演出された「死に体ルーブルの急上昇」ロシア経済、危機的レベルに
ロシア・ルーブルの「謎すぎる」動き
2022年2月以降、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシア通貨「ルーブル」が目まぐるしく乱高下しています。
3月7日には一時、1ドル=150ルーブル前後という驚異の「ルーブル安」を記録。ウクライナに侵攻したロシアに対し、欧米諸国が一斉に非難を表明し、国際決済網、いわゆるSWIFT(国際銀行間金融通信協会)からの排除を表明したからです。さらに追い打ちをかけるように、ロシアが国外に持つ外貨の凍結も各国が発表しました。
もちろんロシアとて侵攻前に巨額のドル資産を蓄積し、武器も潤沢に用意していたはずです。でも、当初の予想に反しウクライナ侵攻は長期化し、このまま続けば、いずれ手持ちの資金も枯渇し、ロシア経済は大きな打撃を受けるはず。
という予想から、一時はルーブルが極端に下落したわけですが……、意外にもその後大きく持ち直しました。ウクライナ侵攻前の1ドル=80ルーブル台へと、回復してきているのです。ここまで短期間に為替が乱高下することは、極めて珍しいことです。
ウクライナ情勢は依然として膠着したままにもかかわらず、このルーブル回復はどうして起こっているのでしょう。理由は大きく二つあります。
まず、ロシアにとって大きな「抜け穴」が存在したこと。アメリカやEU、日本などの西欧先進諸国との取引がとん挫しても、ロシアには相変わらず中国やインドという大口取引先が確保されており、エネルギー輸出先には事欠きません。
一方、「ロシアへの経済制裁」を声高に主張しているEU諸国自身、結局ロシア外しを徹底できていないことも挙げられます。これまで脱炭素や脱原発を政策として掲げてきたドイツでさえ、内実は国内エネルギー消費のうち石油の35%を、ガスの55%を、石炭も50%をロシア産に依存してきたドイツです。将来的な「脱ロシア」を掲げても、それは数年後のこと。現在、ロシア産の石油やガスなしでは、一般庶民の生活が成り立たない事情があります。
結果として、EU諸国はウクライナ侵攻後も、ガスや石油、原油支払いとして、1日当たり約10億ユーロ(約1300億円)を支払っているとされています。
そうした事情からも、市場の温度感は、それほどロシア通貨に対しての警戒感を強くは抱いていないのでしょう。
めちゃくちゃ危険な相場でどう勝負する
「ロシア・ルーブル、意外と頑張っているね」。
これが現在、多くの人が抱く感想でしょう。しかし、油断は禁物です。乱高下がこれだけ激しいということは、ボラティリティが非常に高いということ。あの手この手で、ロシア自身がルーブルを崩さないように努力しているだけで、決して「安全な通貨」というわけではありません。
また、そこに多くの投機資金が混ざりこんでいるのも、ややこしいところ。ここまで短期間で値幅が出るということは、高リスクを儲けのチャンスと見込む人も大勢います。リスクを恐れない百戦錬磨のヘッジファンドが介入しているのでしょうが、決して一般人にはお勧めはしません。
ある通貨の価値を長期的に信じるからこその「買い」ではなく、短期的な差益で儲けるための通貨購入、これは非常に危険な投資行為です。
実はかくいう私自身、2015年のルーブル暴落の際は、「いまだ!」とルーブル買いに走ったわけですが……、今は反省しています。
投資は、「いずれ回復するであろう」予測を基にすべきもの。不景気はいずれ戻ります。経済も建て直すでしょう。自分の投資が、成長につながる「王道」にこそ投資すべきです。
さて、一時的にルーブル高に戻ったかのように見えますが、その背後には危うさが潜んでいます。しかもその脆さが〝可視化″していません。
ロシア「安心してください、ルーブルで払いますんで!」
ロシアは、4月4日に支払期限を迎えたドル建て国債の利払いを、ドルではなく自国通貨ルーブルで支払うと発表しました。これが事実となれば、事実上の「デフォルト(債務不履行)」です。
「ドル払いを約束していましたが、ルーブルで払いますがいいですか」
「いえ、当初の約束通り、ドルでお願いします」
「いや、ルーブルしかないんです」
こんなごり押しをまかり通そうとしたわけです。
ただし、その後定められた30日の猶予期間内でドルを用意し、無事ドル建て支払いを終えたことで、「デフォルト」をとりあえずは回避できましたが……。
問題は、これが氷山の一角で、今後も同様のことが繰り返されるだろうということ。また、仮に事実上の債務不履行になったとしても、それをもはや誰も認定しないということです。
EUやアメリカが今、切実に望んでいるのは、あくまで停戦。国家としてのロシアの実質的破綻までは望んでいないのです。なぜなら、ロシアが「デフォルト」をすれば、その影響はブーメランのように、自分たちに跳ね返ってくるから。その経済的大打撃は、下手をしたら欧米を巻き込んだ「リセッション(景気後退)」にもなりかねません。
そうならないところまで、ギリギリに経済制裁を加えながら、でも最終的な「デフォルト」は起こさないようにする。それが今世界的に求められているバランス感覚です。
そのために考えられたのが、仮にロシアが実質的な債務不履行に陥っても、それを「デフォルト」とは認定しないという手段です。
企業や政府、銀行などの信用力調査をする主要格付け会社、ムーディーズやフィッチ・レーティングス、S&Pグローバルは、それぞれロシアに対する格付けを取り下げることを発表しています。つまり、今後、ロシアを「デフォルト(債務不履行)」と認定する機関はないということです。