羽生結弦という存在の奏でる「聞こえない音」…『NANA』「GLAMOROUS SKY」疾走する情熱の跳舞もまた、私たちの心を掴んで離さない

羽生結弦はナナだった
羽生結弦は、ひたすらに跳んだ。
ファンタジー・オン・アイス2023、羽生結弦『NANA』「GLAMOROUS SKY」、羽生結弦は何度も、何度も、ひたすらに跳んだ。
3回転フリップ、3回転トウループ、ほとばしる情熱のままに、疾走する夢のままに跳んだように思う。つまるところ、ナナだった。
羽生結弦はナナだった。
地方から出てきたばかりの名もなきナナだった。
何の保証もない立場、何の根拠もない自信、そして何ものかすらわからない夢
何の保証もない立場、何の根拠もない自信、そして何ものかすらわからない夢、それでも歌が好きだから、歌で生きるためにナナは上京した。
羽生結弦もそうだ。それはファンがよく知っている。
誰だって、どんな天才であれ、偉人であれ最初は徒手空拳だ。
もちろんナナは地元では人気のバンドボーカルだった。羽生結弦も9歳で全日本のノービス(Bクラス)を制している。しかしその後ナナがメジャーデビューを果たし、日本を代表する歌姫になること、羽生結弦がオリンピックで金メダルを2度、男子シングル唯一のスーパースラム(五輪、世界選手権、グランプリファイナル、四大陸、世界ジュニア、ジュニアグランプリファイナル)の達成者となること、これほどまでの成功を収める、当時の本人たちは知る由もなかったろう。
満足な練習ができない日々
ナナは地元の本屋でアルバイトをしながら上京を夢見ていたし、羽生結弦もまたホームリンクだった「コナミスポーツクラブ泉・スケートリンク」(当時)が閉鎖、勝山スケーティングクラブに練習場所を移すも、時間的な制約から満足な練習ができない日々があった。しばらく経っての東日本大震災でもそうだ。