米国の異様な韓国不信…日本がアジアの工場になり景気回復する地政学的理由「チャイナ&新興国リスク」

かつてお家芸と呼ばれたものづくり産業が衰退し、世界的な地位が年々低下してる日本。そんな中で経済評論家の上念司氏は、2020年から続くインフレの時代こそ「日本人の時代」だと話す。諸外国を押しのけ、日本が再び“世界の中心”となる日がやってくる理由とは――。全4回中の3回目。
※本稿は上念司著『何をしなくとも勝手に復活する日本経済』(ビジネス社)から抜粋、編集したものです。
第1回:日本経済が「これから勝手に復活する」ワケ…馬鹿マスコミの謎悲観論を完全論破! コロナで日本人が貯めた50兆円に使い道
第2回:見えた日本経済、V字回復!ありがとう安倍晋三 …「ノーパンしゃぶしゃぶ」から始まったデフレについに打ち勝った
日本人は『アリとキリギリス』のアリ
世界は今後40年インフレの時代になる。一方、これからの時代は西側諸国と権威主義国陣営による新冷戦の時代でもある。「新しい世界構造の中で、日本経済はどうなるか、日本の産業はどう変わっていくのか」ということを述べていきたい。
まず大前提として理解したいのは、日本政府ならびに日本銀行は、伝統的にインフレへの対応は得意だが、デフレへの対応は苦手だということだ。いや、デフレへの対応は苦手どころではない。間違った手を打ちまくっていた。
イソップ寓話『アリとキリギリス』で言うと、日本人はアリ的な生き方が極めて得意だ。毎日毎日休みなく、せっせと働く。真面目に働くことで生活の安定が得られると考える。逆に遊びばかりを考え、散財ばかりしているキリギリス的な生き方は、道徳的にも社会的にも許容されない空気がある。
じつはデフレの時代には、キリギリスのほうが正しい。紙幣をどんどん刷って気前よく使ったほうが経済が活性化するし、失業者も少なくてすむ。デフレ時代は「パーリーピーポー(楽しく遊ぶ人たち)」な生き方のほうが、社会全体が活性化して、みんなが幸せになるのだ。
ところがアリ的生き方が好きな日本人は、キリギリスになれない。アリ的に生きるのを美徳と考え、デフレ時代でもアリ的に生きるから、むしろドツボにはまっていく。うまく行かなければ、アリモードをさらに強化する。「こんなに一生懸命やっているのに、なぜこの苦境を抜け出せないのだろう。もっと頑張らなくては!」と悪循環に陥る。
挙げ句、「これは我々が気づかない構造上の大きな問題があるからに違いない」などと、ますます思いつめていく。これでは、いっこうに浮上しない。
ただし世の中が変わり、アリモードのほうが生きやすい時代になれば、日本は大きく伸びる。
実際、1940年代から80年代にかけて、日本経済は黄金時代を迎えた。戦後復興、高度経済成長から石油ショックを克服し、変動相場制への移行、さらにプラザ合意まで乗り切って最後はバブル経済になってしまった。ところが、バブル景気が始まった1980年代後半にはすでに世界経済はディスインフレ、デフレモードに移行していた。
そこで慣れないキリギリスをやっていたら本当に冬が来てしまった。この時の経験は日本人の「アリバイアス」を強化してしまったのではないだろうか? バブルでキリギリスやっていたら酷い目に遭った。だからやっぱりキリギリスではダメなんだ、アリなんだと……。
日本人の意識はいまも昔も変わらない。しかし、1980年代を境に日本経済が突然失速していくのは、外部環境が変わったことに大きな原因があったのではないか?
つまり「日本人はこうすればいい」ではなく、結局のところ日本人は、どんな環境でもアリにしかなれないのだ。
金持ちになってフェラーリを買っても、周囲から「調子に乗っていると足元をすくわれるぞ!」などと揶揄される。それを気にして、堂々と自慢できない。金持ちになっても幸せを感じられないのが日本人。
ならば無理しないほうがいい。アリのまま生きていれば、いずれ世の中がアリにとって住みやすい環境に変わる。それがインフレ時代であり、これからの40年である。
やってきた「日本人の時代」
インフレ時代とアリ的生き方の相性はいい。なぜなら、インフレの行きすぎは経済に悪影響をもたらすからだ。具体的にはモノの値段がものすごく上がり、高すぎて売れなくなる。売れないから、GDPは増えない。つまり物価は上がるのに、GDPが増えない状態になる。これがインフレ時における最悪の展開で、いわゆるスタグフレーション(不況下のインフレ)だ。
何らかの理由で貨幣が過剰供給となり、加えて、何らかの理由でモノの生産力が減退する。怠けて働かないキリギリスではモノ不足は永久に解消できない。キリギリス的な生き方では、うまくいかないのがインフレ時代だ。
逆に、アリ的生き方がうまく行く理由もわかる。
お金が余っている状態なので、せっせとモノをつくらないとモノが永遠に不足する。紙幣を刷って大盤振る舞いするだけでは、モノの生産は増えないし、インフレが進みすぎる。まさに怠けることを罪と感じる人たちに有利な時代なのだ。
このことは2022年の動きを見てもわかる。世界的に7%〜10%といった高いインフレ率になっているのに、日本は12月になっても消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.8%、変動の激しい食料とエネルギーを除いたコアコアCPIなら、わずか2.5%だ。
日本と産業構造が似ていると言われる韓国でさえ、11月は5.7%だった。7月の6.3%からは若干ピークアウトしているが、それでも日本のほぼ倍になる。
アリ的生き方を好む日本人はインフレ率を極めて低く抑えていて、外国ではみなこれを称賛している。早くもアリモードが真価を発揮している。まさに「俺たちの時代」の到来だといえよう。
日本とドイツが再び「世界の工場」へ
外部環境が日本に有利に変わりだした一方、中国は西側諸国からデカップリング(切り離し)されていく。今後は中国の生産力を、どこかの国が肩代わりすることになる。では、どの国でつくるのか。
中国が「世界の工場」になる以前、世界のものづくり大国といえば日本とドイツだった。これに下請けとなる企業やサプライチェーンのある国々が加わる。
いまドイツの下請けとなる企業やサプライチェーンは、旧東ドイツなど東欧地域やイランにまで伸びている。だがこれらの国々は、ロシアとのデカップリングにより、今後は切らなければならなくなる。
一方、日本の下請けやサプライチェーンのある国は、韓国や台湾、さらに東南アジアの新興国となる。東欧地域やイランが切られれば、相対的にアジアの存在感が増してくる。ただし台湾は、中国と軍事衝突する可能性が高い。積極的に投資を行うのは厳しい状況にある。
韓国はどうかというと、どこを向いているかがわかりにくい。アメリカは中国への半導体製造装置の輸出禁止を決めたが、このとき韓国のサムスン電子とSKハイニックスの扱いも問題になった。
中国国内に生産施設を持つ両社への輸出は、当初は禁止することも検討された。「自分たちは中国企業ではない」と高をくくっていた両社は、その事態にかなり驚いたようだ。最終的にアメリカは輸出を許可したが、一度検討された時点で、自分たちの立ち位置を自覚しただろう。
とはいえ今後の振る舞い方しだいでは、韓国企業はアメリカから半導体製造装置を売ってもらえなくなる可能性がないわけではない。サムスンやSKをはじめ、韓国の企業は自国で半導体製造装置をつくる技術を持っていない。アメリカから輸入できなくなれば、半導体の製造部門は完全に終わる。
そうなると残るは、日本と東南アジアの新興国しかない。つまりドイツと日本、さらに東南アジアの新興国が「世界の工場」になっていくわけだが、新興国にはリスクがある。2022年の欧米の利上げによって、2023年は新興国で経済危機が起こるリスクが高い。
アメリカの金利が上がれば、投資家はアメリカ国内で運用しても十分なリターンが得られる。無理してリスクのある新興国に投資するより、アメリカの債券で買って安定的な資産運用をしたほうがいいからだ。
その結果、新興国に投資していた資金の一部がアメリカに戻ることになるが、それは新興国にとっては資金不足を意味し、経済的にはかなりのダメージになる。1980年代の南米債務危機、1997年に始まるアジア通貨危機、2010年に始まるギリシャ危機などは、すべてアメリカの利上げに起因する。
経済危機は、利上げから少し遅れて発生するものだ。アメリカが本格的な利上げを始めたのは2022年3月だから、1年後の2023年3月頃から起こる可能性がある。そうなると東南アジア諸国は下請けも含め、ものづくりどころではなくなる。日本は自国で生産するしかなく、日本のものづくりにとっては、さらなる追い風となることも考えられる。
ちなみに現在の日本の貿易収支も赤字で、資金が海外に流出している。ただしこれは、わざと出しているものだ。国内に有望な投資先がないから経常収支で儲けた資金を全部、海外に投資しているに過ぎない。対外純資産も日本は世界一で、東南アジアで起ころうとしている経済危機とは無関係だ。
新興国に経済危機が迫っているのは、東欧諸国も同じだ。東欧諸国はアメリカの利上げに加え、ロシア・ウクライナ戦争の影響もある。やはり経済的苦境に陥る危険があり、ドイツも自国での生産を増やすことになるかもしれない。
1970年代には世界中のものづくりを日本とドイツが担っていた。再びあの時代が戻ってくると私は思っている。
