日本で一番レギュラーガソリン代が高い県は…今後の大幅値上げの前に賢く購入する方法
デフレ(=デフレーション。物価の継続的下落)が過去30年間続いてきた日本でも、いよいよインフレ(=インフレーション。物価の継続的上昇)が顕著になっている。経済評論家の加谷珪一さんに、相次ぐガソリンや電気代などエネルギー価格の値上げの仕組みや、家計にはどのような影響が及んでいるのか解説いただく。(第1回/全3回)
※本記事は、加谷珪一著『スタグフレーション――生活を直撃する経済危機』(祥伝社新書)より抜粋・再編集したものです。
第2回:値上げラッシュが止まらない! 次に来る「本当に怖いスタグフレーション」に備えよ
第3回:インフレ地獄が本格化!ビール、コーヒーが買えなくなった客に店は何を売ればいいのか
原油価格と連動する、エネルギー価格の仕組み
景気が回復しないなか、日本でも多くの商品やサービスの価格が値上がりし、生活を苦しめている実態を見ました。2021年後半から2022年前半にかけては、電気、ガス、ガソリンなどエネルギー関連の値上げが顕著でした。これらは食品と同様、日常生活に直結します。では、エネルギーの価格はどのような仕組みで決まるのでしょうか。
エネルギー関連の価格は、基本的に原油価格に連動する形で決まります。
ガソリンは原油から精製されますが、日本では原油はほとんど採れないことから、ほぼ全量を輸入に頼っています。中東などの産油国から原油を輸入し、そこからガソリンや灯油といった石油製品を精製し、国内で販売を行っているのが石油元売り事業者(企業)です。ENEOSホールディングス、コスモエネルギーホールディングス、出光興産などがこれに該当します。
全国に存在するガソリンスタンドは元売り大手ブランドの看板を掲げていますが、元売り企業が直接、経営しているわけではありません。ガソリンスタンドの経営を実際に担っているのは、各地域にある個別の企業であり、元売り各社は小売店であるガソリンスタンドに石油を卸し、ガソリンスタンドが個別に価格を決定して消費者に販売しています。
同じガソリンを販売するというビジネスでも、販売数量や商慣行などに違いがあるため、地域ごとにガソリン価格は異なります(図1)。
【図1】2022年3月30日時点における各県のガソリン販売価格(円)
同じ地域でも規模が大きいガソリンスタンドは値引きを積極的に行うなど、企業体力によっても最終価格に差が出てきます。しかしながら、元売り各社がガソリンスタンドに卸す価格には大きな違いはありませんから、ガソリンスタンドが値引きできる範囲は限られます。
元売り各社は原油を海外から輸入しているので、原油価格そのものが上がってしまうと、元売り各社ではどうしようもありません。したがって、ガソリン価格は基本的に原油価格に連動して動くように設定されています。
図2は、原油価格と国内ガソリン価格の動きを示したものですが、基本的に原油価格が上昇するとガソリン価格も上がっていることがわかります。
【図2】ガソリン価格と原油価格の推移
ガソリンの価格高騰でガソリン税の半分免除。注目の「トリガー条項」
私たちが購入しているガソリンは、原油価格に、精製や販売に必要なコストを事業者が上乗せしただけのものではありません。ガソリンには揮発油税(きはつゆぜい)という高額な税金が課されるなど、税金が占める割合が大きいという特徴があります。たとえば、ガソリンが1ℓあたり170円で販売されている場合、ガソリン本体の価格は97.9円と全体の約58%にすぎません(図3)。
【図3】ガソリン価格の内訳
残りはほとんどが税金で占められており、具体的にはガソリン税(揮発油税と地方揮発油税)が53.8円、石油石炭税が2.8円、消費税が15.5円となっています。つまり170円の時には約4割が、150円前後の時には約半分が税金で占められている計算になります。
近年のガソリン価格の高騰を受けて、政府内部ではガソリン税の半分を免除するという、いわゆるトリガー条項の発動が検討されました。
先ほどガソリン税は53.8円と説明しましたが、厳密には正しい表現とは言えません。というのも、本来のガソリン税は1ℓあたり28.7円であり、残りの25.1円は “上乗せ分” の扱いだからです。
したがって、上乗せ分である25.1円を免除すれば、ガソリン税をほぼ半分に減らすことができます。この上乗せ分を免除する仕組みがトリガー条項で、1ℓあたり160円を3カ月連続で超えた場合に発動される予定でした。
ところが、2011年に発生した東日本大震災の復興財源を確保する必要性から、この条項は凍結されており、1ℓあたり160円を突破したあとも、上乗せ分の課税が行われていたのです。
このトリガー条項を制度化したのは民主党政権だったことから、当初、自民党は民主党が決めた政策を導入することに反対していましたが、ガソリン価格があまりにも高騰したことから、与党内でも発動を求める声が高まってきました。
トリガー条項が発動されれば、とりあえず約25円はガソリンが安くなりますが、あくまで安くなるのは25円だけです。大元のガソリン価格がそれ以上に上昇してしまえば、トリガー条項もあまり意味がなくなってしまいます。加えてトリガー条項を発動すれば、約1.5兆円、税収が減るという問題があり、代わりの財源確保も難題です。
少なくとも本稿を書いている2022年8月時点ではトリガー条項は発動されておらず、代わりに政府は、ガソリン価格が1ℓあたり170円を超えた場合、一定金額を石油元売り各社に補助する燃料油価格激変緩和措置という制度を実施しています。
家計へのダメージが止まらない「電気料金」の仕組み
ガソリン価格と同様に、電気料金とガス料金も基本的に原油価格に連動して動きます(図4)。
【図4】電気料金と原油価格の推移
電気料金やガス料金は認可制となっており、事業者が勝手に決めることはできません。しかしながら、ガソリンと同じく、火力発電の燃料、あるいは都市ガスなどの原料となる石油や天然ガスの仕入れコストは、海外の市場価格で一方的に決まってしまいます。このため、原油価格が高騰すると電力会社やガス会社の経営が危うくなります。
こうした事態を防ぐため、電気料金やガス料金には、一定の範囲で燃料価格の動きを随時反映できる仕組みが導入されています(燃料費調整制度)。電力会社が保有する火力発電所の燃料は、石油、天然ガス、石炭の3つです。電力会社によって、どの燃料を使用する発電所が多いかは違ってきますから、3つの輸入価格に対して、電力会社ごとに異なる比率を乗じて、平均的な燃料価格を算出します。
こうして算出された燃料価格は、一定の範囲内で電気料金に転嫁することができます。ニュースなどで「今月の電気料金は〇円値上げされました」と報道されているのは、この燃料費調整分の変動です。
この価格調整には上限が設定されており、基準価格の1.5倍以上には値上げできない仕組みになっています。2022年4月の段階で関西電力など複数の電力会社が上限に達しており、その段階で値上げは一時的に止まります。
しかし、電力会社が新たな価格で値上げを申請し、それが認可された場合には、そこからがスタートとなりますから、理屈上、電気代をさらに上げることは不可能ではありません。
ガス会社も基本的には同じ料金体系が導入されています。
都市ガスの成分は、ほとんどが液化天然ガス(LNG)で、ごくわずかに液化石油ガス(LPG)が含まれています。ガス会社の場合も電力会社と同様、LNGとLPGの輸入価格をもとに、両者の比率を乗じることで、平均的な燃料価格を算出しています。
LNG、LPG、石炭の価格は基本的に原油価格と連動して動きますから、最終的には電気料金もガス料金も原油価格に連動して上昇する関係にあると考えてよいでしょう。
ちなみに電気料金については、2016年4月から小売り事業が完全自由化されており、自らは発電施設を持たない小売り専業の電力事業者(いわゆる新電力)も多数、電力事業に進出しています。
こうした小売り事業者は、自由化にともなって創設された電力の卸売市場から電力を調達しますが、2021年後半から顕著となった原油価格の高騰によって、電力の卸売価格が前代未聞の水準まで上昇。一部の電力事業者は販売価格を仕入れ価格が上回ってしまい、倒産に追い込まれる事態も発生しています。
近年の日本は、原油価格は安定的に推移するはずという、ある種の幻想によって社会システムを維持してきましたが、一連の物価上昇によって、原油価格は国内事情とは無関係に、一方的に決まるものという現実がハッキリしました。今後は、原油価格が高止まりする可能性があることも視野に入れてエネルギー政策を立案する必要がありますし、消費者も原油価格の動向について、もっと敏感になるべきです。
「原材料の価格」を知れば、値上げ前におトクに買える
企業が製品を製造するには原材料を調達しなければなりません。原材料の製造には多くのエネルギーが必要となりますから、エネルギー価格の上昇は企業にとってはコスト増加要因です。従って、原油価格が上昇すると原材料価格が上昇し、最終的な製品やサービス価格にも影響が及びます。
一般的に、価格に占める原材料費の比率が高いほど、価格高騰の影響を受けやすくなりますが、そもそも、私たちが購入している商品において、原材料の価格はどの程度の割合を占めているのでしょうか。
図5は、商品のコストがどのような費用で構成されているかについて示したものです。私たちは普段、価格そのものについては「高い」「安い」と評価をしていますが、その内訳についてはあまり深く考えていないのではないでしょうか。
【図5】商品にはどのようなコストがかかっているのか?
商品価格に占める原材料費の比率は製品の種類によって異なりますが、おおむね2〜3割程度が標準的です。つまり1000円の商品を購入した時、私たちが原料に対して支払っているのは、200〜300円です。では、残りの700〜800円はいったい何に消えているのでしょうか。
これも製品によってさまざまではありますが、多くは製品を作ったり、販売したりする人件費、製品を開発するための研究開発費、市場に告知するための広告宣伝費、製造する工場の設備費用(減価償却費)などに費やされています。
原材料価格の比率が低い商品の場合、多少、原材料価格が上昇しても、人件費や広告宣伝費など、他の部分でコスト上昇分を吸収できます。ところが、原材料比率が高い製品の場合、価格上昇が進んでしまうと、コスト上昇分を他の部分で吸収するのが難しくなり、値上げに踏み切らざるを得なくなります。
業界によってこれらの比率は変わってきますから、値上げを我慢できる業界と、そうでない業界との違いが生じてきます。また、同じ業界でも、製品の種類によって原材料の比率はまちまちですから、それが値上げに対する耐性の違いとなって表われてきます。つまり商品によって値上がりしやすいものとそうでないものがあり、しかも同じ分野の商品であっても、値上げのタイミングに違いが生じるわけです。
消費者としてみれば、値上がりのタイミングについて知っておくことで、わずかではありますが、値上がりする前に買っておくなどの工夫ができます。