ありがとう「値上げ歓迎の黒田バズーカ」投資家・マーケットは大々々歓迎だ!
思わぬ「バズーカ砲」が日本経済に直撃した
日銀のアンケート(「生活意識に関するアンケート調査」(第89回)2022年3月実施)によると、1年前と比べて支出を増やしたものとして、「食料品」(1位)「日用品」(3位)がランクインした。現在の物価に対する実感を一年前と比べると、「上がった」と感じる人が81.2%となり、国民が「インフレ」を感じ始めているようだ。
庶民感覚からすれば「値上げ」は「悪」だ。同アンケートでも、商品・サービスを選ぶ際に、特に重視することとして「価格の安さ」は、51.7%を超えており、この半年で、その割合は増えている。インフレへの警戒感が強まっているということだ。
そんな中、日銀の黒田東彦総裁が放った想定外の「バズーカ砲」が炎上している。資源高や食料品などの値上げが相次ぐ中、「家計の値上げ許容度は高まっている」などと発言し、コロナ禍で苦しむ庶民感情を逆撫でしてしまったようだ。
「景気という「気」に好影響をもたらせる政策を採用」
日本経済を苦しめてきたデフレからの脱却。その先導役として黒田氏が中央銀行トップに就任したのは、2013年3月のこと。当時の安倍晋三首相が表明した「機動的な財政政策」「大胆な金融政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢の中核を担い、「2年で物価上昇率2%実現」を目標に掲げた。就任会見では「日本経済は過去15年近くもデフレに苦しんできた。2%という物価安定目標をできるだけ早期に実現するということが日銀として果たすべき一番大きな使命だ」と宣言し、直後に放った市場の予想を上回る大規模な金融緩和は「黒田バズーカ」と呼ばれた。
従来の金融政策とは異なる手法について、黒田氏は2017年6月の講演で「これは2%の物価安定の目標を掲げ、そのためには何でもやるという強く明確なコミットメントを行うことにより、人々の期待に直接働きかけること、大規模な長期国債の買入れによって直接的に長期金利の低下を促すことの2つを柱としている」と説明。中央銀行の強い意志によってインフレ期待を上昇させ、景気という「気」に好影響をもたらせる政策を採用してきたと明らかにしている。
政府内では「マクロ経済的には問題ない」との擁護も
だが、「2年」程度での達成を目指した物価安定の目標は9年経った今も完遂してはいない。足下の消費者物価指数の上昇率は4月に3.0%に拡大したが、実質賃金は前年比1.2%減少している。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻も100日を超え、先行きの不透明感は強まるばかりだ。
黒田氏は2日後に「表現は全く適切ではなかった」として撤回する考えを示したが、「物価の番人」といわれる日銀総裁の発言には、政府内で「マクロ経済的には問題ない」と擁護する声があがる一方、「参院選を直前に控えた時期になんてことを言ってくれたんだ」と怒気を隠せない高官も目立つ。
『安くて当然』『値上げは悪』…デフレ体質から脱却を後押し
しかし、改めて「庶民感情」と「マーケット心理」の乖離が象徴的に表れたケースではなかっただろうか。日本経済特有の弱点であった『安くて当然』『値上げは悪』というデフレ体質から脱却し、成長への兆しが見え始めたのである。例えば、これまで値上げに怯えるお菓子メーカーは、お菓子のサイズを小さくする、お菓子の数量を減らすなどの涙ぐましい「ステルス値上げ」を迫られてきた。