26年度国家が年度内に成立しなければ、高校授業料の実質無償化や公立小学校の給食費無償化に影響する可能性も…経済アナリストが今回の予算案成立に潜む課題を指摘

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 高市早苗首相が初めて編成した総額122兆円に上る2026年度予算案が3月13日、衆院を通過した。2月の衆院選で惨敗を喫した野党第1党(衆院)の中道改革連合などは、衆院で3分の2超の議席を有する巨大与党に押されっぱなしで、首相は3月末までの予算成立に強い意欲を見せる。子育て支援策や高校授業料の「実質無償化」などが盛り込まれた予算案は、このまま年度内に成立するのか。経済アナリスト・山田隆氏は「採決強行には反発もあるが、それ以上に問題なのは、この予算案が“欠陥”だらけであることだ」と指弾する。その中身とワケを山田氏が解説する。

目次

衆院選で歴史的大勝をつかんだ高市首相は、年度内の予算成立にこだわってきた

 2026年度予算案の衆院通過は、例年よりも10日間ほど遅れることになった。高市首相(自民党総裁)が1月の通常国会冒頭に衆院を解散し、2月頭に投開票が行われたのが理由だ。実質審議入りしたのは2月27日であり、例年よりも約1カ月遅れている。予算案は2カ月近く審議するのが慣例だ。しかし、衆院選で歴史的大勝をつかんだ首相は年度内の予算成立にこだわり、国会での審議時間を大幅に短縮することを期待してきた。

 実際、衆院予算委員長ポストを奪還した与党サイドは議事運営の主導権を取り戻し、予算案の審議日程をめぐり終始リードしてきた。首相の国会答弁の回数も昨年の臨時国会に比べて大幅に減少し、衆院予算委員会は異例となる地方公聴会の日曜審議も進めるなど「充実審議」を求める野党サイドに十分な配慮を見せてきたとは言い難い。

 多くの野党は3月13日の衆院での採決強行に反発を強めているものの、首相は「(米国とイスラエルによる)イランへの攻撃もあり、予算案の予見可能性を一層高める時期だ。早期成立をお願いしたい」と早期成立に重ねて意欲を示してきた。当初は予算の年度内成立が絶望視されてきたが、衆院を通過させたことで3月末までに参院でも予算案を可決させるスケジュールを前提に動き出している。

 高市首相は「国会日程が窮屈になっていることは認めさせていただいているが、とにかく国民のみなさまの生活を第一に、ということは与野党を超えて共通の理解をしていただけると信じている」と説明し、性急な審議と批判する野党にも理解を求めた。

予算が年度内に成立しなければ、高校授業料の実質無償化や公立小学校の給食費無償化に影響する可能性も

 2026年度予算が年度内に成立しなければ、地方自治体や国民生活に影響が及ぶ。象徴的なのは、4月からスタート予定の高校授業料の実質無償化や公立小学校の給食費無償化などだ。高市内閣の看板政策の1つである高校生の就学支援金制度の拡充(所得制限なし、最大45万7200円支給)は暫定予算で対応することも可能であるが、より生活に身近な地方自治体には混乱も予想される。また、税制改正法案も年度内成立がなければ、3月31日に予定される自動車購入時の「環境性能割」の廃止や軽油にかかわる旧暫定税率の4月1日廃止なども先送りとなる。

 誤解を恐れずに言えば、筆者は国会の審議スケジュールに関心はない。たしかに例年に比べて首相・与党サイドの「ゴリ押し」が顕著であるものの、それが選挙で得られた圧倒的な「民意の結果」というならば、それ以上の指摘は意味をなさなくなるだろうからだ。むしろ、地方自治体や国民生活に多大な影響が生じるならば予算は年度内に成立してもらいたいと願う。一方、大惨敗を喫した野党第1党の中道改革連合をはじめ、これと言って「見せどころ」がない野党には同情すら感じてしまう。今や懐かしい「モリカケ・桜」問題などを追及するあまり、有権者から寄せられる期待と十分に向き合ってこなかったツケが選挙で表出した結果であるとも映る。

政府は経済安保推進法改正案を3月にも提出する予定になっているが、本来ならば予算案の審議と一体で行うべきであるはず

 巨大与党に押されっぱなしの野党が衆院での審議において気づかなかった「予算案の問題」がある。筆者が予算案の中身や各種資料などを分析し、「これって、アリなのか?」と感じる点だ。参院での審議で是非議論を深めてもらいたい。

 1つ目は、高市首相肝いりの「経済安全保障」に関する予算だ。政府が創設を目指す経済安全保障に関するシンクタンクは、独立行政法人「経済産業研究所」(RIETI)に設置する予定となっている。経済安保に関する調査・研究や政策提言などを担う組織となり、国家安全保障局(NSS)との連携も期待される総合的なシンクタンクになる。

 2025年11月の経済安全保障推進会議で高市首相は、有識者会議の意見を踏まえながら経済安全保障推進法の改正に向け早急に検討するよう指示した。政府は経済安保推進法改正案を3月にも提出する予定になっているが、本来ならば予算案の審議と一体で行うべきであるはずだ。なぜならば、経済産業省のRIETI予算は部署新設に伴う経費などを盛り込む一方で、業務増加が生じればRIETIの予算がさらに膨らむ可能性もあるためである。

 シンクタンクはNSSが司令塔になり、外交・情報・防衛・経済・技術の専門知識を集結し、定量的な調査研究や各省の所掌を横断する調査研究に貢献するという。だが、そもそも本来ならば予算案と一緒に審議すべきものである。高市内閣の「一丁目一番地」の予算・法案ならば、なおさら“ルール違反”があってはならないはずだ。簡単に言えば、これでは法律ができてから予算が増えてしまうことになりかねない。

 残念なのは、衆院での審議において野党はシンクタンク設置関連予算について詰め切れていない点だろう。内閣法制局の見解はどうなっているのか、なぜ一体で審議しないのかなど、揚げ足取りではなく、建設的な質疑を見せてもらいたい。

日本企業の海外進出をJBICが支援する制度に潜む課題

 もう1つ「予算案の問題」を指摘しておきたい。政府は経済安保上の重要物資を生産する日本企業の海外進出を支援するため、国際協力銀行(JBIC)が支援する制度を設ける予定だ。

 採算性に不確実性があるため既存の支援ツールだけでは企業側が十分な投資を行わない現状を踏まえ、経済安保推進法の改正によって重要な海外事業を支援するための新たな制度を創設。JBIC法を改正し、目的規定に経済安保関連の規定を追加。劣後出資などを供与することで民間資金の動員を図る仕組みを創設することになる。

 これについても、目指す方向性は誤っていないものの、きちんと「欠陥」は指摘しなければならない。JBICは「銀行」であるため融資する仕組みは可能だ。ただ、具体的な支援スキームは不明のままと言える。リスクが高い海外事業への取り組みで損失が生じる可能性がある場合、政府がリスクを引き受ける構図となるが、その際に「国際会計基準」(IFARS)との兼ね合いはどうなるのか。

 言うまでもなく、JBICは「補助金機関」になることはできない。法律上は「支援」が可能になるとしても具体的な支援スキームが不透明のままで何か変わることはあるのか。すでにODA(政府開発援助)による支援がある中で、JBICは「出資」することもできないのではないか。「経済安保」と名がつけば何でもかんでも許容されるわけではないはずだ。この点も参院での予算案審議において議論してもらいたい。

 繰り返しになるが、当初予算の年度内成立は地方自治体や国民生活に大切となる。解散総選挙の断行によって審議時間が例年よりも少ないのは、民主主義において仕方ない面もあるだろう。ただ、RIETIにしてもJBICにしても「問題」があるのであれば、きちんと質していくのが野党のみならず、与党も含めた全国会議員の責務である。「数の力」に圧倒されることなく、正論が通る質疑を期待したい。

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