勤務中のFXが会社にバレた…全部なかったことにする方法(蒲田の法律事務所)

FXしていないと、いてもたってもいられなくて……

【相談者】

40代会社員・男性

私はFXにはまっており、勤務中も定期的にスマホを確認しないと気が気でありません。いつもはトイレに行く度にスマホを出し、場合によってはトレードまで行っていますが、先日ついつい会社の廊下で見てしまい、それが上司にばれてしまいました。先ほど上司に「話があるから会議室を予約しておきなさい」と言われました……。これ、何とかなりませんか。

【回答】

こんにちは、弁護士の野澤隆と申します。この問題は、成績さえ良ければ文句をあまり言われない営業職か時間管理に厳しい事務職か、裁量労働の面を重視する職場か否かなどといった違いで対応に大きな差があると思われますが、ここでは一般的なオフィスワーカーをある程度想定して話を進めます。

FXにはまると、仕事どころじゃなくなりますよね。投入している額が大きい人ほど、そして高レバレッジをかけている人ほど、まめにチャートを見ていないと生きた心地がしないと聞いたことがあります。

特にウクライナ―ロシア問題発生(2022年)直後は、「国際的危機の際の円買い」に賭けた人もそれなりにいたことでしょう。蓋をあけてみればルーブルは意外にしぶとく、円は記録的な安さとなり、その結果、情報戦に負けた方も多かったのではないかと思われます。

取引はトイレで1日4回、1回あたり15分までにおさえなさい

さて、本題です。まず、問題発覚後の対処法を語る前にFXを勤務時間中に、「(法律上の問題等はさておき、)何らかの理由でどうしてもやらなくてはいけない」という方へ、最低限の事前対応策をお伝えします。

第一に、会社支給のスマホや、会社のwi-fiを使っての取引は絶対に避けてください。でないと、あなたの行動が会社に「何か怪しい」と疑われた際、会社がこれらの使用履歴等をチェックすることは容易に予想され、かつ、使用による機器の減耗分や電気料金の発生などはそれほどの額でないとしても会社に対する直接的かつ分かりやすい損害を与えているのは明白で、責任追及される際に確実に使われる証拠をわざわざ残しているようなものだからです。基本の「キ」として、私用スマホを自分が料金負担している回線で使うことを徹底してください。

次に、取引はトイレで1日4回程度、1回当たり10から15分ぐらいが限界値だと思ってください。判例でも、「一定の私的メール利用について、会社はある程度許容すべき」といったものがあり、このあたりの数字がこういった判例などを何とか援用できるギリギリのところでしょう。会社の方針次第ですが、タバコを吸う社員がタバコ休憩で1日数回離席しても問題視されていないケースは今でも多く、生理現象が原因だと推認されやすいトイレ利用で多少時間がかかっても「行動が多少怪しいが、まあ、その程度は仕方ないだろう」と黙認される可能性が相当程度あります。それ以上の取引を望む場合には、事前に「体質の問題でトイレが近い」などと上司や同僚に伝えておくのも、虚偽申告による他の法律問題が発生することを別とすれば「一手段」です。が、かえって怪しまれる可能性が高いため、あまりおすすめできません。会社員である以上、時には我慢の「ガ」が必要です。

会社の懇親会は可能な限り出席しなさい

最後に、日頃から上司・同僚らと仲良くしておくなど、社内政治力を高めておいてください。日本企業の雇用形態は業務範囲・責任範囲いずれも不明確で、上司も部下に対する監督責任を問われるのは嫌がるでしょうから、「(重大犯罪ではないので今回は)不問に付す」に近い方向性で上司らが事態を鎮静化させる可能性は大いにあります。「飲みにケーション」などが嫌いな方は苦しいところなのですが、世間相場・社内相場にあたる最低年数回の懇親会・飲み会などという名の、残業代がおそらく出ない「時間外特別研修」ぐらいは出席しておいた方が無難で、令和になってもこれらの「単位取得」はサラリーマンとして生き残る上での必修科目中の「ヒ」なのです。

それでは、ここで問題となっている発覚後の対処法についてお話しします。

元も子もないことですが、多くの会社の場合、就業規則等に基づく社員の職務専念義務によって、就業(勤務)時間中にFXはできない建前であり、FXの経験が何らかの形で職務に活かせる特別な金融業務等に携わっているような方でない限り、「今後の副業解禁時代に備えた自己研鑽のため」などといった主張が通る可能性はほぼないでしょう。とはいえ、私用スマホ+私用回線での取引でしたら、会社側は社員の私用スマホ・取引履歴の任意提出による情報提供等がない限り事態の把握は困難でしょうから、初回は、「勤務時間中にやったのは数回だけで、今後、このようなことはしません」程度の反省文を提出し、簡単な注意(訓示)を受ける形でお茶を濁せる可能性はかなりあります。

問題は、2回目・3回目です。実務上は、この段階から、対象者は「問題社員」扱いされ、会社の役員らが社会保険労務士・弁護士といった専門家と本格的な打ち合わせを開始し、2回目は「警告」、3回目はスリーストライクで「解雇」ないしそれに近い処分といった流れになります。この段階になると、会社は他の問題もこじつける形でなんとか自己都合退職させようとします。その際、労働基準監督署(労基署)介入や裁判沙汰にならないための各種対応策実施といった情報戦が展開されます。とはいうものの、日本の労働法制は、周知のとおり解雇等が厳しく制限されており、問題社員の勤務時間中における業務目的外のスマホ利用程度では、せいぜい給料10%カットを数か月実施する程度の処分(制裁)が法的な限界です。その程度の制裁では(解雇処分等に対し究極段階では拒否権を有する)問題社員に対し実行性がほとんどないのが実情ですから、あなたが出世をあきらめ開き直る路線を選択するのも一理あります。

スマホは断捨離。懲罰委員会の黙秘もOK

大企業社員・公務員の場合には、組織がしっかり整備されていますので、調査委員会・懲罰委員会などが設置され、FXの取引会社に対する問い合わせ等に加え、場合によっては、私用スマホのチェックも行われます。このうち、取引会社に対する問い合わせ等については、あなたが取引会社のお客様の立場にある者として、「顧客のプライバシー保護」等を名目にできる限り抵抗するといったところです。より注意すべきは、スマホの方です。スマホについては、FXを頻繁にネット取引されている方の場合、個人情報や機密情報を整理せずスマホにどんどん詰め込んでしまうことが比較的多く、何らかの形でチェックされたり軽率な情報漏洩などが発生すると芋づる式に関連悪事までばれてしまうことが多々あるので、定期的 な「断捨離」がどうしても必須です。

今の法律や現状等は、次のとおりです。

(1)犯罪を自認した被告人ですら、不利になることは言わなくてもよい黙秘権がある以上、会社の任意調査レベルで沈黙をとがめられる理由はない。聞き取り調査等については、予め最大時間を設け、1時間毎に10分程度の休憩を入れるよう要求し、適宜、録音等をうまく活用すべきである。

(2)他人を巻き込む偽証、証拠隠滅などは犯罪であるが、(民事上の賠償や情状酌量上の問題はともかく、)自分にとって都合の悪い事実を他人にめいわくをかけず自分で隠蔽するのは人間の性レベルの問題である。日本版の司法取引、不正の自主申告を前提にした課徴金減免制度(リニエンシー制度)といった法令は、建前だけでは維持できない現代社会をふまえ制定されたもので、こういった時代の流れ・仕組みは(あなたが所属する会社も含め)いろいろな組織に伝播していく。

(3)弁護士費用・調査会社費用等に加え、ネット情報取得の実務上の煩雑さ・労働法制上の過大な手続き負担などが存在する以上、厳密な調査を実施する会社はほとんどない。実務上、未払い残業代などを盾とする形で労働者側が抵抗を開始すると、会社側が適当な落としどころを模索してくることは結構ある。

以上、いろいろ述べましたが、正直、警察がいきなり動くような案件ではない以上、あなたが会社の仕事で実績を積み上げ、あなたが会社にとって必要不可欠な人材であるか否かが決定的なポイントになるだろうことは疑いありません。発覚後も勤務中の頻繁なFXをどうしてもやめられない場合、ギャンブル依存症に近い状態になっている可能性が高いので、(「メンタルクリニックに行け」とまでは言わないにしても)投資方法の見直しや転職なども視野に入れ各種検討する必要があるでしょう。

一読、お疲れさまでした。

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