IR(独自企業分析)

成長し続けるソフトウェアテスト専門企業「デジタルハーツホールディングス(3676)」 子会社AGESTのスピンオフ上場も

 独自の観点で注目企業の価値を分析するMINKABUマトリクス企業分析。

 今回は、ソフトウェアテストサービスを主力とする専門企業であり、子会社AGESTのスピンオフ上場準備を進めている株式会社デジタルハーツホールディングス<3676>(以下、デジタルハーツHD)をピックアップします。

Key Points

  • ゲーム領域を対象としたDHグループ事業と、エンタープライズ領域を対象としたAGESTグループ事業の2つの事業を展開するソフトウェアテスト専門企業。
  • DHグループ事業が業績を牽引し、2025年3月期2Qは「増収増益」を達成。各指標も良好で、確実に成長路線を歩んでいる。
  • 急成長しているエンタープライズ向けテスト事業を行う子会社AGESTについて、2025年内のスピンオフ上場に向けた準備を進めている。2事業それぞれの成長ポテンシャル最大化を目指す。

目次

デジタルハーツHDってどんな会社?

 デジタルハーツHDは、ソフトウェアテストサービスを主力とした専門企業です。

 2001年の創業事業であるゲーム領域を対象にデバッグサービスを主に提供するDHグループ事業と、エンタープライズ領域を対象に品質保証(Quality Assurance)サービスを提供するAGESTグループ事業の2つの事業を展開しています。

国内のゲームデバッグ市場で圧倒的シェア確立 グローバル展開も

 デジタルハーツHDは、PlayStationやXboxといった家庭用ゲームのゲームソフトの不具合を検出する専門企業です。

 スマホの普及によりモバイルゲーム市場が拡大するにつれて売上高も伸び、2008年に東証マザーズに上場、2011年に東証一部へ市場変更を果たしました。国内のゲームデバッグ市場で圧倒的シェアを確立するとともに、海外展開もスタートしました。

 直近のデジタルハーツのデバッグ実績例を見ると、ゲームアプリ「ポケモンスリープ」やPlayStation 5用ゲームソフト「ファイナルファンタジーXVI」をはじめとした著名ゲームタイトルが並び、業界大手としてさまざまなデジタルコンテンツの品質向上に携わっていることが分かります。

 さらに、総合ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の運営や、ゲームのローカライズ・マーケティング支援といったコンテンツをグローバル展開するためのサポート事業など、ゲーム業界における事業多角化を実現させています。

エンタープライズ向けのテスト事業が急成長!  

 2017年には第二創業期として、ゲーム以外の企業向けにソフトウェアの不具合を検証する事業を(エンタープライズ事業、2025年3月期のカテゴリ見直しにより、現在のAGESTグループ事業に改称)本格的にスタートしました。

 新規事業の立ち上げにともない経営体制を一新し、社内資源の再配分とM&Aを積極的に推進。

 この取り組みにより、同事業の売上高年平均成長率は+30%以上(19/3期~24/3期の5年間の平均成長率)という高い水準を維持し、直近期の売上構成比を見ると、AGESTグループ事業は40.5%を占めるまでになっています。

両事業のポテンシャル最大化に向けた子会社AGESTのスピンオフ上場準備進む

 デジタルハーツHDは2023年、急成長しているエンタープライズ向けテストサービスを提供する主要子会社のAGESTについて、株式分配型スピンオフ及び上場(以下、「スピンオフ上場」)に向けた準備を開始すると発表しました。2025年内の実現を目指し、準備を進めているとしています。

 一般的にスピンオフ上場とは、企業が子会社や一部の事業切り離し、独立上場させることを指します。独立した会社の株式は、元の会社の株主に交付されることとなっています。

 日本では親会社と子会社が共に上場する親子上場は、親会社による子会社への影響の大きさが懸念されてきました。一方、スピンオフ上場の場合、独立した会社が親会社の影響を受けにくくなることで、経営面や資本面での独立性が高まり、企業としての効率性が向上するといったメリットが期待されます。

 さらに、スピンオフ上場の一般的なスキームとして、独立する会社の株式は元の会社の株主に交付されるため、株主にとっては新規上場株を無償で受け取れるという大きなメリットが。また、分離上場により親会社と子会社の株を個別に売買できるようになるため、投資の柔軟性が高まるといった面も注目されています。

 デジタルハーツHDの筑紫敏矢代表取締役社長CEOは、AGESTのスピンオフ上場について以下のように説明しています。

「日本ではまだ事例の少ないスピンオフ上場ですが、明確に異なる事業価値創造戦略を有する2つの事業を個別に上場することで経営フォーカスを高め、最適な資本政策でそれぞれの事業の持つポテンシャルを最大化し、事業及び株主・顧客・従業員等すべてのステークホルダーに最良の効果をもたらすことを目指しています。」

驚きのオール「Excellent」! 4つの独自視点から企業価値をチェック

 次に、2025年3月期2Q決算をベースとしたデジタルハーツHDの企業価値をチェックしていきましょう。

 チェックする項目は、評判(価値)、実利(業績)、共感(志向)、姿勢(ESG)の4つです。

 各分析の結果はこちら。

  1. 評判価値:Excellent

 PER103.14倍、PBR2.16倍という、株式銘柄としては高数値のプライム上場企業。2025年3月期の通期目標ベースで見るとPERは約10倍となりますが、それでも評価すべき値といえます。

※2024年3月期はのれんの減損損失等10億円を特別損失として計上した影響により一時的に当期純利益の水準が低く、PERが高くなっています。

  1. 実利価値:Excellent

 2025年3月期2Q業績は「増収増益」。グローバルサービスや海外子会社の売上を大きく伸ばしたDHグループ事業が売上・利益ともに業績を牽引しました。

  1. 共感価値:Excellent

 DHグループ事業とAGESTグループ事業という2つの事業それぞれで「先端技術と専門知識に基づく対応力」を発揮。AGEST社のスピンオフ上場の準備を開始するなど、明確な成長戦略がうかがえます。

  1. 姿勢価値:Excellent

 管理職における女性比率は12.4%、従業員に占める外国人の割合は9.5%と、女性活躍と人材多様性の観点で高評価となっています。

 それでは各項目について詳しく見ていきましょう。

①各指標とも好調!安定配当を行う企業姿勢も高評価

 デジタルハーツHDの時価総額は2024年12月18日現在、195.6億円です。これは個人および中小型株ファンドがターゲットとする時価総額レベルといえます。

 会社の利益と株価の関係を表すPERは100倍を超える103.14倍、会社の純資産と株価の関係を表すPBRも2.16倍と高評価。

 ただし、この数値は2024年3月期が「のれんの減損損失」による特損計上で、最終利益が一時的に減少したことによる影響を受けたものです。2025年3月期の通期目標ベースで見ると、PERは約10倍となりますが、それでも評価すべき値といえます。

 また、2024年3月期の配当性向も264.5%というイレギュラーな還元率に。特損計上による一時的な数値ではありますが、減配せずに安定配当を行う企業姿勢が高評価となっています。

 ちなみに2025年3月期予想では、配当性向24.6%という高いパーセンテージとなっています。

②「増収増益」達成!DHグループ事業が売上・利益ともに業績を牽引

 2025年3月期中間決算における売上高は199億6百万円で、前年同期と比べると6.6%アップ、営業利益も13.1%アップで「増収増益」となっています。

 グローバルサービスや海外子会社の売上を大きく伸ばしたDHグループ事業が売上・利益ともに業績を牽引。AGESTグループ事業も1Qの赤字から一転し2Qは黒字化、上期では前期比増収増益を達成しました。

 また、海外テスト子会社の減損損失による前年同期の「中間純損失」から4億55百万円へ、中間純利益は黒字に転換。

 2025年3月通期でも「増収増益」を想定しています。

 自己資本比率については、41.5%と前期末比で1.6ポイントアップ。経営効率を示すROEは2024年3月期で2.1%、2025年3月期では20.8%と18.7ポイントアップの予想となっています。

また、グローバル企業の収益力を比較する際に用いる指標の一つ、EBITDAについても2.7%アップとなっています。

③明確な成長戦略 子会社AGESTのスピンオフ上場で企業価値向上を目指す

 企業理念として「SAVE the DIGITAL WORLD」を掲げ、「確かな品質」を提供するグローバル・クオリティ・パートナーとして、2つの事業それぞれで明確な成長戦略を進めています。

 DHグループ事業では、20年を超す国内デバッグで培った実績・経験、顧客基盤、人材をベースに事業領域をサービス軸と地域軸で拡大。グローバルソリューションの拡充やグローバルブランディング確立を推進しています。

 また、急ピッチで成長しているエンタープライズ向けテスト事業を担う子会社AGESTの2025年内のスピンオフ上場に向けた準備を進めています。明確に異なる事業価値創造戦略を有する2つの事業を個別に上場することで、それぞれの事業の持つポテンシャルを最大化することが目指されます。

 さらに、スピンオフ上場準備と同時に、ユニークな独自戦略も加速させています。

 DHグループ事業では株式会社ロゼッタが持つAI技術とデジタルハーツが培ってきた翻訳ノウハウを活かし共同開発したゲーム特化型AI翻訳エンジンを活用した「ella translation service」の本格展開をスタート。高い翻訳品質及び圧倒的スピードで、コンテンツのグローバル展開における革命的なソリューションを提供するとしています。

 AGEST事業においては、AI機能を標準搭載した独自のテスト管理ツール「TFACT」を2025年1月より導入予定。テストの精度及びスピードを大幅に向上し、エンジニア不足の解決や生産性の大幅改善を目指すとしています。

④ダイバーシティ推進に高評価 管理職における女性比率は平均以上※

 ダイバーシティ推進について見ると、管理職における女性比率は12.4%と平均レベルを超える割合となっています。また、従業員に占める外国人の割合は9.5%、国籍・地域数は41とグローバル企業ならではの数値に。(2024.3現在)

 監査役を含む社外役員の割合は9名中5名で55.6%、女性役員は2名で22.2%の状況となっており、良好なガバナンス体制がうかがえます。

 ただし環境面での取り組みについては、情報・通信業という事業特性を考慮しても、さらなる取り組み強化や情報開示が期待されます。

※各数値は国内グループ会社のみを対象として算出しています。

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