「官僚的な迷宮、手抜き展示…」NZ出身万博オタクが酷評する大阪万博と批判者に罵詈雑言浴びせる自称維新支持者

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 大阪・関西万博が開幕したが、来場者数が伸び悩んでいる。万博か想定した1日平均15万人の来場者を未だ達成できていない。このゴールデンウィークも思うように人が集まらなかった。万博は会期後半にかけて来場者が伸びていくとしている。その一方で並ばない万博のはずが、入場ゲートに長蛇の列ができている様子などが度々報道されている。一体何が起きているのか。経済誌プレジデント元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

目次

ニュージーランド出身の万博オタク「魂を打ち砕くような失敗作」 

 大阪・関西万博をめぐり、運営能力や準備体制への深刻な疑問符が、日増しに大きくなっている。単なる懸念や憶測のレベルを超え、具体的な証言や状況証拠が、この国家プロジェクトの根幹を揺るがしかねない事態を示唆している。

 自称「万博オタク」であり、世界各地の万博を熱心に訪れてきたコール・キャメロン氏(ニュージーランド出身)がX(旧Twitter)に投稿した痛烈な批判は、その象徴であろう。彼は、万博に大きな期待を寄せていたにも関わらず、実際に体験したとされる(あるいは伝え聞く)デジタル環境の劣悪さを「ダイヤルアップ時代並み」と断じ、使いにくい複数のアプリ、基本的なUIデザインの欠陥を列挙した。予約システムの煩雑怪奇さ、パビリオンや食事に至るまで抽選に頼らざるを得ない不便さを「官僚的な迷宮」と表現し、過去の万博(上海、麗水、ミラノ)でのスムーズな体験とは比較にならないと嘆いた。会場の魅力のなさについても、「魂のない企業見本市」「手抜きの展示」と厳しく評価し、高額な飲食への不満も隠さない。結論として「魂を打ち砕くような失敗作」「期待の裏切り」とまで断じ、訪問を全く推奨せず、USJや東京行きを勧めている。これは単なる反対派の意見ではない。万博を愛し、日本の技術力やホスピタリティに高い期待を寄せていた人物からの、具体的で、それ故に重い告発である。このような声は、万博の開催能力、大阪の行政手腕そのものへの深刻な疑念を抱かせる。本当に「未来社会のショーケース」を世界に示す準備ができているのか。それとも、見切り発車で突き進んだ結果、国際的な恥を晒すことになるのか。開幕直後の現場の混乱、通信障害、長蛇の列、案内不足といった報道も、キャメロン氏の指摘を裏付けるかのようだ。

私が批判すれば自称維新支持者から罵詈雑言が飛ぶ

 地方の祭り以下の運営レベルと揶揄される事態は、13兆円超の巨額の関連予算が投じられた国策プロジェクトとして、到底許されるものではない。この体たらくで、どうして世界中の人々を魅了し、満足させることができるというのか。開催能力への疑問は、万博そのものの存在意義を問うレベルに達している。

 私が、万博の経済波及効果について、主催者サイドの研究機関発表の「約3兆円」がいかに現実離れしているかを指摘すると、維新の支持者を自認する人々から、時に激しい反発を受ける。「アンチは口を出すな」「万博を潰したいのか」といった罵詈雑言が飛ぶ。しかし、感情論とは別に、メガイベントの経済効果が主催者によって意図的に高く見積もられ、コストが過小評価されてきたことは、学術研究によって繰り返し明らかにされてきた事実である。

 ビクター・マセソン氏の論文(2006)は、推進派による事前の経済効果予測が純経済的便益を誇張する傾向を指摘し、多数の事後分析研究レビューにより、実際の経済効果は限定的であることを示した。スーパーボウル開催都市の所得増はNFL主張の4分の1程度、NCAAファイナルフォー開催都市では所得がむしろ減少した。ジョナサン・バークレー氏の論文(2009)も、代替効果の無視、機会費用の軽視、クラウディングアウト効果、乗数効果の誤用、建設費を便益とする誤りを指摘した。これらの研究は、万博で喧伝される「約3兆円」がいかに慎重に扱われるべきかを示唆する。

万博が終わると横浜で国際園芸博覧会が始まる

 万博が終わると、横浜で、2027年3月19日から9月26日まで国際園芸博覧会(花博)が開催される。花博にも「経済波及効果は約1兆円」といった試算がある。大阪万博の「約3兆円」より控えめに見える。しかし算出根拠が万博同様、経済学の基本原則を無視している可能性は極めて高い。横浜花博への税金投入も同様の機会費用と代替効果の問題が存在する。来場者消費は他の消費からの付け替えであり純増とはならない。

 税金は減税や他の重要サービスに使えたはずだ。「花を愛でる」ための一過性イベントに巨額公費を投じる正当性は経済合理性の観点から極めて疑わしい。花博の「約1兆円」効果も、代替効果と機会費用を考慮すれば大きく目減りする。

維新支持者に問いたい。横浜花博にも「経済効果があるから素晴らしい」と賛同できるか。大阪万博と同様の信頼性の低い計算に基づく経済効果を根拠に、巨額税金投入を正当化できるか。思い出してほしい。かつて橋下徹氏が文楽(伝統芸能)の補助金を削減した時のことを。

万博成功論として来場者アンケートの「満足度が高い」ことを根拠にする動き

 当時その「改革」を喝采したのは維新支持者ではなかったか。財政規律重視、費用対効果の低い事業への厳しい目。それがかつての維新の魅力だったはずだ。しかし「経済波及効果」なるインチキ試算を適用すれば、どんな文化事業でも数字を水増しし「経済効果があるから補助金は必要だ」と主張できてしまう。大切なのは数字の信頼性、代替効果や機会費用を考慮した純便益だ。万博経済効果試算の問題は文楽でも花博でも共通する。

 他にも、万博成功論として来場者アンケートの「満足度が高い」ことを根拠にする動きがある。これも皮相的だ。文楽公演の観客に聞けばほとんどが「満足した」と答えるのは当然だ。自分の意思で訪れたイベントを否定する人は少ない。アンケート満足度は来場者の主観であり、イベント全体の成功、ましてや巨額税金投入の妥当性を証明する客観的根拠にはなり得ない。

 横浜花博もそうだが、大阪万博のように、恩恵が一部に偏る可能性のあるイベントに13兆円とも言われる国家予算を投入することは極めて慎重であるべきだ。投資が国民全体の利益となり持続可能な社会に貢献するのか。代替効果や機会費用を考慮してもプラスの純便益を生むと合理的に期待できるのか。現在の万博計画に肯定的に答えることは困難だ。

「アンチは口を出すな」

 もはや、万博推進者である橋下氏を含む吉村知事らが計画の誤りを認め反省することは、立場上困難なのかもしれない。巨大プロジェクトを途中で修正することは政治的失点を意味する。ありもしない経済効果を喧伝し、コストを過小に見積もり、批判に感情的に反発する。人気維持のためにはそうせざるを得ないのかもしれない。だとすれば変革の期待は維新支持者自身にあるのではないか。

 かつての維新が持っていたはずの財政規律への厳しい目、既得権益への抵抗、市民感覚に根差した政策判断。そうした原点を思い起こし、現在の維新が万博に前のめりになるあまり理念を見失い、おかしな方向へ進んでいる現状を、内側から変えていく努力をしてほしい。「アンチは口を出すな」ではなく、多様な意見に耳を傾け冷静に事実を見極める姿勢こそ求められている。私は少なくとも、文楽補助金削減に見られたような潔さや輝きを今の維新にもう一度取り戻してほしいと願う。

関連予算13兆円は全ての国民、将来世代に重くのしかかってくる

 万博は会場を訪れる人々、関心を持つ人々にとっては大きなイベントであろう。しかし日本国民全体で見れば、行かない人々、関心を持たない人々が大半を占める。建設の遅れ、費用の増大、運営への不安といったネガティブな報道が続く中で、大多数の人々にとって万博への関心はますます薄れていく一方だろう。

 しかし皮肉にも、関連予算の13兆円という巨額の負担は、関心の有無に関わらず、全ての国民、将来世代に重くのしかかってくる。一部の熱狂と、大多数の無関心、そして共有される巨額の負担。この歪んだ構造こそが大阪万博が抱える根本的な問題であり、将来に暗い影を落とす最大の要因なのかもしれない。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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