投資の神様が株を大量売却し市場騒然!バフェットが株主宛て書簡に綴った言葉とは…「静かにするつもりだ」これは単なる利確ではない

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 世界中から注目を集める著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイが株式の大量売却を進めている。最大の投資銘柄を占めてきたIT大手・アップルの株を2025年7~9月期(第3四半期)に15%減らし、2年間で保有株数は7割近くも減少した。また、米銀大手バンク・オブ・アメリカの株式も6%減らしている。売り越しは12四半期連続で、現金保有額は9月末時点で3817億ドル(約60兆円)と過去最高を記録した。市場で不気味な動きを見せる「投資の神様」は一体、何を見据えているのか。経済アナリストの佐藤健太氏が解説する――。

目次

株を売っている「投資の神様」

 投資の世界で知らない人はいない「オマハの賢人」が今年も投資資金の回収を続けている。11月1日に発表されたバークシャー・ハサウェイの2025年7~9月期決算によれば、株式取得額は63億5500万ドル、逆に売却額は124億5400万ドルだった。つまり、60億9900万ドルの売り越しである。総資産に占める手元資金の割合は増加し、近年は10~20%程度の水準を保ってきたが、足元では約3割を占めている。

 営業利益は34%増の134億9000万ドルで、保険引受利益が3倍超の増益となった。一方、選択的投資も行っていることがうかがえる。8月にバークシャーは医療保険サービス・ユナイテッドヘルス・グループ株を16億ドル購入。10月には米化学メーカー・オキシケムをオキシデンタル・ペトロリアムから97億ドルで買収すると発表した。さらに米グーグルの親会社アルファベットの株を新たに取得し、9月末時点で約43億ドル相当保有する。

 バフェット氏は5月、バークシャーの最高経営責任者(CEO)を退任する意向を表明した。米ネブラスカ州オマハで開催されたバークシャーの株主総会で「私よりもグレッグの方が会社は良くなる」などと語り、グレッグ・アベル副会長がCEOに就任することになった。95歳となったバフェット氏は会長職にとどまるものの、決定権はグレッグ氏が担う。このため、一連の売り越しは新体制に向けたポートフォリオ再構築の意図もうかがえる。

 では、時価総額1兆ドル(約154兆円)の複合企業バークシャーはどこに向かっていくのか。それを紐解くカギはもちろん、バフェット氏の「意向」にある。

「静かにするつもりだ」バフェット氏の株主宛て書簡

 11月10日、バフェット氏は株主宛ての書簡を公表した。1965年から毎年メッセージを発信してきたが、「もう年次書簡の執筆も、株主総会で話すこともない。『静かにする』つもりだ」と記し、グレッグ氏に引き継ぐ考えを改めて示すとともに「彼は偉大な経営者、努力家、誠実なコミュニケーターだ。彼が長期にわたって在任することを願っている」と説明した。

 その上で、バフェット氏は自らの人生と投資の歩みを振り返りつつ、「バークシャーは今後100年間で5、6人のCEOしか必要としないだろう」と自信を見せ、「全体として見れば、バークシャーの事業群は平均より良好な見通しを持ち、相関性が低い大規模な優良企業が牽引している」と指摘している。

 ただ、公表された書簡でより重要なのは、「10~20年後はバークシャーより好成績を上げる企業が数多く存在しているだろう」としている点だろう。バフェット氏は、バークシャーの規模が「重荷」になるとの見方を示し、株価は気まぐれに動いていくと予想している。バークシャーの株価は、5月にバフェット氏が退任の意向を発表して以来、10%近く下落しているが、バフェット氏はこれまでの60年間にも大きく下落した経験があるとした上で、それでも「米国は復活し、バークシャー株も同じように回復する」と呼びかけている。そして、「過去の過ちを悔やみ、自分を責めるのではなく、そこから少しは学び、前に進むことだ。向上するのに遅すぎることはない」とアドバイスを送った。

単なる利益確定ではない

 この「最後の書簡」も、これまで多くのファンを生んできたバフェット流の「哲学」に基づいたものと言えるだろう。その上で最近のバフェット氏の動きを見ると、単なる利益確定ではなく、市場の過大評価と潜在的な経済リスクへの警戒を示唆していることがわかる。

 バフェット氏のポートフォリオは、アップルやアメリカンエクスプレス、コカコーラといった伝統的な優良株が中心だが、たとえ良い企業であっても割高な価格では買わないことが知られる。現在の米国株式市場は「バフェット指標」(株式市場総時価総額÷GDP×100%)が史上最高水準に達している。この指標は150%を超えると警戒ゾーンとされるが、11月15日現在の指標は223%前後と市場の過熱を強く示唆している。

市場修正時の「買い機会」を待っている

 大量の売り越しに動揺する人も少なくないが、2025年の調整は市場の変化に対応したものと言えるのだ。AIブームに到来でテック株が急騰し、集中リスクも高まっている。加えて、米国の政府債務がGDPを超える水準に達することへの警戒感やインフレ再燃、通貨価値の下落リスクも懸念されているところだ。現金保有の増加は2008年の金融危機前などにも同様に見られた。つまり、市場修正時の「買い機会」を待っているように見える。

 言うまでもなく、バフェット氏の投資哲学の柱は、長期に、質の高い企業に投資する点にある。「理解できるビジネスに投資する」「価値のあるものを割安で買う」ことが中心であり、バフェット氏の売却は市場の健全性を促すシグナルとも読み取れる。

 バフェット氏は、競争優位性が高い企業を好む。ブランド力、コスト優位性、ネットワーク効果などで守られた「堀」を持つ企業にチャンスを見いだす。追加投資を実施しているのも、こうした企業だ。市場の過熱時には現金を積み上げ、パニック時に買いを入れる「逆張り戦略」も哲学に基づいている。

市場の過熱を強く示唆するバフェット指数

 もちろん、バフェット氏の行動は絶対的なものではない。あくまで長期的な視点に基づくものであり、今後の市場変動を正確に見抜いているとは言えない。だが、10月の高市早苗内閣発足から日経平均株価が史上最高値を更新し続けてきた日本においても、多くの示唆を与えるものであるのは間違いないだろう。

 バフェット氏は、「バフェット指標」が200%に近づくと「火遊びをしているようなものだ」と警告した。先に触れたように足元の指標は223%前後と市場の過熱を強く示唆している。この言葉から投資家たちは何を学ぶべきか。一度、冷静に自らのポートフォリオを見つめ直してみても良いかもしれない。

 ではいつ市場の修正がくるのか。それは本当の神のみ知ることだろうが、日経平均の下落のトリガーとなるかねないのは日銀による利上げだ。今後日本が欧米並みのインフレが日本を襲った場合、日銀は利上げに踏み切ることになるだろう。そしてもうすでにそのタイミングはすぐそこにまでやってきている。早ければ年内”という見方が強まっている。

いつ暴落するのか

 第一生命ホールディングスの甲斐章文執行役員は11月14日の決算会見で日本銀行の利上げについて「早ければ12月で、場合によっては年明けに1度目があるのではないか」とした。そうなれば、ドル円相場やオーバーシュートした日経平均や“正常化”に向かい始めるかもしれない。

 バフェット氏の行動は、単なる一投資家の判断を超え、世界の投資家に対する「警鐘」と捉えるべきだろう。彼の持つ巨額の現金は、割安になった「優良企業」を狩るための準備資金であり、市場の過熱に対する冷静な視点を私たちに促している。日本市場も例外ではない。バフェット氏の哲学を胸に刻み、リスクを意識した上で、自らの投資戦略を見つめ直すことが、今後の激動の時代を乗り切るための鍵となるはずである。

「市場の暴落は本物の投資家にとって恩恵になることもある。ただし、価格が価値から大きく外れたときに資金が残っていることが条件だ。投資において恐怖の風潮は友であり、熱狂は敵である」(バフェット)

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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