人気タワマン批評家「みなとみらいに住むなら野毛に住め」抜群のアクセス、抜群のコスパ、抜群の飲み屋街…途中下車しててでも通う街

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 東大卒の不動産評論家・牧野知弘氏が住みやすい街について語る大好評連載、最新回は神奈川県横浜市桜木町の近くにある飲み屋街、野毛についてーー。

目次

日本橋室町界隈の昔ながらのよさは失われつつある

 最近は再開発で建設されたトロフィービルの低層部に商業施設があって、ここに飲食店が軒を連ねるスタイルが多いです。私が勤務していた三井不動産の開発でもこのタイプの建物構成が主流で、以前は古くからの居酒屋や雑貨店、乾物屋などがあった日本橋室町界隈の街並みがなくなりつつあります。

 昔よく通ったお店でも再開発でトロフィービル内に居を移しているので、ビル内の店に入ればよいのですが、どうも昔のような居心地の良さを感じません。それどころか、昔とほぼ同じメニューなのに、値段が跳ね上がっていることに驚きます。なんだか損をしたような気分。店の外が昔のように小汚い通りではなくなり、きれいに清掃された御影石や大理石貼りのフロアというのにも違和感を覚えます。私だけがそう思うのかといえば、昔の同僚もみな同じようなことを口にします。こうなると自然と足が遠のくもので、日本橋を離れた足は、昔ながらの店が並ぶ神田や新橋に向かうこととなります。

素敵な飲み屋街「野毛」は住むにもおすすめ

 でも、もうひとつ私が愛してやまない素敵な飲み屋街が少し離れた横浜にあります。私は神奈川県民なので、横浜には人一倍の愛着がありますが、わざわざ途中下車してまでも寄っていきたくなる街、野毛を今回はご紹介しましょう。そして野毛は「飲む」だけでなく、実は住んでもよい街なのです。

 野毛はJR京浜東北線に乗って横浜駅を過ぎると次の駅「桜木町」が最寄りとなります。この駅から海側を眺めるとみなとみらい地区の高層オフィスビルとタワーマンション街が広がります。いっぽう山側に目をやると国道16号線が行く手を塞ぎ、「のげちかみち」と呼ばれる地下道を潜った先には怪しげな低層の商店や雑居ビルが並んだ街並みが続きます。野毛の街の先からは急な坂道となり、横浜育ちの人ならば、幼いころ一度は足を運んだ野毛山動物園や野毛山公園の展望台があります。このあたりから紅葉坂と言われるあたりは、いきなり瀟洒な住宅地に変貌します。

港町の飲み屋街として栄えてきた歴史

 野毛は、江戸時代末期に発展途上の横浜港と東海道をつなぐバイパス道路として、切通しが造られてできた街です。横浜港には三菱重工の横浜造船所があったため、街は工員さんなどが食事をする場所として賑わいました。

 戦後は港や伊勢佐木町は米軍に接収され進駐軍の街となりましたが、野毛は日本人街として残り、港町の飲み屋街として栄えました。港や造船所で働く屈強な男たちが集うこの街は、猥雑な雰囲気に満ち溢れ、隣の宮川町から大岡川沿いに黄金町付近まで娼婦の館が軒を連ねました。今でも川沿いはそうした雰囲気をあちらこちらで感じることができます。

 この街に大きな変化が起こったのが、1980年の横浜造船所の移転決定でした。戦後の日本経済を支えた造船業は1970年代に2度にわたって発生したオイルショックの影響で造船不況に苦しみ、横浜造船所は同じ横浜市内の金沢と本牧に移転せざるを得なくなったのです。飲み屋街は一番の馴染み客を奪われることになります。

横浜造船所の移転、東急東横線の路線変更によるダメージが大きかった

 さらに街の不況に追い打ちをかけたのが、東急東横線の路線変更でした。みなとみらい地区の街区整備が続く中、2004年、東横線は横浜駅から、新たに開通した横浜高速鉄道に乗り入れて、みなとみらいから元町・中華街駅に直通運転を行うことになりました。その結果桜木町駅は廃止され、人の流れはこれまでの桜木町、野毛からみなとみらい地区に向かってしまいます。大事なお客さんを奪われた挙句、足まで失った街では、古くからの飲食店や物販店は、店主の高齢化とも相まって次々に閉店。街はどんどんと廃れた印象を醸し出していきました。

 しかし今、夜の帳が下りた頃に野毛を歩くと、街は活気に満ち溢れています。何より驚くのは、若い人たちが大勢、街中を闊歩していることです。街が生まれ変わったのです。原因は皮肉なことに多くの飲食店や物販店が店を閉じたことによって、不動産価格が下がり、店舗の賃料が大幅に下落し、そこにやってきた若い人たちが店舗を借りて、新たな商売を始めるようになったことが、街に息吹を与えることになったのでした。

みなとみらいよりも、野毛の紅葉坂あたりに住むのがベスト

 街は立ち飲み居酒屋、焼き鳥、ホルモン焼きといった低価格飲み屋の定番から、焼き肉、ちょっと気の利いたワインバル、ジャズバーなど多彩なラインナップで街にやってくる人たちを楽しませてくれます。この街には一切の「気取り」がないのも多くの人に愛されるポイントです。

 高層ビルやタワーマンションが立ち並ぶお隣りの街、みなとみらいは、便利でお洒落な街かもしれませんが、建物だけが自己主張をして人間臭さを感じることはできません。野毛の街は相変わらず雑然としながらもどこか落ち着きがあります。予約をして畏まって入るのではなく、ぶらりと暖簾をくぐる。この暖かさが現代を生きる老若男女を惹きつける新たな野毛の街の魅力を作り上げているように感じるのです。

 野毛の街の持つ魅力は飲み屋街だけではなく、街に続く素敵な住宅街です。隣駅の関内に行けば、官庁街があり、プロ野球球団横浜ベイスターズの本拠地横浜スタジアムがあります。山下公園方面にも歩いてアクセスが可能で、これぞ横浜、の雰囲気を味わうことができます。毎年発表になる「住みたい街ランキング」の首位が横浜ですが、おそらく多くの投票者のイメージがみなとみらいや山下公園付近をイメージしていると思われますが、住むなら野毛近辺の紅葉坂あたりに住むのがベストです。

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 横浜はたった一駅。東京方面へのアクセスも軽快です。ここに住んだらもう東京のトロフィービルにあるレストランや居酒屋はアウトオブ眼中、間違いなしです。一度街の様子を確かめに足を向けてみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者
牧野知弘

不動産事業プロデューサー。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)など多数。

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