第6回 離婚は貧困の始まりか?
※ FP=ファイナンシャルプランナー。 ※「みんかぶFP相談室」は実在しません。本記事の個人名、固有名詞などは全てフィクションです。
人間が2人で暮らすことは大変だし、うまくいかないこともあるでしょう。
相手に裏切られたり、何かを守らなければいけなかったり、自分ではどうしようもないときもありますから。
もし不幸な出来事が起きて目の前が真っ暗になってしまったら、光を見つけるツールとしてライフプランを使ってみてはいかがでしょうか?
ファイナンシャルプランナーと一緒に現状と向き合うことで、行き詰まっていた状況に希望の光が見えてくるでしょう。
【登場人物】
- 深瀬さん ………… みんかぶFP相談室の室長、アラフィフの女性
- 青木くん ………… みんかぶFP相談室の助手、23歳男性
- 風間さん(Fさん)…………深瀬さんの元部下、本日の相談者、31歳 女性 既婚
【Fさんのライフプラン】
- 離婚する
- 経済的自立
- 子供の大学進学までの教育
【相談内容】
- 離婚するためにはどんな準備が必要ですか?
- 離婚後はお金はどのくらいかかりますか?
目の前が真っ暗になった。夫が不倫していることを偶然知ってしまったのだ。
裏切りを認めようとしない夫を問い詰めたら「じゃあ、離婚だ!」と開き直られてしまった。
夫の不貞行為が発覚して大げんかした翌日は、何事もなかったようにいつもの朝が始まった。でもその日から「離婚」の2文字がわたしの頭の中から離れなくなった。
わたしが悪かったのかな。昔は仲良くやっていたのに、いつの間にか無愛想な「ただの同居人」になっていたから。子育てや自分のことで精一杯の日々。夫への愛情表現が減っていたのは確かだ。でも、今さらどうしていいか分からないよ。
25歳で結婚をして、すぐに子供ができたので会社を辞めた。そして咲美(えみ)が生まれたんだ。来年は咲美が小学校に入る年だ。それなのに、こんな時期に離婚だなんて……。
「わたしは1人で子供を育てることができるのかな」
シングルマザーになる、その可能性が目の前に迫っている。崖っぷちに立たされているようで足元がおぼつかない。なんだかフワフワした気分だ。
そんな時、ふと思い出した。会社の上司だった深瀬さんって、確かFPとして独立して事務所を開いていたな。
あの頃の深瀬さんはバリバリ働くスーパーウーマンで、バツ2のシングルマザーだった。いつも不機嫌そうな顔しているけど優しくって、何も分からない新卒の私に、いろいろ教えてくれた。
ちょうどわたしが出産退職する頃、年下のイケメンと再再婚するって話で、会社じゅうの女子にうらやましがられてたっけ……。
顔を見るだけでもと思って、今日は予約をして相談室を訪ねた。
「5年ぶりか…」
緊張しながら相談室のベルを鳴らすと、ドアを開けてくれたのは深瀬さんだった。久しぶりに会う深瀬さんは、全く変わっていなかった。相変わらずの仏頂面でなんだか懐かしい。
「風間さん! わざわざ訪ねてきてくれてありがとう」
「お久しぶりです、深瀬さん。お変わりなく元気そうですね! 旦那さまもお元気ですか?」
「ああ、去年離婚したわ。今は独身よ」
深瀬さんはさらりと答えた。
相談室の入口で思わず固まってしまったわたしを、一人の男性が応接セットまで案内してくれた。
その男性は「助手の青木です。深瀬さん、気にしないから大丈夫すよ」と小声でフォローしてくれた。いいやつだ。
◇ ◇ ◇
ソファに深瀬さんと向かい合って座り、青木くんが淹れてくれたお茶を飲みながら相談が始まった。
「ここでは匿名で呼ぶし、守秘義務を守るわ。遠慮なく話してね。Fさん」
「匿名で話すって面白いアイディアですね! さすが深瀬さん」
わたしは相談したいことを正直に話し始めた。
「夫が不倫をしているって知ってしまったんです。それで怒って問い詰めたら、夫が離婚だって言い始めて。もし、離婚したらわたし、一人でやっていけるのかなって不安で……」
「あらあら、大変だったわね。それで相談に来てくれたのね。今、仕事はしているの? 確か、お子さんが生まれたのよね」
「子供が幼稚園に通い始めてからWebデザイナーの勉強を始めたんです。今はようやくフリーランスで仕事を受注できるようになったんですけど……離婚しても、フリーランスで仕事をすれば生活していけるのかどうかを知りたくて」
夫と喧嘩をしたときだって涙なんて出なかったのに、話し始めたら涙が止まらなくなった。すると青木くんがティッシュボックスを持ってきて、そっと机の上に置いてくれてた。気遣いのできる優しい男の子だ。
【理想のライフプラン】
「シングルマザーになるということは、言葉で考えるより大変よ。本当にね」
経験者の言葉の重みを感じたわたしは、無意識に姿勢を正していた。
「まずひとり親としてお嬢さんを育てる場合、どんな生活になりそうかシミュレーションしてみましょう」
深瀬さんはシミュレーションを紙に書き始めた。