空前絶後の円安相場で、普通の投資家が「勝ち組」になる唯一の方法

給料は上がらないのに物価が上がる――。6月29日には、約24年ぶりに1ドル137円を更新。円安はどこまで進み、これから生活にどんな影響が出るのだろうか。何より今、自分の資産をどこに置くべきなのか。

個人が投資に向き合う時代、日経新聞ベテラン記者の高井宏章さんは「経済や投資を見極める視点」を培うことが重要という。初めて投資や経済を学ぶときに知っておきたいポイント、特に今押さえておくべき「為替」と「インフレ」を分かりやすく解説する。

※本記事は、高井宏章著『日経記者YouTuberと学ぶ 投資の教室』(日経BP)より抜粋・再編集したものです。

なぜ円安は起きるのか。為替が動く基本のキ

「お金や経済の話は難しくて面倒くさい」

「投資なんてギャンブルでしょ?」

そんな考え方が日本では根強いように思います。

でも、それは誤解です。

簡単だ、とはとても言えませんが、経済やマーケットは面白く、興味をもって向かい合えば、最低限の知識を身につけるのはさほど大変ではないはずです。

まずは「円高・円安って、分かりにくい」問題を片付けておきましょう。

円相場が1ドル=100円から1ドル=90円になれば、円高・ドル安です。数字の変化と高い・安いが反対だと感じるのは、「1ドル=何円」は本来、円相場ではなく、「ドル相場」を示しているからです。円がいくらか、「100円=何ドル」という形に直せば、最初の例は100円=1ドルから100円=1.11ドルへ、円が値上がりしているのが明白です。

ドル安は裏返せば円高で、円安はドル高です。通常の「1ドル=何円」という表示を見たら、「ドル高か、ドル安か」と考えれば、混乱することはなくなります。

超円安時代。「為替リスク」には“とにかく分散”で対抗

さて、為替市場と株式や債券との本質的な違いは、為替取引はお金とお金の交換であって、「価値を生む資産」への投資ではないことです。お金の交換でしかないので、為替取引は短期では「ゼロサムゲーム」です。誰かがもうかれば、反対側で誰かが損をする。

外国為替証拠金取引(FX)では「高金利通貨買い・低金利通貨売り」を行うと、 2通貨の金利差相当の「スワップポイント」を受け取れますが、その源泉は「高金利通貨売り・低金利通貨買い」をしている人の支払うマイナスのスワップポイントです。FXは「参加者同士がお金を取り合う」もので、誰もが勝者になれるゲームではありません。

長期志向の投資家にとって重要なのは、海外株や債券に投資した際の為替変動の影響です。たとえば、ある新興国の株式に投資して5割値上がりしたとしても、その国の通貨が半値になれば、全体では25%もの損失が出ます。ここまで極端でなくても、海外投資に為替変動リスクはつきもので、そのリスクをヘッジ(回避)するには相応のコストがかかります。

為替がどう動くかは、短期でも長期でも予測は不可能ですし、為替変動のメカニズム自体、本がもう1冊必要なほど複雑なテーマです。

複雑さの一因は為替レートが「相対価格」であることにあります。ある通貨の絶対的価値ではなく、交換する2つの通貨のバランス、いわば「綱引き」でレートが揺れ動く。

代表例は景気です。日米両国とも好景気でも、投資マネーが向かって上昇しやすいのは「より景気が強い方の国の通貨」です。景気の強さの綱引きが行方を決める。しかもマネーの流れが生む為替変動が実体経済に跳ね返り、日米の景気や物価などに影響を与えて、それによってまたマーケットの綱引きのバランスが変わります。

為替変動リスクについては、「とにかく分散するしかない」と私は考えています。「なるようにしかならない」ものなので、円も含めて、特定の通貨に偏らないようにするぐらいしか、できることはない。

少しだけ具体論に踏み込むなら、「高金利通貨にはご用心」と付け加えておきたい。マーケットにフリーランチ(ただ飯)はありません。単に金利が高い通貨に投資するだけでリターンが得られるなら苦労はない。

高金利通貨にどんなリスクが潜んでいるのか、興味のある方は、ぜひ関連動画の「高金利通貨に落とし穴」をご覧ください。

普通の会社員が分散投資の「勝ち組」になる唯一の方法

分散投資はリスクを抑える基本中の基本です。1つの株式に集中投資すれば、運用成績はその1社の株価次第になる。もしその企業が破綻すれば、資産はゼロになってしまう。複数の株式に分散すれば、そうしたリスクは軽減できる。理屈はシンプルです。では、実際、どれほど効果があるのでしょうか。簡単なシミュレーションで検証してみましょう。

下記のグラフは2008年から2020年まで、10の資産に分散したケースを検証した試算です。

最初に均等投資した後は資産配分の調整、いわゆるリバランスはしない「放置型運用」で、それぞれ代表的な指数の現地通貨建て騰落率を使った簡易的な試算です。

棒グラフは各年の最良と最悪の資産の成績です。一極集中の短期勝負は、勝てば大きいけれど、負ければ痛手を被るのが分かります。

折れ線は「均等投資」の成績です。この間の通算成績はプラス70%でした。 13年間で値下がりしたのは国際商品だけで、先進国株、ハイイールド債が2倍超となり、金も大きく値上がりしました。日本株や国内外のREITは均等投資並みの成績でした。

分散によるリスク低減効果は金融危機に見舞われた2008年が鮮明です。株式やREITが4~6割急落するなか、債券や金などを下支えに全体は3割弱のマイナスにとどまった。2009年に2割強のプラスとなった後は、プラスもマイナスも大きな振れはありません。

こうした分散による安定効果以外に、データからはもう1つの分散投資のメリットが見えてきます。「勝ち組」を逃さないことです。

その年にもっとも成績の良かった資産は、2008年の海外債券から新興国株、国内REIT、金、海外REIT、日本株とめまぐるしく移り変わりました。ハイイールド債が稼ぎ頭の年もあります。毎年最良の資産に全額投資できていたら、資産は25倍に増えていた計算ですが、そんな芸当は不可能です。

裏目に出て、毎年最悪の資産を渡り歩いた場合、運用資産は10分の1に減った計算です。

「勝ち組」の資産を予測するのはほぼ不可能です。分散投資で「できるだけ広く網をかけておく」くらいしか常人にできることはないでしょう。

私が初心者にオススメしたいのは「まずはいろいろなものに均等投資」です。ちなみに日本の公的年金の積立金運用の構成も潔いほどスッキリした「4資産均等」です。

早めに小さく均等投資を始めて、マーケットを見る習慣をつければ、自分なりにしっくりくる割合が見えてくるでしょう。

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この記事の著者
高井宏章

1995年日本経済新聞社入社。マーケット、資産運用などを長く担当。2016年からロンドンに2年駐在。2020年から編集委員。日経電子版「マネーのまなび(まねび)」を中心に各種コンテンツを発信。YouTube・日経電子版の動画解説「教えて高井さん」を担当。1972年生まれ、名古屋出身。三姉妹の父親で、趣味はビリヤードとLEGO。

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