いつまでそんな会社で消耗しているの?報われない窮屈な日々にさようなら(連載:40代フリーライター「1000万は稼げます」第2回)

 最初に独立を考えたのは35歳の時。場所は入院している病院のベッドでした。

 数年前からたびたび間質性肺炎になり、入院は2回目。原因は不明でしたが、疲労がたまると発症していました。

「このまま会社員として猛烈に働く日々を過ごして、体を壊して死んでしまったら、何も残らないし、家族にも何も残せないなあ」

 当時は大分放送の報道部に所属する記者として、大分県内を飛び回っていました。最初の2年間は警察担当。3、4年目は温泉観光都市である別府市に住み込み、市政、観光、警察、選挙など基本的にはなんでも担当しました。本社に戻って5年目から8年目の途中まで警察担当やキャップをして、その後は県政などを担当していました。

 とはいえ、地方局の報道部は人数が少なく、警察担当をしながら経済や選挙を取材することも珍しくありません。毎日のニュース番組はそれなりの長さがあるので、1日に何本も原稿を書く日もあれば、その日に取材して夕方には4分以上の特集をオンエアすることも多々ありました。

 さらに、日々のニュースを作りながら、ドキュメンタリーを制作することもあります。準備するのは夜回りが終わった夜遅くから。深夜0時に会社に戻ってきて、2時ごろまで素材をプレビューして、構成を考えて……ということもよくありました。夜回りも番組準備もサービス残業です。10年以上前の話なので、今ではあり得ないのかもしれませんが。

 入院したときの話に戻します。統一地方選挙の開票取材が終わって、明け方に家に帰ると40度近い熱がありました。病院にいったときには朦朧(もうろう)としていて、即入院です。その際、熱が40.9度まで上がったことを覚えています。自己最高記録でした。

 病院で3日間寝て過ごすと、何とか熱も引きました。正気に戻った時、これまで会社人間で過ごしてきたことを考え直し始めました。同時に、会社をやめて独立する道も、選択肢のひとつとしてぼんやりと考えるようになったのです。

地方の記者の独立は想像がつかない

 いつ独立するとか、独立して何をするとかは、この時点では何も考えていません。ただ、この先どういう展開になるのか自分でもわからないので、今のうちに読みたかった本を読んでおこうと、読書量を増やしてみました。

 学生時代に読んだけれども、あまり頭に入ってなかった西洋哲学や東洋哲学の本や、ノンフィクション、それに出版業界に関する本などを読み漁り始めました。小説家やジャーナリスト、ライターが自らのことを書いた本も、片っ端から手に取りました。

 読んで感じたのは、本を書いている人は、好きなことや得意なことがあって、そのテーマを軸にしている、ということでした。ビジネス書も、それまで自分がやってきたこと、できることの延長線上で起業することを説いているものが多いと感じました。

 若い時ならともかく、年をとってから新しいことに挑戦するのは、リスクが大きいと言わざるを得ません。そこで、自分がやってきたことを棚卸ししてみました。

 地方局の記者として、県民のため、困っている人のため、視聴者のためになるようなニュースを作ろうと考えて働いてきました。ここに自分の仕事の核があるのかもしれないけれども、それがどんなスキルで、どうすれば独立に生かせるのか、見当がつきませんでした。

 この時は2008年です。まだインターネットのニュースは一般に浸透していなかったと思います。iPhoneはこの年、初めて日本で発売されましたが、まわりに持っている人はいませんでした。

 独立して報道の仕事をするのであれば、大分ローカルの雑誌や、ミニコミ誌をつくることぐらいしかないと思い、雑誌を出版するコストなどを計算してみました。

 しかし、大分県内ではかつて報道系の雑誌が複数あったものの、その頃にはすべて休刊していました。人口から考えると、売れる部数には限界があるからです。自分のこれまでのスキルで独立するなんて、大分県で生活している限りでは想像ができませんでした。

体力がある40代前半に一歩を踏み出す

 何をすればいいのかはわからないものの、考え方は少しずつまとまってきました。ひとつは、会社で中間管理職として40代、50代を過ごすよりも、いつまでも現場で取材をしたいと思ったこと。もうひとつは、ほんの少しでも誰かのために、世の中のためになる原稿を書いていきたいと思ったことです。

 大手の新聞社や放送局であれば、管理職にならずとも、定年まで記者として過ごすこともできるかもしれません(最近は難しくなっているようですが)。けれども、私がいた放送局では、報道部で一旦デスクになってしまうと、その後に現場に戻ることはほとんどありません。

 それだけでなく、入社から定年までずっと報道部にいるケースは、過去にもありませんでした。正社員が100人を少し超えるくらいの規模の会社ですので、さまざまな部署に異動する可能性もあります。規模の小さな地方局は、どこも同じような感じではないでしょうか。

 だからといって、なにも子育てをしている40代で会社を辞めなくてもいいのではないかと思われるかもしれません。我が家は妻と娘の3人家族です。家族を路頭に迷わすわけにいかないのは当然のことです。

 新聞社や放送局で働いている記者のみなさんのなかにも、フリーランスになろうかと考えていても、会社を辞めることに躊躇(ちゅうちょ)している人はいるでしょう。なかなか踏み出せないのは、やはり収入が不安定になることを不安に思っているからではないでしょうか。

 ただ、私は体力に自信がなかったので、50代や60代から新しいことに取り組むのは難しいと感じていました。もしも独立するのであれば、まだいくらか体力が残っている40代前半、できれば42歳くらいまでに一歩を踏み出す必要があると考えたのです。無謀な考えが頭の中に膨らんでいきました。

 しかし、人生は何が起きるかわからないものです。独立について考えを巡らせていた2012年3月、39歳の時に転機が訪れました。前年から報道部でデスク業務をしていましたが、3月の人事で東京支社営業部への異動を命じられました。入社以来15年間報道部にいましたので、初めての異動です。

 勤めていた会社では、東京支社に赴任すると在任期間は平均で8年程度と長く、中には10年を超える人もいました。家族で引っ越した場合、当時は娘が8歳だったため、中学、高校を東京で進学する可能性が高くなります。仮に娘が高校生の時に本社に異動になっても、転校が難しく、逆単身赴任になることも想定されました。

 かといって、単身赴任をするにも長すぎます。結局、家族で東京に引っ越すことを決断し、その際、思い切って大分市内に所有していたマンションを売却しました。どんな展開になってもいいように、身軽にしたのです。

 この時点で会社を辞めることを決心していたわけではありません。けれども、東京に転勤したことで、まったく予想していなかった方向へと導かれることになりました。

この記事の著者
田中圭太郎

1973年生まれ。大分県出身。早稲田大学第一文学部卒。地方局で19年間勤務後、2016年からフリーランス。雑誌・Webで大学、教育、社会問題、ビジネス、大相撲など幅広いジャンルで執筆。著書『ルポ 大学崩壊』(筑摩書房 2月9日発売)『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)

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