第4回 和菓子屋の危機 娘の進学のために
※ FP=ファイナンシャルプランナー。 ※「みんかぶFP相談室」は実在しません。本記事の個人名、固有名詞などは全てフィクションです。
今回のお話は「先延ばし」がテーマです。
目の前の楽しさと将来の夢を比べたら、目の前の楽しさを選んでしまうのは、人間の本能だといいます。
けれど人間の性に逆らって行動する人、すなわちライフプランを考えて行動する人は、刹那の楽しさは得られないかもしれませんが、その代わり将来の大きな幸せを手にすることができるのです。
【登場人物】
- 深瀬さん ………… みんかぶFP相談室の室長、アラフィフの女性
- 青木くん ………… みんかぶFP相談室の助手、23歳男性
- Dさん ………… 本日の相談者、和菓子屋店主、42歳 男性 既婚
【Dさんのライフプラン】
- 和菓子屋の改装
- 娘を大学進学させる
【相談内容】
- 収入を安定・増加させたい
- 娘の教育費と結婚資金を用意したい
「今日の15時に予約してあるから」と妻に言われた。
メモを渡され、たどり着いた先は「みんかぶFP相談室」という表札が掛っている扉の前だ。
僕は何をしに来たんだろう。いや「家計について話を聞いてきて」と妻から言われてはいるのだが。
「何を聞けばいいのかな」
妻が詳細にメモした紙を出して見たが、字が細かすぎてよく読めない。
「とりあえず、話を聞いて帰るとしよう」
ぼんやりとドアベルを鳴らすと、細身で長身の若者が出迎えてくれた。
「こんにちは! お待ちしておりました。助手の青木です」
「どうも。わ…」
「この相談室では匿名で相談に乗らせていただいてます。Dさんとお呼びしますね」
「ディ、ディーさん、ですか?」
「はい」
匿名か。なんだか変な感じだが、まあ、気楽に相談できるようにっていう心遣いかな。
気弱な夫の望む未来は?
青木と名乗った若者は、僕を室内に招き入れた。
僕は立ったまま、妻に言われてここに来たことや、FPに相談するのは初めてで何を話したらいいかよく分からないことを説明した。
ついでに、商店街の一角で和菓子屋を経営しているが、自分は和菓子作りに専念していて、お金のやり繰りは全部妻に任せていること、娘は大学に進むと思っているが、何を目指しているのか全く知らないこと、最近は口もきいてもらえないこと、娘というのはそういうものだと知ってはいたけど、ちょっと戸惑っていることなども話しておいたのだが、若者は「言わなくても分かっているよ」と言いたそうな表情をしている。
そういえば人にホンネを打ち明けるなんて、久しぶりだな。
◇ ◇ ◇
若者が私を部屋の中央にある応接セットに案内し、とても気の強そうな女性を紹介した。
妻より年上に見える。
「妻に言われて来ました。よろしくお…」
「こんにちは。FPの深瀬です。早速ですが、ご相談に入る前にこちらのシートにご記入くださいね」
ぶっきら棒な挨拶で圧倒された。
「家計状況チェックシート」なるものを渡されたが、記入する前に「将来に漠然とした不安があるが具体的には何も考えてない」ことを告白しておいた。なにしろ、今日妻に「行ってきて」と言われて来ただけだからだ。
何も分からないや、と溜息をつきつつ、妻に持たされた去年の確定申告書類や家計についての数字が書かれたメモを、そのまま家計状況チェックシートに書き写してみた。
【家計状況チェックシート】
【理想のライフプラン】
◇ ◇ ◇
「バランスシート」を書いていて気が付いた。
妻が学費のことを心配していたが、バランスシートを見ると我が家の資産は不動産ばかりだ。現預金が450万円で、大学の学費が払えるだろうか。