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プーチンが消えたあとの厳しいロシアの行く末

アフタープーチン

薄い氷を歩き続けるロシア経済はもう限界

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、西側による経済制裁の結果として、ロシア国内の経済情勢は徐々に悪化しつつある。

クリミア併合時からの経済制裁に加えて、現在ではSWIFT排除などの欧米の経済制裁の対象が広範な分野に科せられている。そして、制裁の対象がロシアの指導者層だけではなくロシア経済全体に及んでいることで、ロシア市民の生活にまで物価上昇等も含めた悪影響が生じている。

欧米からの制裁を回避するため、ロシアの民間企業は必死に輸出入に関する代替ルートを模索している。ただし、彼らの寸断されたサプライチェーンを維持する努力はロシアに対する経済制裁の負の影響を緩和しているに過ぎない。そして、西側企業の相次ぐロシア撤退によって投資・雇用が失われたロシア経済は更なる泥沼に陥ろうとしている。経済制裁直後に暴落したルーブルは政府による徹底した経済統制で持ち直しているものの、ロシア経済は依然として薄い氷を歩いている状況だ。

ぶちぎれたロシアエリート!その怒りの矛先は……

ただし、西側諸国がロシアの一般国民の生活に影響がある形で経済的制裁を実行したとしても、その制裁行為が西側諸国によって政治的に有意義な結果をもたらすかは不透明だ。

西側諸国は生活が悪化したロシア国民がプーチン政権を転覆し、民主的な政権が誕生するという見通しが甘い希望を抱いているように見える。しかし、薄々この甘い願望はやはり妄想でしかないことを気が付き始めているだろう。

ロシア国民はプーチン政権による政治宣伝、つまり「NATOの東方不拡大約束違反、ウクライナに事態悪化の責任がある」を信じている人々が少なくない。プーチン政権による情報統制は国営メディアだけでなくSNSにまで及んでいる。直近ではフェイクニュース(≒ロシアにとって都合が悪い情報)を流せば15年の禁固刑に処すという法律が成立し、ロシア国民が得られる情報に制限がかけられているほどだ。

さらに、ロシアは政権、武力機関、新興財閥(オリガルヒ)が一体となっており、ロシアの全エリートが一蓮托生の構造となっている。西側による徹底した経済制裁がロシアの全エリートを団結させており、プーチン大統領の権力は必然的に高まる一方だ。

そのため、経済制裁はロシア国民の間で西側諸国に対する反感を強めるだけの結果となり、むしろプーチン政権の基盤強化に繋がる可能性すらある。プーチン政権にとってロシア指導層および国民に対する幅広い経済制裁は反西側感情に火をつける格好のネタとしても好都合だ。西側諸国がロシア全体を世界から孤立した北朝鮮のような立ち位置に追い込むことは、かえって現在の権威主義体制を強化することになるだろう。ロシアが一層の政治的・経済的没落に繋がっていく負のスパライルにあっても、それを止めるインセンティブは誰も持ち合わせていない。

プーチンは怖くてたまらない

そのようなロシアの状況にあって、唯一の弱点と言える存在がプーチン大統領その人だ。プーチン大統領が長年培ってきた西側諸国に対する敵愾心こそが西側にとっては攻め手のきっかけとなる。

元CIA秘密情報部上級作戦担当官であったダグラス・ロンドン氏がフォーリン・アフェアーズに寄稿した内容は極めて示唆深いものだった。

実はプーチン政権には柔らかい腸が存在している。それは旧ソ連構成国やチェチェンなどでの離反および混乱である。

元々今回のロシアによるウクライナ侵攻は旧ソ連圏が次々と離反し、親欧米国化していくことに対するプーチン大統領の恐怖心が背景にある。

プーチン大統領はNATOの東方拡大に対する恐怖心に駆られ、ウクライナ侵攻のような非合理的な過剰反応を示してしまった。

そのため、ロンドン氏が語った対プーチン政権の処方箋は、プーチン大統領の強い西側に対する敵愾心を利用し、旧ソ連圏およびロシア国内での離反工作を実施することだ。プーチン大統領の手でロシアエリートの内部粛清などを行わせることで、その政権基盤にひずみを生じさせる戦略は非常に合理的に思える。

プーチンが起こす「次なるヒステリー」

実際、旧ソ連構成国の1つであるカザフスタンは、年始にロシアの協力で国内治安を保ったにもかかわらず、ウクライナ侵攻への協力に当初から及び腰だ。また、反ロシア感情が強いチェチェンからウクライナに送り込まれた特殊部隊が全滅したことで同地域に対するロシアの恐怖支配にも影響が出るだろう。さらに、盟友であるベラルーシのルカチェンコ大統領がウクライナ出兵を限定的なレベルに留めているのも国内政変を恐れてのことだろう。

プーチン大統領はこれらの国や地域で更なる問題が発生した場合、旧ソ連圏における親ロ政権の更なる崩壊を恐れて、現状よりもヒステリックな反応を示す判断ミスを犯す可能性がある。

実際、プーチン大統領がウクライナ侵攻に関して誤った情報を提供したFSB職員を大量に解雇したことは、同大統領が冷静な判断力を欠き始めている証左と言えるだろう。自らを支える権力基盤の本丸であるFSBに対して八つ当たり的な振る舞いを行ったことは、いずれプーチン政権の足元を崩すことに繋がる。そして、米国側がその機会を見逃すはずがない。その時には盤石に見えるプーチン政権が倒れることも十分に想定される。

しかし、それでも筆者はロシアの短期的な未来に対して明るい見通しを持っていない。なぜなら、冒頭に触れたロシア国民全体に対する経済制裁は、西側の価値観をロシア国民に対して受容させることには何ら寄与しておらず、むしろ同制裁はロシア政府による国民への経済統制を強めることに繋がっているからだ。

ロシア国民を待ち受ける、もっと悲惨な地獄

ロシアが世界から孤立を深め、プーチン政権が倒れたとしても、そこに新たに誕生する政権を想像すると暗澹たる気持ちにならざるを得ない。プーチン以後のロシア政権は、西側に対して更に攻撃的な愛国世論に支えられる形で、プーチン政権よりも過激な反欧米主義の政権になると考えることが自然だからだ。

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この記事の著者
渡瀬 裕哉

1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 早稲田大学公共政策研究所招聘研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。2016年トランプ大統領当選、2020年民主党による大統領・連邦上下両院勝利を正確に予測し、米国政治に関する分析力に定評がある。『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 』(すばる舎)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)

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