なぜ東大卒の起業家はモテないのか、なぜ東大にいく男はそもそもモテないのか

鼎談が行われた神奈川県・葉山にて

 「女性にモテたい」と思い悩んだことがない男性は、ほぼいないであろう。しかし、マスメディアや書籍、SNSなどを通じて発信される「モテ」言説の数々には、「これを実践したところで、本当にモテるのか?」と疑問を抱かざるを得ない理論・ノウハウがほとんどだ。

 ところで、そのような多くの「モテ本」のなかでも、ひときわ異彩を放っているのが、AV監督・二村ヒトシ氏によって著された『すべてはモテるためである』(イースト・プレス 文庫ぎんが堂)だ。

 冒頭で読者がモテない理由を「それは、あなたがキモチワルいからでしょう」と突き放しているにもかかわらず、1998年の初版依頼、世代をまたいで売れ続けている大ベストセラー。さらに面白いことに、フェミニズムの大家・上野千鶴子氏に「全男性必読の書」、哲学者で東大教授の國分功一郎氏には「この本は、単なるモテ本ではない。実践的かつ真面目な倫理学の本である」と、それぞれ言わしめた。単なる「モテ本」とは一線を画していることが、これだけでもおわかりいただけるだろう。

 今回は、そんな「モテ」に詳しい二村ヒトシ氏と、『みんかぶマガジン』常連執筆者の一人であり、精神分析・フランス哲学に詳しい哲学者の福田肇氏、モデルでアーティスト、現在は東大院博士課程に在籍中の齋藤帆奈氏の3人に、男性の「モテ」について大いに語っていただいた。全3回連載の1回目。

第2回:フランスでは全くモテない普通のギタリストが、日本ではモテモテになるのはなぜなのか
第3回:「オールナイトフジ」による”性革命”…日本人が芸能人の不倫を異様に叩くのは「発情している」からだ

二村 ヒトシ(にむら ひとし)

アダルトビデオ監督・文筆家。1964年、六本木生まれ。慶應義塾大学中退。ソフトオンデマンド顧問。ゼロ年代に痴女ブームを牽引する映像演出を多数創案した。著書『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(共にイースト・プレス)、共著に『欲望会議』(角川ソフィア文庫)、『モテと非モテの境界線』(講談社)ほか。
12月8日に、燃え殻との共著『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)を発売。

福田 肇(ふくだ はじめ)

同志社大学大学院博士課程哲学及び倫理学研究科博士課程後期中退。フランス国立レンヌ第1大学博士課程、パリ社会科学高等研究院に学び、レンヌ第1大学にてDEA(専門研究課程修了資格)を取得。レンヌ第1大学経営学部にて専任講師、INSA de Rennes(レンヌ応用科学院)にて非常勤講師。現在、新島学院短期大学にて講師を務め、「思想」「日本語表現学」を講じる。専門はフランス近現代哲学。とくに20世紀中盤のフランス「裏」実存主義。

齋藤 帆奈(さいとう はんな)

現代美術家。多摩美術大学工芸学科ガラスコースを卒業後、バイオアート領域での活動を開始。現在は東京大学大学院学際情報学府博士課程に在籍。近年では複数種の野生の真性粘菌を採集、培養し、研究と制作に用いている。文筆活動(現代思想等)や、粘菌に関する番組(トーキョーワンダー ~粘菌と彼女の不思議な物語~、NHK BS) の主演、大学時代から継続するモデル業など、多岐に渡る活動を行っている。主なテーマは、自然/社会、人間/非人間の区分を再考すること、表現者と表現対象の不可分性。

年収や肩書きで威張るな。気持ち悪いから

──率直な感想ですが、モテる人には高年収の人や、社会的に認められている優良企業で働いている人が多いのではないか、と思いますが、いかがでしょう。

二村 いや、逆に収入が高い「だけ」、有名企業で働いている「だけ」でモテて、しかもそれで本人が幸せになれてる男性なんて今の時代、存在するんでしょうか。低収入の男性に比べれば結婚はしやすかったり、女性のいるお店に遊びに行けたりということはあるかもしれませんが、そのことが人生における「モテ」の目的、つまり「自分が『こんな人から愛されたい』と思える相手から無条件で肯定されて、愛される」という状態に、直結はしないですよ。お金持ちなのにハッピーではない交際や結婚をしている人、愛されなくて別れることになる人は、山ほどいますから。

 会社名や年収・資産・学歴くらいしかモテるための武器を持っていない男性ほど、それを自慢しがちです。相手の話を聞かないで自分の話ばかりしている男性、つねに相手を馬鹿にしたような上から目線のコミュニケーションしかできない男性も多い(もちろん、そういう人は女性の中にもいますが)。しかもそれを無意識でやっている。コンプレックスが強く、心の底では自信がないからでしょう。しかしそういうふるまいは、勃起させたペニスを用もないのに露出させて外を歩いているのと同じです。

 お金や地位、自意識を満足させるための自慢話、そして恋愛の場面での積極性などは、冗談ではなくペニス(精神分析でいうファルス、男性性の象徴でもある)と同じで、あなたがそれを出すことを求めてくれる人に向かって出すべきものであって、そうでないときは出してはいけないのです。それが『すべてはモテるためである』に書いた「相手と同じ土俵に乗る」ということであり、その判断がつく人が「モテる人」なんです。

福田 精神病院の看護師さんに聞くと、精神病末期患者が、人格の崩壊寸前であっても、ペニスを出して自分を誇示することが多々あると聞きました。「勃起したペニスを出す」≒「威張る」という行為は、どこまでいっても払拭できない男性の根源的な欲望なのですね。

齋藤 上野公園で花見をしていたときに、ちょっと冴(さ)えない感じのサラリーマンが「俺、MENSA(※)の会員なんだ」と言ってナンパしてきたことがありました。「そういうナンパの仕方もあるのか」と思いましたが(笑)。それも同じですね。女性は比較的、男性から自慢されることに慣れてしまっているかと思います。私の場合は、子供の頃、自慢すると女の子同士のコミュニケーションで非難されてしまうことがよくあったように思います。「女性は控えめでなければいけない」という価値観をすでに内面化してしまっているのかも。その過程で女性は精神的に去勢されて自慢することが少なくなっていくのかもしれませんね。

(※)MENSA…全人口の内上位2%のIQ(知能指数)の持ち主であれば、誰でも入れる国際グループ

二村 世の男性に罪悪感を植え付けることはしたくないんですが(それはそれで男女の仲を裂く系の高圧的なフェミニズムだと思うので)、しかし事実として、多くの女性からしてみるとナチュラルに威圧的な態度をとっている人、訊(き)かれてもいないことを先に伝えてくるような人は、本当に気持ちが悪いものなんですよ。

 「俺は凄いんだアピール」をしている男を好きになってくれる女性なんて、お金目当ての女性か、かなり愚かな女性だけでしょう。肩書きを誇示したところで「商社マンと付き合いたい」「コンサルと付き合いたい」という、肩書きに恋する女性としか付き合えないでしょう。それでいいんだったら、どうぞ、という話なんですが。

 威張ることでしか生きていけない男性は、そもそも心に強烈な不安と寂しさを抱えています。あるいは年配の人で、威張ることを今まで周囲から許されて生きてこれてしまって「威張っている自分だから認められ、愛されるんだ」と素朴に信じているか。

では、自分の気持ち悪さを克服するにはどうすればいいのか

──しかし、気持ち悪くてもモテている人もいるのではないでしょうか? それこそお金目的で結婚するとか。

二村 「結婚さえできたら、それでいい。そのために、頑張って稼いで、一流の男になる」と考える男性もいるでしょう。頑張るための動機そのものは否定したくありません。とりあえず収入が上がったことで、大恋愛ではなくても結婚はできて、その結果として世の中への怨みが晴れて人柄も良くなって、気持ち悪い男ではなくなったというケースもありえますからね。

 男性が気持ち悪さを克服する、というより気持ち悪いままで他人から愛される方法はあります。自分の気持ち悪さを自覚的に認めて、できれば量産型の気持ち悪さから脱し、自分に固有の気持ち悪さを自分自身で受容して、しかし開き直らない(他人には迷惑をかけず、イキらず、あくまでも謙虚にふるまう)という生きかたです。

──それでは、本当の意味で、モテるためにはどうすればいいのでしょうか。

二村 あなた自身は、モテた結果「どうなりたい」のでしょうか? とにかくたくさんセックスがしたいのか、相思相愛の彼女を作りたいのか、激しい恋ではなくていいから常識的な結婚がしたいのか。自分自身に問いかけてみてほしいのです。モテて、いったい何を得たいのか。大切なのは自分の欲望、つまり「自分の心の穴」から目を背けないことです。

 もう一つ言いたいのは、モテる人ということは「相手の心の穴」を刺激している人だということです。

 心の穴というのは、子供の頃から抱えてしまった根元的な喪失感のことです。それを埋めようともがくことが、その人の信念や感情の動き、考えや行動のくせとして表れます。人は自分の心の穴を満たしてくれる相手を求めるんです。

福田 精神分析の創始者・フロイトが著した『快感原則の彼岸』に面白いエピソードがあります。ヨーロッパでは赤ちゃんが生まれるといきなり一部屋与えるのですが、赤ちゃんはお母さんと離れて部屋にいるのが不安なので、失われたお母さんを象徴する糸巻き車を使って遊ぶ話が出てきます。お母さんを糸巻き車で代替して、お母さんがいない空虚感(≒心の穴)を満たそうとするのですね。その糸巻き車が、大人になれば、仕事だったり、女性だったりする。糸巻き車に当たるものは人によってさまざまです。最初に根源的な喪失の原型があり、それ以降のあらゆる喪失は、最初の喪失というひな型の反復みたいなものといえるかもしれません。

齋藤 私は東京にいながらこれまで付き合ってきた彼氏の過半数が関西出身なので、無意識に関西人に惹かれている可能性があるのですが、それも心の穴に関係しているのでしょうか。

福田 そうかもしれませんね。原初の喪失は一つかもしれないけれど、そこに根をもつ欲望は多種多様ですね。最近のAVは、100字を優に超えるような、やたらと長く具体的なタイトルが増えてきているじゃないですか。「団地妻が昼間からなんとかかんとか」と、延々説明している、みたいな(笑)。妄想のディティールに対応するタイトルになっている。そういうのからもわかりますよね。

二村 今はAVが売れない時代だから、それぞれのユーザーの欲求にはめ込んでいくためにタイトルが説明的になってきています。

 何に惹(ひ)かれるのか、どんな人に惹かれるのか、生きていく上で何が必要なのかという「心の穴」は人によって違うものです。だから、多くの人の心の穴を刺激するような性的魅力や才能を持ちあわせていない「普通の人」がモテるためには、自分自身の心の穴を知り、人の話をよく聞くことで相手の欲望を理解し、「自分の穴を埋めろ」と言うだけの威圧的な態度をしているとしたらそれを改め、おたがいの穴にやさしく触れあいながら生きていくことが近道です。

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