サナエトークン問題に竹中平蔵「高市総理は『お友達』自称ブレーンと距離を」…サナエノミクスの実態はイシバノミクスである

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 イラン攻撃により、日本市場は大荒れしている。日経平均株価は下落し、原油価格は上がり続けている。経済学者の竹中平蔵氏は「日本経済にとって最悪のシナリオ、『スタグフレーション(不況下の物価高)』の到来だ」と指摘する。こうした中で日本国内ではサナエトークン問題が勃発し、世間を賑わせた。竹中氏は「政権の脇の甘さを象徴する出来事」と解説する。以下竹中氏が語る――。

目次

あらゆる物価を押し上げ、国民生活を直撃する

 いま、世界はきわめて危険な領域に足を踏み入れています。ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥り、マーケットは「戦争状態」を織り込み始めました。

 原油価格の高騰はすでに始まっています。これが意味するのは、日本経済にとって最悪のシナリオ、「スタグフレーション(不況下の物価高)」の到来です。

 トランプ氏は「4週間程度で終わる」と楽観的な見通しを示しています。しかし、歴史を振り返れば、そう簡単にいくとは限らないことは明白です。かつてのイラク戦争を思い出してください。サダム・フセインという「親玉」を倒した後、何が起きたか。泥沼の内戦です。

 正規軍同士の戦争ならば、大砲がどちらから飛んでくるか分かります。しかし、統制が失われた後の内戦や武装勢力によるゲリラ戦は、いつ、どこから攻撃があるか予測不能です。中東情勢が「イラク化」、あるいは「パレスチナ化」し、長期化するリスクを、我々は覚悟しなければなりません。

 原油が上がれば、日本の貿易赤字は拡大し、円安はさらに加速します。エネルギーコストの上昇は、あらゆる物価を押し上げ、国民生活を直撃する。高市政権は、発足直後からこの「有事」への対応を迫られているのです。

サナエトークンは「自称ブレーン」たちが周辺で蠢いていることの証左

 そんな緊迫した状況下で、永田町を賑わせているのが「サナエトークン」なる不可解な騒動です。

 ネット上の権利を扱うトークンエコノミー自体は、これからの時代に不可欠な技術です。しかし、今回の件は資金決済法上の登録もなされていない業者が、勝手に総理の名前を冠した暗号資産のようなものを発行していたという、あまりにお粗末な話です。

 「勝手に名前を使われただけだ」という弁明もあるでしょうが、政権の中枢に近い人物、あるいは「自称ブレーン」たちが周辺で蠢いていることの証左でもあります。

「サナエノミクス」の実態は「石破ノミクス」

 かつて、高市さんの周辺には「積極財政」を唱える論客たちが集まっていましたが、政権を取った今、そうした「お友達」との距離感や、周辺のガバナンスが問われています。つまりの件は、政権の「脇の甘さ」を象徴する出来事でもあります。

 さて、そんな高市政権の最大の問題は経済政策です。高市総理は総裁選を通じて、アベノミクスの継承、そして「積極財政」を声高に叫んできました。「財政出動で日本を強くする」という勇ましいスローガンに、多くの保守層や若者が熱狂しました。

 しかし、蓋を開けてみればどうでしょうか。

 今、閣議決定されようとしている予算案、122兆円規模の中身を精査すると、驚くべき事実が見えてきます。これは、前任の石破茂総理が8月の概算要求で組んだ枠組みと、ほとんど変わっていないのです。

 つまり、「サナエノミクス」と銘打たれていますが、少なくとも今のところその実態は「石破ノミクス」の居抜きに過ぎません。

 さらに注目すべきは、片山さつき氏ら政権の経済担当閣僚の発言です。高市総理自身の施政方針演説もそうですが、「市場の信認を損なうような無謀な財政出動はしない」「債務残高対GDP比を安定的に引き下げる」といった、極めて常識的で、財務省が喜ぶような文言が並んでいるのです。

安倍晋三元総理は、「保守ほど分裂しやすい」ということを熟知

 財務省も今、非常に安心しています。「高市さんは拳を振り上げていたけれど、片山さんがうまく手綱を握って、現実的な路線に着地した」と。これは、日本経済の安定という意味では「良いこと」かもしれません。無茶な国債増発で金利が急騰するリスクは避けられたわけですから。しかし、政治的には極めて大きなリスクを孕んでいます。

 かつて安倍晋三元総理は、「保守ほど分裂しやすい」ということを熟知していました。だからこそ、岩盤保守層の期待に応えるポーズを取りつつ、現実的な政策とのバランスを絶妙にコントロールしていたのです。

 高市さんはどうでしょうか。彼女を熱烈に支持してきたのは、「積極財政で日本復活」を信じた人たちです。彼らにとって、今の高市政権の「安全運転」は、公約違反であり、裏切りと映るでしょう。「話が違うじゃないか」という不満が、マグマのように溜まり始めている可能性があります。

高市総理の「現実路線への転向」、支持者に対してどう説明する

 積極財政派の論客たちは、今や政権から遠ざけられ、代わりに官僚機構や現実路線の政治家が中枢を占めている。かつての自称ブレーンも、今や外野の存在です。

 高市総理は、この「現実路線への転向」を、支持者に対してどう説明するのか。説明できないまま「白紙委任」で突き進めば、いずれ強烈なしっぺ返しを食らうことになりかねません。

 内政で矛盾を抱えた高市政権ですが、外交面では「運」を持っています。ホルムズ海峡の危機というタイミングで、日米首脳会談、そしてトランプ・習近平会談がセットされているからです。

 危機において、同盟国であるアメリカとの結束を確認することは、政権にとって最大の得点源になります。トランプ氏との会談は、間違いなく「円満な日米関係」の演出ができるでしょう。

 問題は対中外交です。高市さんは「対中強硬派」として知られていますが、ここでイデオロギーに走って中国を過度に刺激するのは愚策です。

 今の世界は、アメリカと中国という二つの「帝国」が支配する時代です。日本は好むと好まざるとにかかわらず、この二つの帝国の狭間で生きていかなければなりません。アメリカという帝国に依存しつつ、中国という帝国とも決定的な破局を避ける。これがリアリズムです。

したたかな「大人の外交」ができるかどうか

 アメリカは今、中東情勢や国内問題で手一杯であり、中国と決定的に事を構えることを望んでいません。そんな中で、日本だけが突出して中国と対立し、アメリカに「中国はこんなに悪いことをしています」と告げ口外交をするような真似は、今のトランプ政権には歓迎されません。「余計な波風を立てるな」と思われるのがオチです。

 幸い、今回の外交日程では、日米で握った後に米中会談という流れができています。ここで高市総理が、国内向けの強硬ポーズを封印し、したたかな「大人の外交」ができるかどうかが試されます。

 総じて言えるのは、高市政権は今、国内の強い政治基盤を活かし、したたかな統治機構へと進化できるかどうかの瀬戸際にあるということです。

 「サナエトークン」のような脇の甘さを排除し、経済政策では「積極財政」の看板と「財政規律」の実態との乖離を埋める言葉を見つけ、外交ではイデオロギーを捨てて帝国の論理に対応する。

小泉防衛大臣や片山財務大臣がいれば、致命的なミスを犯さずに済む

 小泉進次郎防衛大臣や、片山さつき財務大臣といった実務能力の高い「リアリスト」たちが、今のところ政権の骨格を支えています。彼らが機能している間は、日本は致命的なミスを犯さずに済むでしょう。

 しかし、総理大臣自身の言葉が、国民や市場に届かなくなれば、政権は求心力を失います。「積極財政」という熱狂で掴んだ権力を、どう「現実的な国益」に変換していくのか。

 中東の戦火が拡大し、インフレが国民生活を蝕む今、高市早苗という政治家の真価が問われています。スローガンだけの「強い日本」ではなく、冷徹な計算に基づいた「賢い日本」を作れるのか。私たちもまた、熱狂から覚めて、その手腕を冷静に見極める必要があります。

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