3日で1万件大ヒットの衝撃…PayPayほけん「インフルお見舞い金」新たな驚異が出現に焦る生保業界
PayPayほけんの「インフルエンザお見舞い金」加入件数が3日で1万件を突破し、異例のヒットとなっている。素人目には「たかが1万件」と思うかもしれない。しかし、実はこのヒットが、生命保険業界の閉塞を打ち破る成功事例として注目を浴びているというのだ。なぜ注目を浴びているのか――。
PayPayほけん「インフルエンザお見舞い金」のユニークさ
PayPayほけんは1月11日から、国内初のインフルエンザ特化保険「インフルエンザお見舞い金」を発売し、スマッシュヒットとなっている。
PayPayほけんが発売する保険商品は、PayPayアプリから簡単に申し込めて、保険料の支払いもPayPay残高でできるため、その手軽さが消費者に受けている。また保険金請求も、PayPayアプリに領収証などをアップロードするだけで完結する。保険加入でPayPayポイントももらうことができる。
PayPayほけんで加入できる保険には11種類あり、2022年夏には「熱中症お見舞い金保険」を発売し、半年間で6万件の契約を獲得して大ヒットを記録した。
PayPayほけんの「インフルエンザお見舞い金」は国内初のインフルエンザ特化保険だ。保険料が安く、1カ月250円から申し込めるコスパのよさもまた魅力である。契約者本人以外の家族も同時に申し込める(被保険者になれる)ため、30代から50代のユーザーは、家族同時に申し込む傾向があるという。どのプランでも入院保険金は1回3万円、1カ月360円の「安心プラン」であれば、治療保険金は1回7000円というから、保障も充実している。
魅力ある保険商品で、なおかつヒットも記録している。とはいえ、3月22日までの季節限定商品であるため、大きな売上増は見込めない。なぜ業界の注目を浴びているのか。
住友生命保険、アイアル少短、PayPayがタッグを組んで2度目の成功
実は2021年から2022年にかけて、多くの大手保険会社が少額短期保険(少短)市場に新規参入を果たしたが、どの企業もそこまで大きな成果を上げられなかったという。
しかし、少短参入組の商品で唯一成功したと言われているのが、1日100円から申し込めるPayPayほけんの「熱中症お見舞い金」だったのだ。その日の午前9時までに申し込むと、10時から保障が開始されるというスピードに加え、PayPayアプリから申し込める利便性なども評価され、昨年4月21日の発売から半年間で6万件もの大ヒットを記録した。他の少額短期保険がヒットしなかったにもかかわらず、なぜPayPayほけんの「熱中症お見舞い金」だけがヒットしたのか。
関係者は「それは住友生命保険の総合力、アイアル少額短期保険の機動的な商品開発力、PayPayほけんのWebマーケティング力と、アプリで申し込める利便性によるところが大きい」と見ている。実際に、申し込む層には若年層も多く、アプリですぐ申し込める手軽さが彼らに受けたのだろう。「保険の申し込み」と聞くと、ホームページ上の加入手続きが煩雑で、億劫(おっくう)だと思ってしまう人がほとんどではないか。この点、PayPayほけんは、いつも使っているアプリで簡単に申し込めることから、その部分のハードルが低くなり、従来から潜在顧客層として眠っていた若年顧客を取り込めたということだろう。
そして今回、わずか3日で1万件のヒットを記録した「インフルエンザお見舞い金」でも、この3社の座組みで企画されている。「熱中症お見舞い金」をヒットさせた際の購買データやマーケティングノウハウも生かされているという。
本当の課題は、生命保険各社の顧客基盤の強化
確かに、業界で唯一ヒットを連発させている3社に注目が集まるのは当然だろう。しかし、業界全体の「希望の星」とまで見られているのはなぜなのか。
生保各社の課題は、少子高齢化による保険料収入の減少だ。潜在的な顧客である若年人口が少子化でどんどん減っているのだから、生命保険料収入が減っていくのは当然の成り行きである。
なかでも深刻なのが、若年層における生命保険離れだ。生命保険文化センターが発表した「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」によれば、世帯主年齢別の「生命保険・個人年金保険の世帯加入率(全生保)」において、29歳以下の加入率が2009年以降最低の70.2%を記録した。前回の2018年からはなんと9.0%も減少している。
「インフルエンザお見舞い金」の成功は、この閉塞状況を生保各社が打破できる可能性を示唆した。Webアプリの利便性と、PayPayの持ち前のWebマーケティング力、アイアル少短の機動的な商品開発力などがあれば、若年顧客も開拓できることを示したからだ。
少額短期保険の売り上げが全体の収入で占める割合は少なくても、保険商品の販売で得られた購買データは、住友生命にとって大変貴重なデータになる。今後も少額短期保険の購買データを蓄積していけば、主力商品の「Vitality」などに生かすことができる。
実質賃金も可処分所得も減少し、保険料捻出が難しい時代に
厚生労働省「毎月勤労統計調査」2022年11月分速報によると、従業員5人以上の事業所1人あたりの実質賃金は、前年同月比でマイナス3.8%だった。なんと8カ月連続で減少したという。
その上、岸田政権は防衛増税を打ち出し、国民からさらに可処分所得を搾り取ろうと画策している。自民党の甘利明幹事長がBSテレ東の番組内で消費増税の可能性に言及した後、政権側がすぐに火消ししたことが話題になったが、やはり今の岸田政権は消費増税に向かう野心があるのだろう。
国民が稼いだ額に対して、国に納めた額を測る指標である国民負担率は46.5%(2022年度見通し)にも上る。財政赤字を加味した潜在的国民負担率ともなると56.9%(同)だ。稼いだ金額の半分を国に取られる時代なのである。
厚生労働省の調査によると、2021年度の一般労働者の平均賃金(月額)は30万7400円だった。ここから税金や社会保険料、家賃や水道光熱費などをひかれた上で手元に残る金額は、わずか数万円程度というところだろう。
そうした時代に、月々の生命保険料数万円を支払うことができる国民がどれだけいるのか。生保各社は今後、より厳しい戦いを強いられる。