誰もが活躍できる「スキルベース組織」とは?“職務”よりも“スキル”が大事なこれだけの理由

人手不足が深刻化する一方で、これまで大手企業から官公庁、自治体まで、のべ500万人の人材マネジメントを支援してきた小出翔氏は、「多くの企業が直面する真の課題は、単なる頭数の不足ではなく、スキルのミスマッチだ」と話す。いま求められる「スキルベース組織」について、小出氏が解説する。全3回中の1回目。
※本稿は『誰もが成長し活躍する会社のしくみ 「スキルベース組織」という新しい人材マネジメントの実践法(プレジデント社)』から抜粋、再構成したものです。
第2回:「ただの雑用」だと思われていた女性社員に潜んでいた驚くべき価値!なぜあなたの会社ではリスキリングが進まないのか
第3回:現代社会に必要なのは「ラーナビリティ」と「ソフトスキル」!有望な人材を見極めるコツとは
目次
「スキルベース組織」とは何か
多くの日本企業が長年採用してきた人材マネジメントのしくみは、新しい現実に対応できなくなっています。
メンバーシップ型では曖昧すぎ、ジョブ型では硬直的すぎる。このジレンマを乗り越えるための第三の道こそが、「スキルベース組織(Skills-based Organization)」です。
皆さんの会社では、一度決めた組織構造や役割分担が、硬直化してしまっていないでしょうか?
「半期前に作成した職務記述書が、もはや現状と乖離してしまっている」
「新しいプロジェクトを立ち上げたいが、部署間の壁があって必要な人材を集められない」
「隣の部署が何をやっているのかわからず、非効率な重複作業が発生している」
これらは、変化の激しい時代において、従来の「職務(ジョブ)」や「部署」を単位とした組織運営が限界を迎えていることを示唆しています。
スキルベース組織は、この硬直性を打破し、変化に強い柔軟な組織を作るための鍵となります。その核心は、組織運営の最小単位を「職務」から「スキル」へとシフトすることにあります。
スキルをベースにすれば、機動的なチーム編成が可能になる
これを理解するために、「玩具ブロック」を想像してみてください。
従来のジョブ型組織は、すでに完成した「家」や「車」といったパッケージ(職務)を並べているようなものです。家の形を変えたり、車の一部を改造したりするのは容易ではありません。
一方、スキルベース組織は、多種多様な形の「ブロック」(スキル)の集合体として組織を捉えます。一つひとつのブロックは、単体でも意味を持ちますが、組み合わせることで家にも、車にも、あるいはまったく新しい何かにも姿を変えることができます。
「スキル」は、「職務」よりも小さく、普遍的な単位です。たとえば、「データ分析」という職務は、市場環境によってその内容は変化しますが、それを構成する「統計学の知識」「分析ツールの操作スキル」「仮説構築スキル」といったブロックは、ほかの職務でも活用できる、持ち運び可能な(ポータブルな)能力です。
組織運営の単位を「スキル」にすることで、私たちは変化に応じて、必要なスキルを持った人材を柔軟に組み合わせ、機動的にチームを編成することができるようになります。
アジャイルな組織運営が実現
たとえば、ある企業でAIを活用した新しい顧客サービスを開発するというプロジェクトが立ち上がったとします。このプロジェクトには「AIアルゴリズム開発スキル」「UI/UXデザインスキル」「顧客インサイト分析スキル」「プロジェクトマネジメントスキル」など、多様なスキルが必要です。
従来の縦割り組織では、これらのスキルを持つ人材は別々の部署に分散しており、部署間の調整に時間がかかって、プロジェクトの立ち上げが遅れてしまうかもしれません。
しかし、スキルベース組織では、社内のスキルデータが可視化されているため、誰がどのようなスキルを持っているのかを瞬時に把握できます。そして、部署の壁を越えて必要なスキルを持った人材を素早く集め、プロジェクトチームを組成することができます。
プロジェクトが終了すればチームは解散し、メンバーはまた別のプロジェクトや役割にアサインされます。まるで、状況に応じてフォーメーションを変えるサッカーチームのように、ダイナミックに人材を再配置することができます。
このような、状況に応じて柔軟にチームを編成し、迅速に価値を提供する組織運営の手法は、「アジャイル(俊敏な)」な組織運営と呼ばれます。スキルベース組織は、こうした組織運営を実現するために不可欠な基盤となります。
このアジャイルな組織運営を大規模に実践しているのが、オランダの大手金融機関INGグループです。同社は、従来の階層的な組織構造を廃止し、顧客への提供価値に基づいて「トライブ」と呼ばれるチームの集合体を組成しました。
各チームは、多様なスキルを持つメンバーで構成され、自律的に意思決定を行いながら迅速にサービスを開発・改善しています。この変革により、同社は変化の激しい金融市場において、高い顧客満足度と競争力を維持しています。
「職務」ではなく「スキル」が重要な理由
変化が常態化するVUCAの時代において、企業が生き残るためには、予期せぬ変化や危機に対応できる「レジリエンス(回復力・しなやかさ)」が求められます。
スキルベース組織は、組織のレジリエンスを高めるうえでも大きな力を発揮します。
たとえば、新型コロナウイルス感染症のパンデミックのような危機が発生し、ある事業部門が縮小を余儀なくされた場合を考えてみましょう。そこで働く社員が持つスキルが可視化されていれば、そのスキルを必要としている他の成長分野へとスムーズに再配置することができます。
実際にある航空会社では、旅客需要が激減した際、客室乗務員が持つ高度な「接遇スキル」や「危機管理スキル」に着目し、自治体のコールセンター業務支援や企業向け研修講師といった新たな役割に配置転換することで、雇用を維持しつつ変化を乗り越えた事例があります。
「この職務がなくなったから、もう居場所がない」ではなく、「このスキルを活かせる新しい役割がある」という視点に立つことで、雇用の維持と、人的資本の有効活用を両立させることができます。
固定的な職務や部署に縛られるのではなく、スキルを軸として柔軟に役割を変化させていく。これこそが、変化の時代を生き抜くための、新しい組織のあり方です。
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