利益は過去最高なのに、株価は割安圏の理由は? 130年の歴史を持つインフラ株「日本トランスシティ」(9310)の実力を分析
三重県・四日市港を拠点に、130年にわたって物流を担ってきた日本トランスシティ株式会社(9310・東証プライム/名証プレミア)。倉庫から港湾運送、陸上運送、国際複合輸送までを一社でまるごと手がける、売上高1,255億円(2026年3月期)の総合物流企業です。

2026年3月期は、営業利益・経常利益・純利益がそろって過去最高を更新。配当はこの数年で3倍超に増え、会社は「PBR1倍超」を経営目標に掲げています。それでいて株価はいまだ割安圏にとどまっています。
稼ぐ力は着実に高まっているのに、なぜ市場の評価は控えめなのか。公式の決算資料・中期経営計画をもとに分析します。
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KEY POINTS
- 四日市港に根を張る130年の総合物流企業。絶対的な安定基盤
- 2026年3月期は営業利益・経常利益・純利益がそろって過去最高を更新
- 4事業の連携や半導体・自動車関連の経営戦略で好調を維持できるかに注目
- 中期経営計画では総還元110億円超を計画。「PBR1倍超」へ株主目線の経営に
ずっと稼げる会社には、理由がある
「物流会社」と聞くと、トラックで貨物を運ぶ姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし日本トランスシティの事業は、それよりもはるかに幅広いものです。荷物を預かる「倉庫」、港で船の貨物を積み降ろしする「港湾運送」、トラックで運ぶ「陸上運送」、海外とつなぐ「国際複合輸送」——物流に必要な機能を、一社でまるごと担える点が同社の強みです。

売上のいちばんの柱は倉庫業(2026年3月期で541億7,400万円)で、これに国際複合輸送業、港湾運送業、陸上運送業が続きます。4つの事業をバランスよく持っている点が、この会社の土台となっています。
物流の会社は他にもありますが、日本トランスシティが際立つのは130年、四日市港に深く根を張り、4つの事業を一体で拡大してきたことにあります。本拠地の四日市港は、背後圏に石油化学コンビナートや半導体製造工場他、多くの企業が集積する日本有数の産業港。倉庫業ではトップレベルの規模を持ち、海外も11カ国25拠点まで広がっています。
港湾運送の仕事は、拠点や設備、取引先との信頼を長年かけて積み上げてこそ成り立つ事業です。この参入障壁の高さこそが、同社が安定して稼ぎ続けられる理由といえます。
一つの貨物から、いくつもの収益を生む「ベストミックス」戦略
安定しているだけではありません。直近の2026年3月期は増収増益となり、営業利益・経常利益・純利益がそろって過去最高を更新。積極投資や効率改善の積み重ね、収益性の高い貨物の取扱い拡大が奏功しました。
同社が中期経営計画の柱に据えるのが、経営基盤の強化に加え、4つの事業を組み合わせる「業態のベストミックス」戦略です。「倉庫」「港湾」「陸運」「国際」をバラバラに売るのではなく、まとめて提案するビジネス形態です。顧客は手間が省け、会社側は一つの貨物から複数の収益を得られる仕組みです。

会社はこれを「業態軸(4事業の連携)」「貨物軸(危険品・半導体関連など高付加価値の貨物を増やす)」「地域軸(海外も含む事業エリア開拓を強化)」の3つの切り口で進め、グループ全体の利益率を引き上げる考えです。
半導体・自動車という“成長の矢”
とはいえ、日本国内では人口減少が進み、“運ぶ量”が大きく増えるわけではありません。そこで同社が掲げるのが、「量」だけではなく「何を運ぶか」という「質」を上げる戦略です。
カギを握るのが、半導体と自動車です。
半導体の製造には、適切な管理を要する薬品や特殊なガスが欠かせません。これらを運ぶには専門のノウハウと設備が必要で簡単に手がけられる領域ではないため、比較的高収益に繋がるのが特徴です。
同社は危険品倉庫や高圧ガス貯蔵所を稼働させ、四日市港を中心とした半導体関連資材の輸送体制を築いてきました。さらに、三重県木曽岬町では新たな危険品物流拠点の整備も進めています。
自動車部品も、専門性の高さでは半導体に負けません。部品の取扱いに関する専門知識、専用の物流センター、正確に回すための仕組み、そして長年の経験が欠かせない分野です。日本トランスシティは、自動車部品専用の物流センターを関東・中部・九州で運営し、こうしたノウハウを長い時間をかけて積み重ねてきました。
稼ぐ力はある。なのに、なぜ株価は割安圏なのか
では直近の業績を見てみましょう。2026年3月期(連結)の主な実績は次の通りです。
◆ 2026年3月期・連結業績ハイライト
売上高 1,255.17億円(前期比+0.6%)
営業利益 85.48億円(+9.5%)……過去最高
経常利益 94.82億円(+7.7%)……過去最高
当期純利益 65.95億円(+9.2%)……過去最高
ROE(自己資本利益率) 6.9%
自己資本比率 57.9%
1株当たり利益(EPS) 105.52円
年間配当 43円(次期予想 43.5円)
増収増益を実現し、特に利益はしっかり伸びています。
事業別に見ると、港湾・倉庫・陸上運送が増収となる一方、国際複合輸送は商流の変更や海上運賃の下落などで減収に。それでも売上高を伸ばすこととなったのは、4つの事業を持つことで一部の落ち込みを他がカバーできる、という強みが表れた結果といえます。
「自己資本でどれだけ効率よく利益を生んだか」を表す指標であるROEは6.9%。また、自己資本比率は約58%で、自らの体力で稼ぐタイプの健全な財務の企業といえるでしょう。

注目したいのは実行力です。前の中期経営計画(2023-2025年度)では、途中で経常利益の目標を70億円以上から80億円以上へ引き上げ、最終的に94.82億円と目標を大きく上回って着地しました。掲げた計画をしっかり超えてくる姿勢と成長性がうかがえます。
では株価はどうでしょう。
日本トランスシティのPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回る水準にあります。「PBR1倍割れ」とは、ざっくり言えば「会社の純資産よりも株価が安く評価されている」状態のこと。稼ぐ力があるのに評価は控えめ、という状況です。
会社自身もそれを課題ととらえ、明確な目標を掲げています。
新しい中期経営計画(2026-2028年度)では、最終年度に売上高1,400億円、経常利益110億円、ROE8%以上を目標に設定。そのうえで「PBR1.0倍超」を目指すとしています。

今後は、好調な業績を維持しながら、市場からの評価を実力に見合った水準へ近づけていけるかが注目点となりそうです。
株主還元も強化の姿勢 配当は3年で3倍超、自社株買いも
長期保有を考える投資家にとって、最も気になるのが株主還元でしょう。ここ数年の日本トランスシティは、還元姿勢を大きく強めています。
象徴的なのが配当です。利益に対してどれだけ配当に回すかを示す「配当性向」を、約18%(2024年3月期)から40%超(2025年3月期)へと引き上げ。1株あたりの配当額も、2024年3月期の13円から、2025年3月期39円、2026年3月期43円へと増加し、今期予想は43.5円。数年で3倍超という大幅な増配です。

配当方針は、「配当性向40%」か「DOE(自己資本配当率)2.0%」の高い方を目安としています。
自社株買いにも積極的です。2026年3月には10億円を取得・消却済み。さらに今期は、20億円を決議し、取得しているところです。新しい中期経営計画では、自社株買い30億円を目標に掲げ、配当総額の目標80億円以上と合わせて総還元110億円超を計画しています。


また、株主優待は1,000株以上の保有で、三重県産のジェラートやジュースなど地元の味が選べる内容となっています。
安定・成長・還元の三拍子 評価が追いつくかが注目ポイント
最後に、注意しておきたい点もあります。物流は景気や燃料費、為替の影響を受けることもある事業です。「割安だから」だけで判断せず、各期の決算で計画の進み具合を確かめる視点が欠かせません。
そうした点も踏まえ、日本トランスシティを改めて見てみましょう。最大の魅力は、安定と成長、そして株主還元がそろっている点にあります。四日市港に根ざした130年の事業基盤を土台に、営業・経常・純利益はそろって過去最高を更新。半導体や自動車部品といった専門性の高い分野で“量”だけでなく“中身”を稼ぐ戦略を進め、掲げた計画を上回って達成してきた実行力もあります。配当を数年で3倍超に引き上げ、「PBR1倍超」という明確な目標を掲げる姿勢も、株主にとっては心強い材料です。
こうした稼ぐ力や還元姿勢に対して、株価の評価は依然として控えめにとどまっています。今後、好調な業績を維持しながら、市場からの評価を実力に見合った水準へ近づけていけるか。掲げた中期経営計画の目標をどこまで実現できるか。注目していきたい一社といえるでしょう。