42歳劇団員のヤフコメ民「私が炎上させる理由」…秋篠宮・小室家を匿名でタコ殴りする暴力ビジネス

小倉健一
公開)

 相次ぐ誹謗中傷など、ネット空間の発達による問題点が顕在化している。かつては自分のうちだけにとどめておいた過激な意見も、ネットで披露することで賛同者が現れ、増幅していく。ネットニュースへの個人の意見の集合体が、時に世論をも主導することがあるという――。「デジタル」と「メディア」の関係を紐解く全5回のうちの4回目。

※本稿は、小倉健一『週刊誌がなくなる日 「紙」が消える時代のダマされない情報術』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです

第1回『自業自得…秋篠宮・小室圭問題の「いい加減報道」で言論規制が一気に加速したネットメディアの末路

第2回『なぜ反ワクチン陰謀者はプーチンを擁護するのか…政府高官が噴飯した「東京ロックダウン」のフェイクニュース

第3回『週刊誌はあと5年で消滅する…限界に到達した無料メディア、新聞電子版にマスコミから悲鳴が聞こえる

第5回『回りまわって「新聞回帰」に困惑するメディア業界…バカ丸出しの新聞記者が知らないベタ記事の価値

眞子さん・小室さんに向けられた刃

 「ヤフコメ欄」といえば、無料ニュースサイト「ヤフーニュース」で配信される記事の下にある実名、匿名を問われないコメント欄のことである。このコメント欄には、事実のみのニュースではわからない問題の背景や、どうしても突っ込んでしまいたくなるようなニュースへの反応も書き込まれる。メディア関係者を含め、このニュースが国民にとってどのように受け止められているのかを測る一つの尺度になっていることで知られる。

 ただ、そういった世の中を知るツールという意味合いとは別に、特定の人間を標的にした過激なバッシングが書き込まれる現場ともなっており、問題にもなっている。

 ネットの匿名掲示板で「悪人」判定をされると、一挙手一投足をすべて悪意で取り上げられ、叩かれ続ける。そこへいくら反論しても炎上、何かいいことをしても「偽善」「わざとらしい」と認定され、さらなる炎上を生む負のスパイラルへと陥ってしまう。

 そこで、「ヤフコメ欄」にもメスが入ることになった。秋篠宮家の長女・眞子さんとかねて婚約を発表していた小室圭さんの家族へのバッシング記事が「ヤフーニュース」の記事下にあるコメント欄の大炎上を引き起こしたのがきっかけだった。

 さらには、ヤフコメで大勢を占めた「秋篠宮・小室家へのバッシングコメント」に寄り添うような記事がつくられるというスパイラルが発生し、これを受けて「ヤフコメ欄」は勢いを増し、バッシングが激しくなっていったのだ。

 そんな負のスパイラルを止めるべく、ヤフーニュースは対策として、「ヤフコメ欄」の一部閉鎖を行っていく。同月には少なくとも4本のコメント欄が閉鎖された。「ヤフコメ欄」の利用者の一部はツイッター上で「言論の弾圧」だとして猛批判を行っている。こうした指示と「ヤフコメ欄」の一部記事閉鎖で事態は終わるかと思われていたが、2022年になって、さらに利用者の抑制を進めている。

 小室さんをめぐる報道は「公人への評価」は「出版の自由」「報道の自由」「表現の自由」という民主主義の基盤を支えるものであり、自由な意見をいう環境は守られるべきだという意見がある一方で、眞子さんが「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス傷害)」と診断されるまでにいたった過激で過剰なバッシングをどこまで許すのかという大きな問題を抱えている。

 公人である以上は、あらゆることが「報道の対象」であり、「議論の対象」となるのが現実でもある。オープンな情報のもとで議論は進められていくべきという意見もあろう。

 しかし、20代(当時)の若い男女がどこまで「正しい判断」「正しい行動」ができるのか。親が借金を抱えている子供が皇室の女性と結婚することについて匿名かつ大量の「ヤフコメ民」によって批判され、その批判をもとに世論がつくられていく。

「他人へのバッシングはスリル」

 こうした個人攻撃や誹謗中傷、差別的言辞の温床となってきた「ヤフコメ欄」であるが、1日平均32万件の投稿があるという。投稿を読む人は、その数十倍程度いるのではないだろうか。一般の匿名投稿者によって無料で成立する「ヤフコメ」欄は、ヤフーニュースにとって収益・集客につながる人気コンテンツにもなっているのだ。

 各コメントには「そう思う」(グッドマーク)、「そう思わない」(バッドマーク)の2つのボタンが用意されている。これを押すと点数が加算され、多いものだと何万、数10万もの「そう思う」がつく。これが投稿した人間の「自己承認欲求」を満たすのだ。

 東京都内に住む42歳劇団員のOさんもそんな匿名の「ヤフコメ民」の一人だ。毎日、「ヤフコメ欄」に何を書くのかで悩んでいるという。

 「ヤフコメで、『そう思う』ボタンをたくさんもらうために必要なのは、スピードと共感です。注目されているニュースの記事が配信されるタイミングで、世論が共感するであろうコメントを素早く残すのがコツです」と語る。

 「世論の『共感』を得るには、バッシングされている芸能人に批判的なことを書く。逆に、持ち上げられている人は持ち上げる。自分の本当の思いとは関係ない。また、逆張りもあまり『そう思う』ボタンは押してもらえません。あくまでも、世論に逆らわずにコメントを残しています」

 対価がもらえないのに、日々「ヤフコメ」に投稿するのは、「人をバッシングするというスリル」「自分の意見が認めてもらえる(という承認欲求)」がモチベーションになっているというのである。

 ヤフー側は、コメント欄の自動非表示機能について「当社による恣意性を極力排除するために、人による判断ではなく、各コメントの削除判断を行うAIを活用し、そのAIが判定した点数の集計結果に基づいて、条件や閾値を設定しています」「媒体や記事の内容などは影響していません」(『ZAITEN』2022年5月号)と説明している。

 1日あたりの削除コメントの件数は2万件(2021年6月時点)、1日あたり3.5本の記事のヤフコメ欄を閉鎖している(2021年10〜12月)という。

 ヤフコメの質向上に向けては、匿名のコメントだけではなく、2020年には「公式コメンテーター制度」をスタートさせている。「1本400字以内で報酬は2000円。『参考になった』ボタンが押されるごとに0.2円が加算される仕組み」(公式コメンテーター)だとされる。「ギャラ」としては少ないかもしれないが、個人の「名」を売るチャンスであると捉えられている。「自己宣伝をして、テレビ出演につなげたい」という書き手の溜まり場になっているとの声も漏れる。

 識者の力で「ヤフコメ」の底上げを図りたいのが、現在の「ヤフーニュース」の戦略ともいえるが、自らの書いた「ヤフコメ」がバズる条件は「素早くコメントを出し、世論に追随すること」(先述の劇団員)である。自分の名を売りたい識者もそのことに気づいていないわけがない。「ヤフコメ」を見る目を私たちは養った方がいい、ということだろう。

「侮辱罪」厳罰化は「表現の自由」を脅かす?

 今や小学生も利用するSNSで、大きな問題になっているのが誹謗中傷だ。その矛先が向くのは、芸能人や皇族方だけではない。

 2022年6月13 日、侮辱罪を厳罰化する改正刑法が参院本会議で成立した。インターネット上で蔓延する誹謗中傷の抑止力として求める声が高まり、法定刑の上限を引き上げることになったのだ。 

 厳罰化は、ネット上の中傷を苦にしたプロレスラーの木村花さん(当時22歳)が自殺した問題をきっかけに機運が高まった。公然と侮辱した行為に適用される侮辱罪の法定刑は、それまで拘留と科料のみで、命を絶った花さんを中傷した男2人の科料は9000円だった。

 改正刑法は「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を追加する。記者会見した花さんの母親、響子さんの言葉はネット利用者すべてに向けられる。「厳罰化をどう使っていくか。一人ひとりのモラルが問われている」。

 2019年4月に東京・池袋で暴走した車にはねられ、妻と娘を失った遺族も「金や反響目当てで闘っているようにしか見えない」などとSNSで誹謗され、悩まされた。

 この事件では22歳の飲食店従業員が侮辱罪で在宅起訴されているが、ネット上の誹謗中傷に対しては面倒な手続きや弁護士費用が必要となることから「泣き寝入り」する人々も少なくない。

 侮辱罪の厳罰化も「表現の自由」への制約につながりかねないとの声も上がる。激変するデジタル時代のスピードに法律が追いついていかない状況は続く。

小倉健一『週刊誌がなくなる日 「紙」が消える時代のダマされない情報術』(ワニブックスPLUS新書)

小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact/

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