住環境・治安の良さなどは中国人に魅力的だろう。ただ、いつまでも野放図を許して良いかは別問題だ。
内閣府が12月16日発表した自衛隊の基地や原子力発電所などの重要施設周辺、国境離島の土地・建物の取得に関する調査結果によれば、2024年度に外国人・外国系法人が取得したのは3498件に上った。国・地域別で見ると、トップの中国は1674件と半数近くに達し、次いで台湾414件、韓国378件、米国211件などと続いている。
なぜ重要施設の周辺を外国人が取得しているのか
小野田紀美経済安全保障担当相は記者会見で「外国人の不動産取得に対する国民の不安を解消するため、把握した情報を適切な形で公表していきたい」と話しているが、なぜ重要土地等調査法の対象となる重要施設の周辺を外国人・外国系法人が取得しているのかは不明のままだ。
日本有数の国際リゾートである北海道のニセコ地域では、外国人による不動産取得に伴う地価高騰や無許可での森林伐採、税滞納などの問題が相次いでいる。国土交通省が発表した2025年の地価公示によれば、ニセコ地域の倶知安町の住宅地は前年比9.7%増の18万1000円。商業地では1平方メートルあたり50万円を超える土地もあった。実に10年前の2倍を超える値だ。
ニセコ町の観光入込客数(2024年4月~2025年3月)は162万4886人(うち北海道外からは91万4305人)に達し、倶知安町には1戸あたり5億円を超える高級コンドミニアムや別荘が並ぶ。
チャイナ・マネーの流入を「解剖」を
中国資本の大規模プロジェクトも目立ち、バブルのような好景気を見せているのだ。その結果、飲食代も高くなり、働く人の時給も2000円を超える水準に高騰している。
北海道・富良野や長野県の白馬村・野沢温泉村などは「第2のニセコ」といわれ、地価の爆上がりや外国人観光客の殺到がみられている。今年、白馬村が定住者を対象に実施した意識調査によれば、土地利用や開発への規制を「強めるべき」との回答が6割近くに達しているという。
世界的に知られる国際リゾート地となったのは、外資・外国人の要因だった面はあるものの、様々なトラブルや問題は看過できないとの懸念が渦巻く。外国人政策への対応に力を入れる高市早苗首相においては、外国人による不動産取得問題だけではなく、あらゆる方策を駆使してチャイナ・マネーの流入を「解剖」し、実態に応じた規制を設ける必要があるのではないか。それは結果的に、外国人と日本人が互いに安心して暮らすことのできる社会をつくることに繋がるように感じる。