竹中平蔵「小泉陣営のコメント依頼はステマじゃない」名誉棄損、私なら告訴する…文春砲の方がよっぽどステマだ!総裁選で高市氏勝利

石破茂総理大臣の退任に伴い開かれた自民党総裁選で下馬評で優勢とされていた小泉進次郎氏を高市早苗氏が破った。その総裁選の中で話題となったのは小泉氏を巡るステマ騒動だ。父・小泉純一郎政権時代に大臣として総理を支えた経済学者の竹中平蔵氏は「ステマという指摘に完全に間違っている」と指摘する。一体なぜ、そう考えるのか。竹中氏が詳しく解説していくーー。
目次
「ステマ」指摘は完全に間違っている
今回の自民党総裁選は事前の下馬評を崩し、高市早苗氏が総裁として選出されました。総理となるであろう高市総裁は今後日本をどうかじ取りするのか。大変興味深いです。
さて、総裁選では様々な候補者が論戦を繰り広げた中、小泉進次郎さんの周辺がにわかに騒がしくなっていました。いわゆる「文春砲」が飛び出し、彼に対する様々な批判がメディアやSNSを賑わせています。しかし、私はそれらの批判の多くが、本質からずれた、あるいは意図的に歪められたものであると感じています。
まず、小泉陣営が陣営メンバーらに動画へのコメント投稿を依頼したという報道についてです。これを一部メディアは「ステルスマーケティング(ステマ)ではないか」と批判しました。私は、この指摘は完全に間違っていると考えています。
そもそも、ステルスマーケティングとは何でしょうか。これは、消費者に広告であると気づかれないように、あたかも第三者の客観的な意見であるかのように装って商品やサービスを宣伝する行為です。法律でも規制されているのは、一般大衆を欺く形で宣伝を行うからです。
しかし、今回報じられたケースは全く異なります。報道によれば、小泉陣営が陣営の内部にいる人たち、つまりもともと彼を応援している人たちに対して、「みんなで応援のコメントをしましょう」と呼びかけたという話です。これは、選挙運動においてごく当たり前に行われる、身内に対する動員のかけ声です。
たしかに、他の候補者に対する批判のようなコメントは下品だったでしょうし、小泉氏本人も「行き過ぎた表現があった」ことは認めています。しかし、一般大衆に対して、自分たちの素性を隠して世論を操作しようとしたわけでは全くありません。これをステルスマーケティングと呼ぶのは、言葉の定義を根本的に誤解した、極めて不当なレッテル貼りと言わざるを得ません。
文春砲の方が、よほステマの本質に近いのでは
むしろ、私がステルスマーケティング的だと感じるのは、今回の報道を行ったメディアの姿勢そのものです。例えば、文春が「コメント依頼記事」翌週に出した記事では、「小泉氏が会長を務める自民党神奈川県連で、高市早苗前経済安全保障相を支持していた党員が離党させられた」と報じられました。
自民党の神奈川県連は昨年の衆院選で落選した中山展宏氏との関係などから党員となっていた826人について、今年6月20日付で意思確認を十分にしないまま離党の手続きが行っていたようです。これをあたかも「小泉氏の陰謀である」とも読み取れる論調の記事を文春は掲載しました。
これは、客観的な記事という体裁をとりながら、明らかに反小泉キャンペーンという特定の意図を持って世論を誘導しようとしています。こちらの方が、よほど「ステルスマーケティング」の本質に近いのではないでしょうか。
「ステマ」という言葉は、多くの人にとって意味が曖昧なまま、「何か悪いこと」「違法なこと」という強いネガティブな印象を与えます。その言葉の持つインパクトを利用して、特定の候補者のイメージダウンを図ろうとする。そうしたメディアの戦術に対して、私たちはもっと冷静に見る目を持つ必要があります。もし私が彼の陣営の人間であれば、これは明確な名誉毀損として、すぐにでも法的措置を検討し告訴していたでしょう。
「小泉氏は経験不足」という的外れの批判
選挙が終わった後に告訴を取り下げたとしても、その姿勢を見せることで、後続の不当な報道を抑制する効果があったはずです。しかし、彼らは今回、あえて波風を立てない選択をしたのでしょう。その冷静さは評価すべきかもしれませんが、こうした不当な批判に対しては、もっと毅然と戦うべきだったとも思います。
次に、小泉氏に対して浴びせられたもう一つの典型的な批判、「大臣経験が浅いのではないか」という点についてお話しします。彼は環境大臣や農水大臣などを歴任しましたが、もっと多くのポストを経験すべきだという意見があったようです。
しかし、この批判もまた、日本の政治史を少しでも振り返れば、いかに的を射ていないかが分かります。例えば、長期政権を築いた安倍晋三元総理は、初回の組閣前、大臣として経験したのは官房長官だけです。自民党幹事長は経験していましたが党のポストであり、大臣ではありません。
総理になったときに「大化け」できるかどうか
小泉氏の父、純一郎元総理も、厚生大臣と郵政大臣の二つです。昔の派閥政治の時代であれば、派閥の長が様々な大臣ポストを経験するということもありましたが、時代は変わりました。現代の政治において、何度も大臣を経験している政治家は、むしろ少数派です。
そもそも、大臣のポストをいくつ経験したかという「数」が、総理としての資質と直結するわけではありません。大臣を5つも6つも経験した人が「彼は2つしかやっていない」と評するならまだしも、中には大臣という仕事の重みや実態を知らない人が、数の多寡だけで批判していた元政治家の方もいました。それは少し滑稽にさえ思えます。
私が最も重要だと考えるのは、「総理」という大きな舞台に立った時に「大化け」できる準備ができているかどうか、という点です。かつて、そのポテンシャルを見事に開花させたのが、中曽根康弘元総理であり、小泉純一郎元総理でした。彼らは、総理という立場になって初めて、その真価を国民の前に示したのです。一方で、田中角栄元総理や竹下登元総理のように、それまでに豊富な経験を積み「大物」と呼ばれた政治家が、必ずしも長期にわたって安定した政権を運営できたわけではありません。
「今回、小泉は待つべきだった」という批判もナンセンス
大臣の仕事は、一つ経験するだけでも、国家運営の複雑さや官僚組織との関わり方など、多くのことを学ぶことができます。重要なのは経験の数ではなく、その経験から何を学び、来るべき時に備えて国家全体のビジョンを描く準備ができているか。その一点に尽きるのです。
大臣経験の浅さという批判とも関連して、「今回はまだ待つべきだったのではないか」という声も聞きました。しかし、私はこの意見にも全く同意できません。
政治の世界というのは、常にカオスです。自分にとって完璧に都合の良いタイミング、全ての条件が整った理想の時期など、決して訪れることはありません。チャンスが来た時に、たとえそれがどんなに厳しい状況であっても、果敢に挑むべきです。
「いつかはなれるだろう」と思って、そのチャンスを逃し続けた典型的な例が、小沢一郎さんでしょう。かつては、誰もが彼が総理になることを疑いませんでした。しかし、政治の潮目は常に移ろいます。総理の座というのは、それほどまでに掴み難いものなのです。
かつて「ニュースステーション」と闘った小泉政権
小泉純一郎元総理は3回目、麻生太郎元総理は4回目、そして石破茂さんに至っては5回目の挑戦でようやくその座を手にしました。
総裁選とは、本来そういうものです。何度も挑戦し、その中で自らを鍛え、国民にビジョンを訴え続けていく。そのプロセスそのものが、リーダーを育てるのです。ですから、「今は待つべきだった」という慎重論は、私には後ろ向きな議論にしか聞こえません。
さて小泉氏の父・小泉純一郎内閣の時代、政権が戦うべき相手は、主にテレビのニュース番組でした。特に「ニュースステーション」(テレビ朝日系、2004年終了)のような番組が、連日のように政権批判を繰り広げ、それに対してどう対峙するかが問われていました。
しかし、時代は大きく変わりました。今の政権が向き合わなければならないのは、SNSという巨大な言論空間です。そこでは、真偽不明の情報が瞬く間に拡散し、あらゆる事象が、時には悪意を持って叩かれます。
もちろん、「ネットで流れている情報を、国民はそこまで信じていないだろう」という意見も分かります。多くの人は、明らかに嘘だと分かる情報に惑わされるほど愚かではないでしょう。
SNSは短期間で熱狂的な「バブル」を生み出す
小泉純一郎政権が連日批判を繰り返されていた当時、私の教え子もかつて、「うちの母親は教養がある方ではないが、テレビで言っていることの8割は嘘だと分かっている」と言っていました。人々には、メディアの情報を鵜呑みにしないリテラシーが備わっている部分もあります。
しかし、同時に、SNSが持つ特有の力も見過ごすことはできません。それは、全く無名だった人物を、一夜にして「オピニオンリーダー」に仕立て上げる力です。最近で言えば、石丸伸二さんのような存在が典型でしょう。彼はSNSを駆使することで、既存のメディアとは異なる形で人々の支持を集め、大きなムーブメントを作り出しました。SNSは、短期間で熱狂的な「バブル」を生み出すことができるのです。
この力は、諸刃の剣です。正しいビジョンを持つリーダーが生まれれば社会にとってプラスになりますが、もし間違った方向へ導くオピニオンリーダーが登場すれば、社会は大きな混乱に陥ります。
なぜ小泉父は「自民党ぶっこわした」のか、小泉ジュニアは「自民党をまとめる」のか
だからこそ、現代の政治家は、このSNSという空間とどう向き合い、どう戦っていくのかという、新たな戦略と思想が求められているのです。
さて、小泉進次郎さんの父親である純一郎元総理は、「自民党をぶっ壊す」という鮮烈なスローガンを掲げました。一方、進次郎さんは今回、全く逆のことを言っています。彼は「自民党をまとめる」と訴えているのです。これを聞いて、がっかりした人もいるかもしれません。「父親のような改革への気概がないのではないか」と。
先日、彼と直接話す機会があり、「お父さんは『ぶっ壊す』と言ったけど、あなたは『まとめる』と言うんですね」と尋ねると、彼は「今の自民党は、もう既にぶっ壊れている」と語っていました。だからこそ、まずはそれを「まとめる」必要がある、と。
高市早苗さんが総理に選ばれましたが、彼女に今の自民党を一つにすることはできるのか。とても楽しみです。