【漫画】なぜバフェットはインドのFintechに投資した…ツイッターなどIT企業は基本毛嫌い

ツイッターなどの人気がある企業でも、テクノロジー・IT関連には一切投資をしないというポリシーを持つのが現在92歳の投資家、ウォーレン・バフェット氏だ。「流行だから」「時代だから」という理由で “自分たちが理解できない” 企業に投資することは、リスクが高いと考えている。しかし今、インドやブラジルのフィンテック企業への投資が増えている。バフェット氏の海外戦略と、各社に投資した理由とはーー。(第2回/全3回)
※本記事は、濱本明監修、ちゃぼ(漫画)、 桑原晃弥著、中野佑也著『バフェットの投資戦略 ’00~’22』(standards)より抜粋したものです。
第1回:【漫画】「シケモクで一服しなさい」投資の神様ウォーレン・バフェット…朝マック歴59年のドケチ列伝
アメリカ在住のまま、中国や新興国など「海外投資」を決める一流の投資家の判断基準


市場拡大が見込まれる中国市場への投資
2000年代に突入すると、バフェットはアメリカ市場だけでなく海外にも進出し始める。最初に海外企業への投資が報じられたのが中国市場だった。
鄧小平(※1)の指導の下、1978年から始まった中国の「市場開放」。この歴史的決定により、これまでの統制経済体制から財産が個人所有できる私有制と市場メカニズムが導入され始め、企業経営の生産性が大幅に向上したことで中国は経済成長期に突入する。
その後、中国政府は輸出競争力の高い外国企業を国内に呼び込むため、沿海地域を中心に経済開発区の整備やインフラ建設などを行った。
その成果として、安価な労働力により、低コストで生産・輸出を行う外国企業の誘致に成功し、中国は世界の工場へと変貌を遂げた。また、2011年にはWTO(※2)加盟も実現し、輸出投資主導型の高度経済成長を実現した。
それに伴い、2003年5月以降は中国A株市場に海外から制限付きで投資が認められる、QFII(指定国外機関投資家)がスタート。

急速な市場拡大スピードを背景に、投資家向けの制度が徐々に整備されることで海外投資家からも注目度が高まり、市場開放もより加速していった。
※1 鄧小平:1978年12月から1989年11月まで中国の最高指導者を務めた人物
※2 WTO:World Trade Organizationの略。世界貿易機関とも呼ばれる、自由貿易促進を目的とした国際機関
訪問なし、アニュアルレポートだけで投資を決めたペトロチャイナの魅力
そうした背景もあり、バフェットは2003年に、香港市場に上場する石油最大手ペトロチャイナ(0857.HK)に投資を開始。同年に提出されたバークシャー・ハサウェイのアニュアルレポートによると、ペトロチャイナの株式の1.3%を4億9900万ドルで取得したことが報告されている。
驚くべきは、バフェットが会社への訪問や経営陣との会談などを行わず、アニュアルレポートだけでペトロチャイナへの投資を決めたことだ。『バフェットの株主総会』(ジェフ・マシューズ著、黒輪篤嗣訳、エクスナレッジ )によると「2002年と2003年に、アニュアルレポートを読みました。誰にも相談はしていません。私がしたのは、ペトロチャイナの複数の事業の査定です」と語っている。


これまでアメリカのさまざまなエネルギー会社に投資し、豊富な知識を持つバフェット。彼から見れば、今後急速に拡大が見込まれる中国市場のなかでペトロチャイナが大きな価値を持つことは一目瞭然だったのだろう。そして市場の価格と照らし合わせて、価格が過小評価されていると判断し、投資に踏み切ったのだ。
ペトロチャイナは、これまでアメリカ以外に投資しなかったバフェットが初めて海外企業に投資した事例としてセンセーショナルに報じられた。
しかし、ここで注意しておきたいのは、これ以降、バークシャーのポートフォリオ構成が大幅に海外企業にシフトしたわけではない、という点だ。バフェットが主に投資するのは、当時から現在までアメリカ企業が中心であり続けている。
アメリカ市場を知り尽くし勝ち続けているからこそ、その「市場の価格と照らし合わせて、価格が過小評価されている企業に投資する」というノウハウを転用し、別のフィールド(中国市場)でもリターンを狙うことができる。ペトロチャイナへの投資はそんな示唆に溢(あふ)れる事例だ。
【戦略趣旨】
- 過小評価されている企業に投資をするというノウハウをアメリカ企業以外に当てはめた
バフェットが投資するインドのスタートアップ企業
バークシャー・ハサウェイが毎年公開しているアニュアルレポートでは、近年でも、ポートフォリオの大部分を金融や保険、食品メーカー、エネルギーといった企業が占めている。
近年、バフェットはこうした手堅い企業に投資し大きな利益を上げているため、テクノロジー分野の企業に対してまったく関わりがないイメージを持たれがちだ。しかし意外なことに、近年は新興国のスタートアップにも資金を投じるケースが増えてきている。
例えば、インドで電子決済サービスを提供するペイティーエム(Paytm)。バークシャーは2018年にペイティーエムに250億ルピー(約400億円)を出資している。
ペイティーエムの親会社であるワン97コミュニケーションズ(PAYT)は2000年に創業し、2014年に現在のモバイル決済サービスに本格参入した。
2016年に実施された高額紙幣の廃止や、コロナ禍で一気に加速した産業のデジタル化が追い風となり、インド国内でデジタル決済のニーズが急速に高まったことを背景に一気に普及したペイティーエム。
2021年時点で利用店舗数は2100万カ所以上あり、ユーザーはインドを中心に3億3300万人以上と、インド最大のデジタル決済サービスだ。同年11月にペイティーエムは、インド国内で最大規模となる約2800億円規模のIPOをして注目を集めることになった。
過去、保険事業でインドに参入実績があるバークシャーだが、インド企業に直接投資するのはペイティーエムがはじめてだ。
以前から、GDP(国内総生産)が3兆ドル近くあり、世界7位のインドについて、「無視するには(経済規模が)大きすぎる」として関心を示していたバフェット。

中国政府による企業への締め付けが強化されるなか、「第二の中国」として市場が拡大中のインドが注目され、そこで白羽の矢が立ったのがペイティーエムだった。
「自分たちが理解できるビジネス」だけに投資するバフェットが、ブラジルのフィンテック企業に投資
また、バークシャーはこの投資を行った2018年ごろから、海外、特に新興国のフィンテック企業への投資を加速させている。
2018年当時、ブラジル国内の電子決済分野で4位の規模を持つストーン(STNE)への出資も、スタートアップの流れのなかで行われたものだ。
ペイティーエムと合わせて、約6億ドルの投資を行ったバークシャー。かねてよりバフェットやチャーリー・マンガーは電子決済について懐疑的なスタンスを取ることで有名だったため、フィンテックのような比較的新しいテクノロジーやバイオベンチャーへは手を出さないかと思われていた。
しかし、先述の2社への投資はバークシャー・ハサウェイがそうした領域へ投資した初の事例であり、これをきっかけにほかのフィンテック企業にも投資するようになる。これも、かねてより彼らが徹底してきた「自分たちが理解できるビジネス」が時代とともに変化している証なのだろう。
