AIブームの「電力需要」で急浮上。独立系電力会社イーレックス(9517)の成長戦略を分析
電力自由化と同時に参入し、創業26年。燃料調達から発電・トレーディング・小売まで一気通貫で手がける独立系の電力会社、イーレックス(9517)。
2024年3月期には大幅な赤字を計上しましたが、そこからわずか2年でV字回復。直近の2026年3月期は営業利益75億円と2期連続で計画を超過しました。
次の一手は、AI時代の電力需要を捉えるバイオマス発電と蓄電池、そして国内と東南アジアを舞台にした「e連鎖モデル」。この会社が描く成長ストーリーを分析します。

※記事とあわせて、動画でもわかりやすくご覧いただけます。
KEY POINTS
- 燃料調達から発電・トレーディング・小売まで一気通貫。独立系ならではの機動力で価格変動のリスクを分散しやすい収益構造を持つ
- AI・データセンターの急増で電力需要が再拡大。バイオマス発電の「24時間安定×脱炭素」という特性がAI時代のニーズと合致
- 東南アジアで再エネ発電→カーボンクレジット創出→国内販売→海外再投資という「e連鎖モデル」で国内外の成長を循環させる
一気通貫モデルが生む「価格変動に強い」収益構造
イーレックスの最大の特徴は、電力ビジネスの川上から川下までを自社で手がける「一気通貫モデル」にあります。
多くの新電力会社が販売に特化する中、同社は燃料の調達、バイオマス発電所の運営、電力トレーディング、法人・個人への小売まで、すべてのプロセスを自社グループで展開しています。

この構造が生む最大のメリットは、価格変動のリスクを分散しやすい点です。燃料価格が上昇した局面でも、発電・トレーディング・小売のプロセス全体で最適なバランスを取れる体制を整えています。どこの大手グループにも属していない独立系であるため、特定の資本関係にとらわれず幅広いパートナーと連携できる点も強みです。
連結従業員数は約302名。その規模で売上高約1,691億円を叩き出す少数精鋭の体制が、この一気通貫モデルを支えています。

赤字199億円からの完全復活——2期連続計画超過の現在地
直近の2026年3月期の業績は、売上高1,691億円、税引前利益90億円。当初計画も修正計画も両方を上回る着地となり、その前の期に続いて2期連続で計画を超過しました。
この結果を語る上で欠かせないのが、2024年3月期の大幅赤字です。電力調達コストの上昇を受け、同期は税引前利益が約199億円の赤字という厳しい結果となりました。しかし同社はこれを教訓に、電力調達の仕組みを根本から見直し、組織体制を刷新。大手にはできないスピードで動けるのが独立系の強みであり、その機動力が短期間での回復を支えました。
2015年度の税引前利益が約16億円だったことを考えると、13年で約9倍を目指す成長軌道に乗りつつあります。

AI時代の追い風——電力市場が成長フェーズへ
電力需要はかつて、省エネ機器の普及や人口減少によって縮み続けると予測されていました。ところがAIやデータセンターの急増が、その前提を覆しました。電力広域的運営推進機関の需要想定(2025年度)によると、AI需要の拡大を背景に電力需要は2030年代にかけて増加が見込まれています。
国内電力市場は2025年時点で約20兆円規模。AIによる電力需要の拡大が見込まれる今、電力市場は成長フェーズを迎えています。また、国が再エネを大規模に導入する方針を打ち出す中、蓄電池やバイオマス発電の価値が高まりつつあります。そこに、イーレックスの成長戦略が重なってきます。

成長戦略①:太陽も風もいらない再エネ、バイオマス発電の強み
AI・データセンターが求める電力の条件は「脱炭素・24時間365日の安定供給」という、非常に難しいものです。太陽光は太陽が出ていないと発電できず、風力は風がないと止まる。天候に左右される再エネでは、データセンターの安定稼働を支えられません。
ここにイーレックスのバイオマス発電が活きます。木材の端材やパームやしの殻といった植物由来の燃料を使って発電するバイオマスは、24時間365日、天候に関係なく安定して発電できます。また、植物は成長過程でCO2を吸収するため、燃焼時に放出されるCO2と相殺され、カーボンニュートラルな電源として認定されています。

2026年には新潟県のバイオマス発電所112MWが「長期脱炭素電源オークション」で落札されました。国が20年間にわたって初期投資や固定費などをカバーしてくれるこの制度は、事業リスクを大きく低減します。
さらに同社は、新潟だけでなく既存の国内バイオマス発電所近隣へのデータセンター誘致も検討しており、バイオマス発電とデータセンター、蓄電池を組み合わせる世界的なトレンドにも対応できる体制を整えています。

また2026年4月には蓄電池事業の商業運転も開始。再エネが増えるほど重要性が高まる需給調整(アグリゲーション)機能を持つことで、電力供給の安定性をさらに高めています。
イーレックスはこのアグリゲーション事業を今後の重要な収益の柱と位置づけており、バイオマスの安定供給力と組み合わせることで、データセンターが求める電力をより完全な形で届けられる体制を目指しています。
成長戦略②:e連鎖モデルで国内と東南アジアをつなぐ
もうひとつの成長エンジンが、東南アジアを舞台にした「e連鎖モデル」です。海外で再エネ発電によりカーボンクレジット(JCMクレジット等)を創出し、それを国内の脱炭素ニーズに接続して収益化し、その収益を再び海外事業に投資する——この循環こそがイーレックス独自の成長モデルです。
東南アジアは電力が慢性的に不足している一方、バイオマスの原料となる植物資源が豊富で、イーレックスが国内で長年かけて培った燃料調達と発電のノウハウをそのまま活かせる環境があります。東南アジアの電力市場規模は約18兆円。しかも先行者として参入できる局面にあります。
ベトナムでは2025年4月、同国初の商業バイオマス発電所が稼働済み。今後18基のバイオマス発電所建設を計画しています。カンボジアでは80MWの水力発電所が建設最終段階で、2027年1月に商業運転開始予定です。カンボジア政府による固定価格での電力買取が35年間保証されており、長期にわたる安定収益が見込まれています。

日本では2026年からGX-ETS(排出量取引制度)が本格始動。企業が脱炭素対応を求められる流れはこれからさらに加速する見通しで、カーボンクレジット需要の急速な拡大が見込まれます。イーレックスはJCMクレジットを創出できる体制にあり、この制度の恩恵を直接受けられるポジションにいます。

中期経営計画では2028年度に税引前利益140億円(うち海外54億円)、2030年には250〜300億円規模を目指しています。
配当維持+株主優待新設、株主還元の姿勢

2026年3月期の配当は1株あたり22円。今期も22円の配当維持を宣言しています。不確実な環境でも株主への還元を守る姿勢は、投資家への誠実さの表れといえます。
さらに2026年5月からは株主優待制度も新設されました。300株以上保有の株主を対象に、グルメや電化製品など5,000種類以上の商品と交換できるポイントを年2回進呈します。配当維持と優待新設を同時に実現した今期は、個人投資家層への訴求という観点でも積極的な姿勢を示しています。
変化の真ん中にいる独立系電力会社
AI時代の到来により、電力市場は成長フェーズを迎えています。その変化の真ん中で、バイオマス発電という安定した再エネ基盤、アグリゲーション(蓄電池事業)という新しい収益モデル、そして東南アジアを舞台にしたe連鎖モデルという三本柱を持つイーレックス。
もちろんリスクも存在します。燃料価格や電力市場の変動、中東情勢などの地政学リスク、そして海外事業はまだ投資フェーズであり、収益化には時間がかかります。
それでも、1999年の創業以来26年にわたって市場で戦い続けた独立系企業としての機動力と、国内外にまたがる一気通貫の事業基盤は、同社ならではの強みです。電力という巨大市場が再び動き出す今、その波を最も自分ごととして捉えられる位置にいる会社として、中長期的に目が離せない一社です。