起業した会社を3.5億円で売却した勝木健太氏は、なぜいま「ソロ起業は現代の最有力の選択肢の一つ」と語るのか

今の日本で「起業」と聞けば、多くの人はまず、ユニコーンを目指すスタートアップを思い浮かべるだろう。巨額の資金調達を重ね、組織を一気に拡大し、IPOやM&Aによるイグジットを狙う。そうしたモデルが、長らく起業の「王道」として語られてきた。だが、変化の激しい現代では、その重さこそが身軽さを奪い、かえって失敗のリスクを高めてしまう場面も少なくないのではないか。そう指摘するのが、自ら立ち上げた会社を3.5億円で売却した経験を持つ勝木健太氏だ。勝木氏が提唱するのは、社員を抱えずに大企業並みの利益を生み出し、個人の手取りを最大化する「ソロ起業」という新たな選択肢である。「実は、ソロ起業は大企業に勤めるエリートサラリーマンほど相性が良く、工夫次第では社員ゼロでも営業利益1億円規模を狙うことができる」と勝木氏は語る。いったい、ソロ起業とはどのような働き方なのか。その具体像と、背景にある考えを聞いた。全2回の第1回。
目次
メルカリをもう1社つくるより、営業利益3,000万円のソロ起業家が100万人生まれる日本へ
これまで「起業」といえば、大規模な資金調達を行い、組織を一気に拡大し、最後はM&AやIPOでイグジットする。そんなパターンが典型例として語られてきました。そこに登場する起業家もまた、「たたき上げ」の物語を背負い、起業で一発逆転を狙うギャンブラーのような存在としてイメージされてきたのではないでしょうか。
しかし、ここ数年の起業のトレンドは、少しずつ「エリート化」してきています。象徴的なのが、東大生によるAIの受託開発会社でしょう。いまや起業は、エリートにとってごく自然な進路の一つとして定着しつつあり、「世界を変えるサービスを必ず生み出す」といった大きな野心を前面に掲げる人は、むしろ少数派になりつつあります。
ただ、それもまた、時代の流れとしてはごく自然な変化なのだろうと思います。
1兆円規模の企業が生まれても、その恩恵の大半は創業メンバーやVC(ベンチャーキャピタル)などの投資家に集中してしまいます。たとえメルカリのような優れた企業が、さらに3社、5社と立ち上がったとしても、それだけで日本経済全体が劇的に良くなるとまでは、なかなか言い切れないのではないでしょうか。
そう考えると、私たちが本当に目を向けるべきなのは、ごく一握りの超富裕層を増やすことではありません。一人ひとりの手取りを着実に増やし、その積み重ねによって経済全体を底上げしていくことではないでしょうか。営業利益3,000万円クラスのソロ起業家が100万人生まれるほうが、よほど現実味がありますし、そのほうが結果として、日本経済をより健やかに、そしてしなやかに強くしていくと、私は考えています。
社員ゼロで「大企業並みの営業利益」を生み出す、ソロ起業のカラクリ
ここで言う「ソロ起業」は、従来のフリーランスやスモールビジネスとは少し趣の異なる働き方です。社員を一人も雇わず、自分ひとりでビジネス全体を設計し、動かしていく。そんなスタイルを指しています。
組織を徹底的にスリムにすることで、いわゆる会社組織につきものの人間関係のストレスから、自然と距離を置けるようになります。これこそが、ソロ起業ならではの大きなメリットです。
ソロ起業家は、「一人で働くこと」そのものを恐れていません。むしろ、従業員のマネジメントや終わりのない調整業務に追われるくらいなら、身軽さを武器に、自分の強みを最大限発揮できる仕事だけに集中したいと考えているのです。
その身軽さを支え、事業をスケールさせていくうえでの鍵になるのが、テクノロジーの活用です。たとえば、米国発の巨大プラットフォームを上手に使い、そのアルゴリズムの仕組みを理解したうえで戦略に組み込んでいく。さらに、AIを「社員」のように使いこなし、必要な業務は外部パートナーに委託することで、一人であっても大きなビジネスを回せる体制を整えることができます。
こうした工夫を重ねていけば、一人でビジネスを回しながらでも、大企業に匹敵する営業利益を狙えるようになるのです。
AIがビジネスの前提を塗り替えるいま、ビジネスの世界で生き残るために本当に大切なたった一つのこと
何よりも強く伝えたいのは、「身軽でなければ生き残れない」という、驚くほどシンプルな現代の生存法則です。