英語力ゼロで海外に行くのは無謀な挑戦なのか?28歳でワーホリに飛び出した樺澤まどかが実体験を語る!

 英語が話せないまま海外に渡るのは、無謀な挑戦なのだろうか。元吉本興業のマネージャーで、現在はイギリスでワーキングホリデー生活を送る樺澤まどかさんは、英語力ほぼゼロの状態で海外へ飛び込んだ。言葉が通じない中で感じた思いや、見えてきたものについて、樺澤さんが語る。 

 みんかぶプレミアム連載「樺澤まどかのロンドン卑屈日記」

目次

英語力ゼロの海外生活は過酷

 英語力ゼロで海外に挑戦すると話したとき、こんな声をよく聞いた。

「英語ができないなら、先に日本で勉強してから行った方がいい」
「英語が話せないまま海外に行っても、学べることは限られる」
「流暢にコミュニケーションが取れないと、その土地の文化を正しく理解することはできない」

 心配して言ってくれている人もいたけれど、中には、私の行動を無謀で無意味なものだと決めつけているように感じる意見もあった。

 たしかに、それは正論なのかもしれない。

 でも、他人の挑戦に向ける言葉としては、少し乱暴だとも思っていた。だから今回は、その話をしてみようと思う。

 実際、英語力ゼロで海外生活をスタートするのは、なかなか過酷ではあった。

 海外到着初日、予約していたバックパッカーホテルにチェックインした際、すでに支払い済みだった宿泊費を再度請求された。英語が聞き取れないせいで、受付スタッフが何を言っているのか理解できず、「宿泊のためのデポジットか何かで、あとで返ってくるお金なのかもしれない」と勝手に解釈し、そのまま支払ってしまったのだ。

 その後カードの履歴を見て、宿泊費を二重で払っていたことに気づいた。結果的に返金はしてもらえたけれど、もし相手が親切な人でなかったら返ってこなかったかもしれないし、もっと面倒なトラブルになっていた可能性もある。

「笑われても気にしない」と思えるようになった

 当時のシェアハウス探しも大変だった。英語がほとんど話せなかったので、内見の予約も、住人とのやり取りもうまくいかない。このまま家が見つからないのではないかと、本気で絶望的な気持ちになった。

 銀行口座の開設やスマホの契約など、事務的な手続きも一苦労。ちょっとした外出先で人と話すのも一苦労。とにかく、あらゆることにいちいち苦労した。 

 それでも、日本で英語を勉強していたら得られなかった経験もあった。必要に迫られることで、強制的に言語を習得していく感覚。言葉が完璧でなくても、態度や姿勢で思いは伝わるという実感。カタコト英語を話す外国人として生きる図太さ。いろいろあるけれど、私の中で一番大きかったのは、「恥をかくことへの耐性」がついたことだと思う。

 もともと私は、人前で間違えたり、恥ずかしい思いをしたりすることが苦手だし、人からどう思われるかも気にしてしまうタイプで、その気質は今も少し残っている。

 でも、海外で英語を話していると、そんなことを気にしている余裕がない。まだ学習途中なのだから間違えて当然だし、変な言い方をしてしまって恥をかくこともある。いまだに子どものような話し方しかできないし、聞き間違えて、まったく違う解釈をしておかしな行動をし、笑われることだってある。

 だけど、気にして立ち止まっている暇はない。生活は続くし、話さなければ何も進まない。そうやっているうちに、いつの間にか恥をかくことへの抵抗はかなり薄れていた。

 また、英語以外の自分の価値についても考えるようになった。言葉で自分をうまく表現できないなら、自分には何があるのか。明るさなのか、誠実さなのか、気配りなのか、行動力なのか。そんなふうに、自分の別の武器を探す時間になったのだ。

 流暢に話すことよりも、笑顔でいること、約束を守ること、困っているときに助けること、ちゃんと感謝を伝えることのほうが、人との関係においてずっと大事な場面もあると知った。

だんだん見える世界が変わっていく

 英語ができない状態だからこそ、見えたものもあった。

 言葉が流暢ではない相手に対して、少し強く出る人がいること。英語がうまく聞き取れず聞き返した途端、急に面倒そうな態度になる人もいた。同じ日本人の中にも、英語力によって態度を変える人もいた。

 また、言葉が不自由なだけで、人は驚くほど簡単に自信をなくすことも知った。自分が少数派で、劣っている側にいるような感覚になり、何気ない一言や態度に、必要以上に傷ついてしまうこともあった。だからこそ、自分が誰かに接する時は、なるべくそういう思いをさせたくないと思うようになった。

 逆に、言葉が十分に通じなくても、驚くほど誠実に接してくれる人がいることも知った。オーストラリアで一緒に暮らしていた3人のシェアメイトたちは、誰も日本語を話せなかったし、当時の私の英語もかなり怪しかった。それでも彼らは私に興味を持ってくれて、優しく接してくれた。出かけたり、旅行に行ったりもした。

 私が毎日リビングで英語の勉強をしていると、みんなが代わる代わる教えてくれた。

 1年弱一緒に暮らして、退去する頃になっても私はまだカタコトだったけど、それでも一生の友達だと思える関係になれた。言語の壁は、友情を築くうえで必ずしも障害にならないということを知ったし、そのうえで、心から尊敬できて信頼できる相手と出会えたことは、私にとって、とても大きかった。

 今度、シェアメイト同士の結婚式があり、そこに招待してもらっている。あの頃より少し伸びた英語で、また彼らと話せるのが今からとても楽しみだ。

語学力の成長は、人間としての成長にもつながる

 英語ができるようになるにつれて、見える世界が変わった感覚もある。

 まず、自信を持って会話に入れるようになったことで、英語ができなかった頃よりずっと社交的になった。話せるし、相手の言っていることも理解できる。だからこそ、人への興味も以前より強くなっていった。

 英語で自分を説明できるようになり、意見もはっきり言えるようになったことで、自分の意思も強くなった。時には、そのせいで口論になることすらある。

 働ける場所も変わっていった。最初は日本食レストラン、その後、小さくてスローなローカルのアイスクリーム屋さん、その後に少し忙しめのローカルのケーキ屋さん。そして今はロンドンで、大きくて忙しい陶芸スタジオで働いている。

 同僚はほとんどイギリス人で、日本語が通じる人は一人もいない。もちろん、お客さんも全員英語だ。そんな環境で、人に何かを教えたり説明したりする仕事を、自分がしている。数年前の私は、想像もしていなかったことだ。

 英語力が上がるのと同時に、明らかに自分の可能性が広がっていて、自己肯定感や自信まで少しずつ増している。人間としてレベルアップしていっている感覚がある。

 ここまで振り返ってみて思うのは、挑戦するタイミングに正解はないということだ。

 英語ができるようになってから海外に行く人もいるし、できないまま飛び込む人もいる。何を得るかは、その人がそこでどう生きて、どう感じて、何を見るかによって変わる。

 もっと言うと、何かを得なければいけないわけでもない。何を得たかどうかなんて結果論だし、挑戦したいことがあったなら、やってみないと何が起きるかはわからない。

 やりたいと思った時に、準備不足が不安ならその不安を潰せばいいし、準備不足のまま行って、自分がどうなるか見てみるのもいい。

 少なくとも私にとっては、英語力ゼロのまま飛び込んだからこそ得られた経験が、たしかにあった。

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この記事の著者
樺澤まどか

群馬県前橋市出身。早稲田大学先進理工学部を卒業後、同大学院基幹理工学研究科にてロボット研究や科学技術を用いたアート制作に取り組み、2019年修了。同年、吉本興業に入社。マネジャーとしてとろサーモン・かまいたちを担当する傍ら、同社のアイドルグループ「吉本坂46」としても活動。 2023年に退社後、ワーキングホリデー制度を利用してオーストラリアへ渡航。現在はYMSビザでイギリス・ロンドン在住。動画クリエイターとして海外生活や自身の挑戦を発信しながら、アパレルブランドのディレクションなど、ジャンルを横断したクリエイティブ活動を行っている。

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