太陽光神話が遂に崩壊…「地球を守る」「自然のエネルギー」の大嘘と、小池百合子のゴリ押し政策

昨年12月、東京都は都内の新築一戸建て住宅などに太陽光発電パネル設置を義務付ける改正環境確保条例を可決した。脱炭素社会の構築に向けて再生エネルギーの活用が進む一方、産経新聞論説副委員長の井伊重之氏は太陽光パネルの問題点を指摘する。太陽光パネルがはらむ大きなリスクとは――。全4回中の3回目。
※本稿は井伊重之著『ブラックアウト~迫り来る電力危機の正体~』(ビジネス社)から抜粋・編集したものです。
第1回:地獄の冬が到来「菅直人が12年前にまいた種」…”電力不足は予見できた”と業界がキレる理由
第2回:規制より2~3割高く「電気料金更に値上げ」で地獄が始まる…新電力100社が倒産、廃業、撤退、契約停止に
太陽光パネル建設に閣僚が「待った」
2018年7月の西日本豪雨は、各地で河川の氾濫や土砂崩れなどをもたらし、14府県で300人以上の犠牲者が出た。豪雨は全国の太陽光発電所にも大きな打撃を与えた。国内40カ所以上の発電所が被災し、その中には神戸市内にある太陽光発電所も含まれていた。
同市内を走る山陽新幹線の線路近くで豪雨によって土砂崩れが発生。斜面に設置していた太陽光パネルが滑り落ちたことで、新幹線が数時間にわたって運行できなくなった。その太陽光発電所は、新幹線の線路からわずか10メートル程度しか離れていない斜面上に建設されていたにもかかわらず、神戸市当局はその存在を把握していなかった。
太陽光発電事業者は、経済産業省から事業計画の認定を受ける必要があるため、役所に届け出なければならない。ところがその立地自治体に対する報告や届け出は不要とされていた。
事態を重く見た神戸市は、事故から1年後に、太陽光発電施設の立地を規制する条例を施行した。出力10キロワット以上の太陽光発電施設を新設する場合、市への届け出を義務付けた。土砂災害警戒区域などでは新設を禁止し、勾配が30度以上ある急傾斜地や住宅地のほか、鉄道用地から50メートル以内に新設する場合には許可制とした。
西日本豪雨では多くの太陽光パネルが大雨や強風で損傷した。このうち11カ所では土砂崩れで太陽光パネルなどが滑り落ちる被害が出たという。最近は神戸市のように、自治体による再生可能エネルギーの設置規制条例が相次いで導入されているが、なかには大臣自らが「待った」をかける計画も出ている。
山口壮環境相(当時)は2022年1月、埼玉県小川町に大規模な太陽光発電所(メガソーラー)を建設する計画について、環境影響評価(環境アセスメント)に基づき、抜本的な見直しを求める意見書を公表した。2020年からメガソーラーも環境アセスメントの対象となり、この小川町での建設計画が抜本的見直しを求められた初の事例となった。
計画では、埼玉県の「小川エナジー合同会社」(埼玉県寄居町)が86万平方メートルの山間地域に、出力約4万キロワットの太陽光発電所を建設するという内容だった。実現すれば埼玉県内で最大のメガソーラーとなる予定で、35万立方メートルにのぼる土砂搬入や大規模な盛り土の造成が予定されていた。
里山が残る場所に大量の土砂が運び込まれ、多くの太陽光パネルが並び立つ大規模な建設計画に対し、地域住民からの反対運動が高まり、埼玉県の大野元裕知事は山口環境相に反対の意向を伝えていた。
山口環境相の意見書も「大量の土砂搬入などで環境への負荷が生じる」と指摘し、土砂の大量搬入を見直し、盛り土の崩壊を防ぐ工法の採用などを求めた。山口環境相は意見書を公表した後の記者会見で、「再生可能エネルギーは地域との共生が必要だ。環境配慮が不十分なら厳しく対応する」と強調した。この意見を踏まえ、萩生田光一経産相(当時)も事業者に計画の見直しを勧告した。
住民の反対、景観の悪化…太陽光パネル建設の “逆回転”
再生エネの代表格とされてきたメガソーラーの建設は今、大きな曲がり角に立っている。全国の自治体でメガソーラーの建設を規制する独自条例を制定したのは、2022年半ばまでに200前後にのぼる。
長野県伊那市では2022年4月、太陽光発電所の設置時に市長の許可だけでなく、設置場所から30メートル以内の土地所有者らの同意を義務付ける条例を施行した。同市では設置禁止区域のほかに、違反した事業者には許可取り消しや改善命令などの罰則も設けた。最近では地元の市町村だけでなく、県単位で規制条例を設ける動きも相次いでいる。
岡山県美作市では、全国初の太陽光パネルに課税する「事業用発電パネル税」条例を制定した。同市には国内最大級とされるメガソーラーがあり、安全対策などにかかる費用を新たな独自課税で賄いたい構えだ。課税に向けて事業者との具体的な協議に入っている。
平地が少ない日本国内では、山間地などを切り開いて太陽光パネルを設置する場合が多い。そうした不安定な場所では、大雨や台風によって太陽光パネルを設置した地盤が崩壊する事故も頻発している。
このため、地域住民がメガソーラーの建設に反対する動きが相次いでいる。昨年7月、静岡県熱海市で大規模な盛り土が崩落し、それが土石流となって市内を襲った事件が起きた。これによって大規模な盛り土に対する住民の警戒感や行政の規制が強まり、山間地におけるメガソーラーの建設が難しくなっている。
さらに太陽光を反射するパネルが大量に設置されることで、地域の景観が損なわれているとの批判も多い。これまでは「地球環境を守る」「自然由来のエネルギー」などとメガソーラーが注目され、全国規模で建設が進められてきたが、それが一気に逆回転を始めているのだ。
国の再生エネ買い取り制度は「誤り」
発電出力が1メガ(メガは100万)ワット以上の大規模な太陽光発電所を指すメガソーラーは、2011年3月の東日本大震災による東京電力福島第1原発事故を受け、政府が導入した「再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度」(FIT)を追い風にして、全国で急速に普及した。
これは太陽光や風力、地熱、バイオマスによって発電した電力を、大手電力会社が決まった価格で一定期間にわたって買い取り、そのコストは賦課金として電気代に上乗せして徴収する仕組みだ。欧州でも広く採用されていた制度を日本でも導入した。
FITは、地方の中小企業による太陽光発電事業への参入に道を開いた。「大手電力が強制的に電力を買い上げる仕組みが設けられ、与信が生まれたことで中小企業でも銀行から融資を受けられるようになった」と業界関係者は指摘する。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、日本の太陽光発電の導入量は、2011年時点の491万キロワットから2020年には6867万キロワットと14倍に急拡大した。これに伴って国民が負担する賦課金も2021年度には2.4兆円にまで膨らむことになった。
ただ、事業用太陽光発電の買い取り価格は、制度が導入された2012年度の1キロワット時あたり40円から、最近では4分の1程度の水準にまで大幅に下落した。さらに自治体による規制強化により、メガソーラーの建設から撤退する事業者も相次いでいる。
政府は2022年4月からFITに代えて「FIP」と呼ばれる制度を開始した。これは「フィード・イン・プレミアム」の略称で、市場価格に連動した価格に、一定の補助を上乗せすることによって、電力小売事業者などが買い取る仕組みだ。
FITとの最大の違いは、買い取り価格にある。FITではあらかじめ決まった価格で長期にわたって買い取ってもらえたが、新たに導入されたFIPでは、売電する時間帯によって価格が変動する制度となった。
太陽光が大量に発電される昼間の買い取り価格は安い反面、太陽光による発電がなくなる夜間には価格が上がることになる。電力需給を詳しく見て売り時を探れば、今より多くの売電収入を得られる可能性がある。
政府はこれによって、太陽光発電事業者の自立を促す考えだ。自ら売電計画を立てて販売先を探し、他の発電事業者よりも付加価値を高めるなどの創意工夫が問われる。再生エネも事業者としての経営力が試されることになる。
この点、FITをめぐる制度設計が誤りだったことは否めない。この10年で国民負担の賦課金総額は10兆円を超えた。再生エネ比率を制度導入前の10%から15%に引き上げるため、1キロワット時の電気料金に2.25円を上乗せした計算になる。
これに対し、再生エネ推進国のドイツではその4分の1、英国はわずか8分の1で済んでいる。日本にはメガソーラーの建設に適した平地が少なく、工事に資金が必要なのは分かるが、未稼働の太陽光設備が大量に残っていることは見逃せない。
当初の制度設計があまりに杜撰(ずさん)で、発電事業者は買い取り価格が高いうちに政府の認定を受け、その後、太陽光パネルの値下がりを待つために建設・稼働を遅らせたのだ。さらに認可を得た施設を投資ファンドなどに転売することで、より高い利益を稼ぎ出す事業者も現れた。
そうした事業者の行為が野放しになっている制度設計には、率直な反省が欠かせない。FIT導入から10年が経過したことを踏まえ、政府は何らかの総括をすべきである。
