第五話「強力なトモダチ」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」

 スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。

 表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。


 舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。

第五話「強力なトモダチ」

 迎賓館赤坂離宮の庭園は、葉が静かに色づき始め、歴史の重みを語るような表情を見せていた。高地きみえ首相は鏡の前に立ち、黒いスーツを整える。彼女の心には、微かな緊張が渦巻いていた。「今日がすべてを変える。私の内閣にとっても、そして日本にとっても」。前日の夜遅くまで高地は外務省の幹部たちを集め、この日のシナリオを練り上げていた。

 予測不能な性格、SNSへの投稿1つで世界を揺らす―。鉄壁の同盟を築く上で鍵となるのは彼のハートを射抜くこと。「言葉ではなく、魂で」。高地は何度も心の中で繰り返した。

 午前中、専用機が羽田に着陸した。エアフォースワンから降りてきた米国のトランプ大統領は赤いネクタイを翻し、自信たっぷりに握手を繰り返す。迎えの車列が離宮へ向かう間、彼は窓から東京の街並みを眺め、独り言のように呟いた。「日本は良い国だ。今度の新しい総理大臣とは仲良くなれるかな?」。迎賓館赤坂離宮での会談は、厳粛な空気に満ちていた。重厚なテーブルを挟み、高地首相とトランプ大統領が向かい合う。通訳が控え、両国の閣僚が息を潜めている。高地は穏やかな微笑みを浮かべ、こう切り出した。「大統領、ようこそ日本へ。ところで、ワールドシリーズのドジャースの試合についてお聞きしたいのですが」。トランプ大統領が意外な発言に目を輝かせる。「あの試合のことか! 最高だったよ。君も野球ファンか?」。会話は瞬時に弾んだ。トランプ大統領は初対面にもかかわらず大笑いを見せ、彼女の肩を叩いて喜ぶ。「君は本物だ。史上最も良い日本の総理大臣になることだろう」。

 すぐに本題へ移った。安全保障をテーマにした協議が始まる。高地は力強く語った。「日米同盟は、アジア太平洋のみならず世界の平和と安定の基盤です。中国や北朝鮮、ロシアの脅威に共に立ち向かいましょう。力による現状変更は許さない。台湾海峡の問題、北朝鮮の核・ミサイル、拉致問題の即時解決、中国の海洋進出への対応。日本は防衛費をGDP比3%に引き上げ、抜本的に強化していきます」。

 高地の先制パンチにトランプ大統領はテーブルを叩きながら頷いた。「その通りだ! 米国は日本の最強の同盟国だ。君は偉大な判断をした。もし、君に何か困ったことがあったら、私に何でも言ってくれ。すぐに対処しようじゃないか」。彼の言葉は高地首相の賛辞に満ちていた。

 ワーキングランチの後、2人は横須賀基地へ向かった。トランプ大統領は米軍関係者に高地首相をこのように紹介した。「この女性は勝者であり、私の親しい友人だ。もしも、日本が中国と戦争になれば、必ず勝つだろう」。高地も米軍の兵士たちに語りかけた。「日米が一丸となって地域の平和に貢献していきましょう」。トランプ大統領は日本滞在中、何度も高地を褒め称えるメッセージを発表した。「高地首相は最高だった。日本と米国の黄金時代の始まりだ」。

 翌日の新聞では、各紙ともに1面トップを飾った。「高地・トランプ会談は満点、日米新時代へ」。内閣支持率はさらに上昇し、高地の外交は「マジック」といわれた。高地は満足そうに微笑み、こう呟いた。「大統領、私たちは共に歩んでいくのです。いかなる時も」。日米の絆はかつてないほど固いものになっていった。

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この記事の著者
伊藤慶

作家・小説家。経済、政治に精通。小説家としての処女作『奪われる: スパイ天国・日本の敗戦 (みんかぶマガジンノベルス)』がみんかぶマガジンにて連載中。

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