30年前480円だったミラノ風ドリアが今、300円なのはなぜか。「サイゼリヤのおいしすぎる戦略」

1999年、サイゼリヤは人気No.1メニュー「ミラノ風ドリア」を480円から290円(現在は300円)へ大幅値下げした。売れ筋商品をあえて値下げし、原価率上昇と客単価下落を受け入れながら販売数量を3倍近くへ伸ばした背景には、客に組み合わせの楽しさを提供する創業者・正垣泰彦氏の計算があった。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が、看板商品「ドリア300円」を軸とした同社の価格思想と自社工場による計画生産の仕組み、そして客数で稼ぐビジネスモデルの真価を解き明かす。
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サイゼリヤが「すでに評価された480円」を手放した理由
480円でよく売れていた料理を290円にする。1999年、サイゼリヤが値下げしたのは、当時最も人気のあったミラノ風ドリアだった。商品の中身は変えずに190円を引いた。同社の沿革によると、販売数量は3倍近くに増えた。
売れ筋なのだから、そのままの値段で売ればよかったはずだ。会社は、この値下げで原価率が上がり、客単価も下がったと記している。原価率とは、売上高のうち材料費などが占める割合だ。数字が悪くなることを承知で、すでに客が認めた480円を手放した。値上げに耐える商品を探す経営とは、向きが逆である。
現在は税込300円。ターメリックという香辛料で色づけした黄色いご飯に、ホワイトソースとミートソース、チーズを重ねて焼く。従業員のまかないから生まれ、1983年に商品になった。サイゼリヤは公式サイトで、今もこの料理を「人気No.1」と紹介している。
300円でどうやって利益を出すのか。米や牛乳の仕入れ値が気になるところだが、創業者の正垣泰彦が語った安さの理由は、食べ方にあった。
1皿で予算を使い切らせないための価格設定 サイゼリヤが主食「ミラノ風ドリア」を安く据える意味
2009年の『週刊ダイヤモンド』のインタビューで、正垣はイタリア料理の楽しさを、料理やワインを組み合わせることだと説明した。値段を気にして好きなものを組み合わせられなければ、その楽しさを味わえない。「だから単価は安くないとダメだ」と語っている。1皿で予算を使い切れば、サラダもデザートも諦めることになる。正垣の目指す食卓には、それらを足せる余地が必要だった。主食が安ければ、残りの予算を何に使うか選べる。ドリアだけで食事を済ませる自由も、もちろん客にある。
小売業の「アフォーダブルプライス」という言葉が、この価格の考え方をよく表している。外食記者の千葉哲幸は、業界媒体『RESTA』で、原価や相場とは関係なく、気にせず買える絶対的な低価格と説明している。質や手間に照らして納得できる、というリーズナブルな価格から、さらに踏み込む。店の事情を理解してもらわなくても、客が普段の財布から払える額に置く。競合の値上げを横目に、それより少し安い値札を出すだけでは、客の予算に収まらない。
所得も家計の事情も違う。ここでの「絶対的」は、万人共通の金額があるという意味ではなく、よその値札との比較を離れ、実際に支払う額を見るという意味だ。480円で売れたという実績に満足せず、290円へ下げた判断が重なる。安く大量に作る技術も、最初からあったわけではない。1997年に最初の自社工場を動かした際は、生産技術に不慣れでトラブルが相次いだ。会社の沿革には、発売から数週間で販売中止になった商品もあったと残されている。店で料理を作る腕と、工場を動かす技術の間には、それだけの距離があった。