なぜ地上波で視聴率最下位のテレ東が、BSだとトップなのか…「BtoB番組」という活路

 凋落の一途をたどっているマスコミ業界。しかし、そんな中でもテレビの可能性を信じているのが、作家の門田隆将さんと名物テレビプロデューサーの結城豊弘さんだ。現に個性豊かな番組が次々と生み出されている現状を紹介しつつ、インターネットやBS、CMを駆使したテレビの “あたらしい形” を探る。全4回中の4回目。 

※本稿は門田隆将、結城豊弘著『 “安倍後” を襲う日本という病 マスコミと警察の劣化、極まれり!』の一部を抜粋・再編集したものです。 

第1回:安倍政権を評価する:71%…退任まで「あり得ない」人気を誇った安倍晋三が、なぜ死ななくてはいけなかったのか
第2回:自民党が選挙で圧勝するのに「#安倍晋三を監獄へ」「#検察庁法改正案に抗議します」がなぜトレンド入りするのか
第3回:誰も責任をとらなくなったテレビ局に骨のある報道などできるはずがない

「かまいたちの掟」に見るテレビの可能性 

 結城 日本のマスコミ全体がかなり厳しい状況に立たされています。 

 門田 残念ながら新聞は10年以内にアウトですね。生き残るのは電子化やウェブ化に成功した『日経新聞』と、最大部数でスケールメリットを持つ『読売新聞』くらいでしょうか。テレビも地方局から統廃合されていくでしょうね。 

 結城 でも、テレビに関しては、僕はまだ希望の光があると思っています。例えば報道にしても、ファーストインプレッションとしての役割はまだあると思っているんです。 

 例えば2011年の東日本大震災の津波の映像を、NHKの生中継で見たときの衝撃は、多くの人が10年以上経った今も忘れられないと思います。あるいは日々のニュースに関しても、どういう映像から入り、どういうスーパーを出して見せていくか、どうやったらわかりやすい構成になるのかという手法については、テレビには「一日の長」を超える蓄積があります。 

 もう一つはエンターテインメント。今、YouTubeで人気のある番組を見ても、やっぱり映像の編集や演出においては、まだまだ未熟だなと思う部分がたくさんあります。バラエティ番組、あるいは音楽番組にしても、資金力と機動力、演出力、人材を持っている既存のテレビ局にしかできないことがまだまだある。ここに生きる道があると思うんです。 

 例えば私の故郷に近い、島根県の山陰中央テレビ(フジテレビ系)が今、『かまいたちの掟』という番組で大人気を博しています。かまいたちという人気お笑いコンビの一人、山内健司さんが地元・島根県の出身で、かまいたちと吉本興業の担当者を田部社長自らが、直接口説いて番組を作ったそうです。 

 山陰の地元巡りと面白ネタがメインの地元密着の番組なんだけれど、かまいたちの2人の面白さや、ネタのころがしと目の付け所が編集と演出でうまく引き出されていて、無茶苦茶面白いんです。視聴者の興味もさることながら、全国的な注目度もうなぎのぼり。今ではフジテレビ系列の9局で放送中。民放テレビの見逃し配信TVerでも常に再生回数上位を占めている人気番組です。 

 テレビにとってネットはこれまで強力な「ライバル」でしたが、この番組のように逆にネットのシステムをうまく使って乗っかることで、テレビをより多くの人に見てもらえるようにもなる。 

 地方局だからこそ企画できる番組もある。人気が出れば全国放送も夢じゃない。いや、もう全国放送に固執することもなくてもいいかもしれない。知恵を使えば番組は必ず生き残れる。東京キー局や関西準キー局の放送にも勝てる。僕はここにこそ、これからのテレビ局が生き残る道があると思う。 

BSでテレ東が首位を走る理由 

 結城 「テレビ局がインターネット用の番組(動画)を作る」試みも浸透しつつあります。例えばテレビ東京のニュースキャスター・豊島晋作さんの時事ネタ解説動画番組『豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス』は、どの回も100万回以上の再生回数に達しています。 

 門田 国際情勢に関する話題を、非常にわかりやすく解説されていますよね。ウクライナ有事についての解説も、わかりやすく、情報も正確です。 

 結城 テレビ東京と日本経済新聞社は、インターネット配信だけでなく、BSのテレビ放送にもかなり力を入れていて、一つ一つの番組がかなり個性的です。地上波で放送するのにはちょっとマニアックで厳しいネタやテーマも、ものすごく取材し掘り下げて番組に取り上げている。「こんな視聴者に見てもらいたい」というふうにターゲットも明確。だからこそ、それぞれの番組が「立って」いる。結果として視聴率も上がっています。 

 日本テレビやフジテレビ、TBS、テレビ朝日は全国ネットのキー局なので地上波の系列局が24、25局くらいある。しかし、テレビ東京は全国で6局しかネットワーク局がありません。これだとスポンサーを取ろうにも「全国では、ほとんど放送が流れないってことですよね」ということになってしまう。 

 そこをテレビ東京はBSでカバーして、全国で見られるようにしている。しかも地上波もBSもあまり区別しない混成部隊となっていて、報道も営業も垣根が少なく、一緒にやっている印象が強いんです。僕も仕事をしてみて初めてわかったのですが、BSテレビ界の平均視聴率のトップはBSテレビ東京なんですよ。 

 門田 え、そうなんですか! 

 結城 順位で言えば、BSテレ東、BS日テレ、BSテレ朝、BS-TBSと来て、その後がBSフジテレビとなっている。BSテレ東には経済番組が多いのですが、同じ経済を扱ってはいても、証券分野に特化したり、スタートアップ企業にスポットを当てたり、あるいはエネルギー問題を扱ったり、今日のホットニュースにクローズアップしたりと、切り口を様々に変えてバリエーションを出しています。 

 私は現在、経済産業省出身の政策アナリスト・石川和男さんと一緒に、BSテレ東で毎週土曜朝7時から放送の『石川和男の危機のカナリア』というエネルギー・経済番組の総合演出プロデューサーを務めていますが、他局ではやらないような〝難しいネタだ〞というベールが被せられているエネルギー政策の問題点や経済安全保障を独自の切り口で放送し続けています。 

 各局とも、まだ「地上波が優先」だから、エース級は地上波に投入されていて、僕らのようなロートル(笑)がBSに来ていたりもするんだけれど。でもそれがかえって、個性のある番組を作れたりするんですよ。経験もありますし。やっぱり個性は大事です。 

ビジネスモデルの転換点に来ている 

 門田 昔は「ドラマはTBS」「バラエティはフジ」「野球とプロレスは日テレ」というような局ごとの個性もありましたね。 

 結城 今はそういう「色」が薄くなって、どの局も横並びになってしまう。どの局も「朝8時からはワイドショー」で、「ワイドショーの中でどう差別化を図るか」に苦心している。それなら、いっそワイドショーはやめるという選択があってもいいはずです。 

 CMの出し方もそうですよ。昔のテレビ番組って、例えば日立の提供なら日立のCMが2、3分流れる。そういうCMのアイデアありきで、スポンサーを獲得して番組を作ることだってできるはずです。 

 門田 スポンサーは良質な番組には出資したいんですよね。出す先がないからネットに流れているだけで。 

 結城 そう、いいものには出したい。スポンサーや番組提供のあり方もずいぶん変わってきました。「スポット」と呼ばれるCMは、15秒のCMを「ひと月にいくらで何本流すか」という契約です。「新商品が出るのでそれを広告したい。その結果、消費者にこの新製品をどんどん買ってもらいたい」という、いわゆるB to Cのパターンで、テレビ局はこの「スポット」で稼いできました。 

 しかしこの手の、今までテレビでしか流れなかったCMが、どんどん新しいCMの流しどころであるところのインターネットや各種サイネージに流れるようになってしまいました。「15秒のスポットCMをひと月で30本流すのに6000万円」(例)というのが、テレビの相場なら、「だったらタクシー車内のサイネージに流した方が格安だよね」「インターネットで流した方が、コストも抑えられるし、それなりの効果もあるんじゃないか」ということになってきたんです。 

 すると今度は、テレビ向けのCMはB to Bを重視するものが登場し始めました。例えば僕が関わっていた番組では、社名をあまり知られていない会社がCMを出していました。しかし、その会社は技術系の会社ですから、一般の消費者に商品を売るために広告を出すのではありません。ではどういう広告かというと、「会社そのものをPRするためのCM」なんです。 

 一緒に仕事をしている取引先に「番組を見ていたら、おたくの会社のCMが流れていたよね」と思ってもらいたい。あるいは家族に「お父さんの会社のCMだ!」と思ってもらいたい。そのためにテレビCMを出しているんですね。 

 これは新しい番組とスポンサーの関係だと思います。ただまだ、従来のモデル通りに、電通や博報堂といった広告代理店に営業を任せているところが多いですよ。でもこれからは、こういうビジネスモデルに変換していかなければならないと思います。

門田隆将、結城豊弘著『“安倍後”を襲う日本という病 マスコミと警察の劣化、極まれり!』

【門田隆将】

作家、ジャーナリスト。中央大学法学部卒業後、新潮社入社。『週刊新潮』編集部記者、デスク、次長、副部長を経て2008年独立。『なぜ君は絶望と闘えたのか─本村洋の3300日』(新潮文庫)、『疫病2020』(産経新聞出版)など著書多数。

【結城豊弘】

フリープロデューサー。駒澤大学法学部卒。読売テレビにアナウンサーとして入社。1995年、アナウンサーから東京制作部に異動し『ザ・ワイド』の担当となる。その後、『ウェークアップ! ぷらす』、『情報ライブ ミヤネ屋』、『そこまで言って委員会NP』を歴任。2022年4月に独立。

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