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ゲーム音楽という「この国の音」を氷上芸術に昇華した羽生結弦…新しいフィギュアスケートの姿、アイスストーリー

(c) AdobeStock

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

『GIFT』から『RE_PRAY』はより思想性を帯びた

『GIFT』が「衝撃」なら『RE_PRAY』は「驚異」でした。

 驚異の「異」は驚きだけでなく不可知の存在を示します。普遍的な社会性を伴った『GIFT』から『RE_PRAY』はより思想性を帯びたように思います。

〈羽生結弦という人は基本、弁証法の人のように思うが、この『RE_PRAY』に関しては極めて形而上学的な構築になっていると思う。ストレートに存在を問いかける。シンプルに命を問いかける〉

〈羽生結弦が独り、テレビゲームで遊ぶその姿も、問いかけもまた、こうした現し世と偽りの世、その狭間にある幽世の延長線上にある〉

〈羽生結弦は成功者だ。それは間違いない。しかし選択をひとつでも違えた羽生結弦なら、果たしてどうか、繰り返しても羽生結弦でありたいはずの羽生結弦は本当にそうした羽生結弦でいられたのか、現在の羽生結弦は、どうか〉

〈それはゲームの「PRESS START」で始められる程度のものなのか、「RE_PLAY」で足りるものなのか〉

『RE_PRAY』は「驚異」

 思えば、今となってはこの問いかけは「わたし」を問う哲学としての『Echoes of Life』につながるわけですが、この段階の私にとってはまさに「驚異」でした。これがアイスショウであること、それがどこであろうと人を集め、成功しかない興行であること――。

 私は1990年代からゲームやアニメ、コミックといった世界で飯を食ってきた人間です。そうしたジャンルがこの国の誇りうる文化であることも、この国における「弱さ」も知っているつもりです。だからこそ『RE_PRAY』は嬉しい「驚異」でした。ゲーム好きの少年が世界の羽生結弦として金メダリストとなり、そして再びモニターに向かう姿――これがアイスショウとは。

〈なんだろう、かつての羽生結弦少年ということか、それとも、現在の羽生結弦なのか、もしくは、羽生結弦の中の、もうひとりの羽生結弦なのか〉

〈敵を倒す、倒す、倒す。それが正しいのか、間違っているのか、他に道はないのか、しょせんはゲーム、しかしゲームをプレイしているのは羽生結弦、それを選んでいるのは羽生結弦、いや、ゲームの羽生結弦に選ばされているのか、それはゲームの羽生結弦なのか、現実の羽生結弦という「僕」なのか〉

〈コマンドを選択してゆく。独り、テレビゲームに没頭する、羽生結弦という「人」の姿〉

「精神の反乱きわ立つ衝動の権化」として挙げたプログラム

 私は「羽生結弦とサブカルチャーの解読」と書きました。新しいフィギュアスケートの姿、アイスストーリーという氷上芸術、羽生結弦は本当にとんでもない存在だ。まさに嬉しい「驚異」だったのです。

 その「精神の反乱きわ立つ衝動の権化」として挙げた作品が『鶏と蛇と豚』でした。

 漆黒の衣装をまとう羽生結弦、闇を受け入れた魔縁、欲望のままに来たこと、区々たるものを踏みつけてきたこと、三毒は悪徳となり、それは悪徳だからこそ美しい。

 もちろんアイスストーリーというフィクションですが、羽生結弦の作家性が彼自身ともシンクロして、まさに三毒を喰らう氷上の魔縁となりました。

『Echoes of Life』の主人公Novaで真価を発揮

〈指先を見ただろうか、禍々しくも美しく、細長い指先が、五指が割れる。そう、割れるのだ。まるで魔王の爪のごとく。鶏と蛇の魔王、バジリスクと見紛うがごとく〉

〈体幹をフルに使って鶏と蛇の魔王、バジリスクはぬめる。重厚な、アリーナすべての観客の三毒、いやこの世のすべての三毒を喰らう、魔縁の滑り〉

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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