仲間だったはずなのに…ネトウヨが林外務大臣をリンと呼び始めたワケ
岸田総理は高市早苗を「厚遇」するはず……。あれ、
岸田政権樹立から現在(2022年6月)で約10か月弱というところであるが、ネット右翼界隈の岸田政権に対する賛否は、ほぼ「否」で埋め尽くされている。なぜか。まず昨年の自民党総裁選でいわずもがなネット右翼は高市早苗氏を強力に推した。当然これは安倍晋三氏への熱狂的な支持を高市氏に仮託した願望である。
しかしながら総裁選で高市氏が決選投票に進めず敗れると、次の期待は岸田総理に向かった。岸田政権樹立にあたって、高市氏が需要閣僚(最低でも外務大臣)、具体的には官房長官の職に就くことが当然であるのだから、岸田総理はその「世論」を十分にくみ取るはずである、という出歯亀的期待である。
結果として高市氏は政調会長に遇された。政府側ではなく党三役になったという時点で、ネット右翼は完全な肩透かしを食らった。高市氏が第二次安倍政権下で既に政調会長の職に任じられているから、再任ということは冷遇なのだ、とネット右翼には映ったのでる。勿論、自民党政調会長という役職は将来の総理候補が踏む重要な役職(しかしその地位はかつてほどの権勢は無い)なので、再任であろうが「厚遇」には違いないのだが、ネット右翼は政調会長の位置づけをよく知らないのでやはり冷遇と映った。
ん!? ポスト岸田に「林の影が」……
岸田政権発足直後の1ヵ月位までは、ネット右翼界隈はそれでも、岸田総理が高市氏を内閣改造によって厚遇してくれるのではないか、という期待を強固にし、岸田政権については微温的にYESとなっていた。
風向きが急に変わったのは、衆院選挙後の第二次岸田内閣(2021年11月10日~)以降である。外務大臣だった甘利明氏が小選挙区で落選(比例復活)したことで引責辞任をし、それまで甘利氏が自民党幹事長を務めていたところに茂木敏充氏が任ぜられ、玉突きで空席になった外務大臣職に林芳正氏が就任したことである。
言わずもがな、林氏は不退転の決意で2021年衆院選挙では参議院から鞍替え(参議院議員を辞職)して山口3区で立候補して当選した。この決意の背景は、「将来、自らが総理大臣になる」という一点に尽きる(林氏自らがそう披歴)。無論、日本国憲法の定るところ、総理大臣は参議院議員でも衆議院議員であっても関係がないが、実際的な政治慣行として衆議院から当選した議員が総理になるわけで、その旨を了解した上で林氏を外務大臣の要職に起用した岸田総理の心中を「邪推」すれば、同じ宏池会という派閥に属するベテランの林氏に、将来的には禅譲に近い路線になるだろうことは書くまでもない。
ネトウヨ「これは高市への冷遇、安倍への敵愾心だ」
つまりは2021年11月の、第二次岸田政権発足の時点で、「ポスト岸田は林」という暗黙の了解が成立した。これは単純な推論だが、現時点で岸田内閣がそこそこの長期政権となった後、その後継が河野太郎氏になることは、自民党の派閥力学からいってほぼ考えられない。第二次岸田政権に於いて参→衆に鞍替えした林氏を外務大臣にした時点で、ポスト岸田は林である、ということなど民間の政治ウォッチャーなら誰しもが諒解するところであろう。仮に岸田政権が5年続いても、林氏はそのとき恐らく66歳。総理大臣としては全く適年齢である。
このような政界の機微に、最も激烈に反応したのがネット右翼である。「岸田総理は高市氏を冷遇している」という根拠薄弱な批判が再び沸き起こった。第二次岸田政権で、外務大臣に高市ではなく林を起用したのは、高市への冷遇、ひいては安倍元総理への敵愾心である―。ここからネット右翼は岸田政権呪詛の姿勢を鮮明にした。そして、最も重要なことは、林氏が衆院山口3区選出の議員であるということに尽きる。所謂「1票の格差」を巡り、政治イシューは「10増10減」案で揺れ動いている。
朝敵となった林外務大臣を「リン」と呼び出す
増はともかく、減については、安倍元総理と林氏の地盤である山口県の小選挙区が国勢調査での人口減少を勘案して4→3になることが確実視されている。安倍元総理の地盤である山口県下関市等(山口4区)と、林氏の地盤である宇部市等(山口3区)が、「1減」によってすわ同梱に近い選挙区になり「安倍VS林」対決となることが危惧されたためだ。
当然このことが念頭にあって、「安倍氏に弓する林氏は”朝敵”」的な機運が盛り上がった。やもすれば次の衆院選に於いて、自民党公認を巡って、安倍VS林の骨肉の争いが現出しかねない。当然、ネット右翼側は安倍元総理支援であるから、それを分かったうえで林氏に「肩入れしているように見える」岸田総理の采配は絶対に許容できない。そしてその根本的理屈を補強するように、林外務大臣の中国に対する「融和的」ともいえる発言が、「林は媚中派」と一斉に連呼されるようになった。
現在、ネット右翼界隈では林外務大臣を「はやし」とは呼ばないのである。どう呼称するのかというと、中国風の呼び方で揶揄した「リン」と呼んでいる。検索したらすぐに出てくるからやってみればよい。このようにして、林氏を「重用する」かにみえる岸田総理への垂直的な批判へと、ネット右翼界隈は完全に岸田政権にNOを突きつけているのである。